宇宙人との出会い
「あーあ、見たかったのにな。流星群。」
つぶやいて空を見上げる。曇りない夜空には青や赤の小さな星の光。
私は今まで流れ星を見たことがない。
願いをかけるチャンスもなかったってことだ。
だから楽しみにしていたのだけど。
今日も私が願い事をできなかったのは運がなかったからじゃない。
天気のせいでもない。
私の横にいる少年のせいだったりする。
「ごめん。だって、トウキョウの空は狭いって聞いていたから。」
少年はすまなそうな顔で私を覗き込む。
トウキョウの響きが、外国の人の発音を思わせた。
彼の目は濃い青で、見上げた夜空に似ていた。
街の光が多すぎてとても漆黒の夜空とは言えないそれに。
少年と出会ったのは3日前の朝。
愛犬アリスとの散歩中の信号待ちのことだ。
私の犬に気付いた彼はギョッとした表情を浮かべた。
苦手なのかな?と思ったのだが違ったようで。
「こ、これ、イヌ…ですよね?」
「え?はい、犬ですけど。」
「触ってみてもいいですか?」
「いいですよ。」
恐る恐るアリスに触れる手は震えている。
なんだか見ているこっちまで緊張してきた。
頭から尻尾までひとなですると小さく息を吐いたのが聞こえた。
「犬、苦手なの?」
14歳くらい?髪は黒いけど肌は真っ白だしハーフかな?
少年の外見から想像をふくらませる。
「苦手っていうか、初めて見たから。」
「………。」
えーっと。少しおかしい子なのかな?それともものすごく箱入り息子で、一人で外出は初めてとか?
一瞬で脳内にはいくつかの考えが浮かんだけど、どれも外れていた。
「僕、宇宙人なんだ。」
「あ…。そ、そうなんだ?」
「うん。だからイヌも情報では知っていたんだけど、やっぱり実際に見ると違いますね。」
にこやかにそれだけ言って、信号が青に変わり少年は走っていってしまった。
近ごろの子はよくわからないな。というのが感想だった。
あと、綺麗に笑う子だな、と。
そのまま私も帰宅をして、アリスの足を洗いベットへ潜り込む。
一ヶ月前にある出来事があってから、私は引きこもり気味だった。
最初の一週間はご飯を食べることも億劫で体を丸めてやり過ごした。
それでも私の身体は私の意思に反して、この身体を守るために空腹を訴える。
それにさえ苛立ちながらも暴力的な空腹感には耐えられずに食パンをかじった。
そしたらすごく美味しくて、バターも何もつけていない、コンビニで買っておいた何ともないそれがあまりに美味しくて泣けてきた。
子供のように声を出して涙を出して、枕を壁に何度も投げつけて疲れて眠る。
そうして起きた頃には少し気分も良くなって昨日の自分がバカバカしく思えたり恥ずかしく思えたり、愛おしく思えたりしていた。
生活を立て直さなくちゃ。
いつまでも悲しみや怒りや後悔に浸っていたい気もするけれど、それだけが全てではないもの。
とにかく外に出ることから始めようとアリスの散歩を朝に必ずすることにしていた。
以前は夜や昼や夕方だったりしていたが、今の私には街行く人たちを見ることが嫌だと感じたから。
早朝の空気は優しく静かだ。
何も拒まない。干渉もしない。ただ隣にいてくれる。そんな雰囲気がとても好きだ。