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7

晃と別れて家に帰宅する。

鞄から鍵を取り出し、ドアの鍵口に差し込む。

そこで違和感を感じた。

ドアの鍵が空いていたのだ。

僕は警戒しながら黒色のドアノブに手をかけた。

そのまま玄関を覗くといつもは綺麗に並んでいる靴が一足だけが散らばっていた。


「誰かいるの?」僕は玄関に足を踏み入れながら言う。


「おお、お帰り」


僕の声に反応して居間の方から返答が聞こえてくる。

その声は兄の陽平のものだった。


「あれ、今日は部活はないの?」


そう言いながら靴を脱ぎ、居間に向かう。

陽平は高校二年生で剣道部に所属しており、いつもなら帰宅は日が沈む頃である。

陽平は居間のソファーで横になっていた。


「お前は今日、中学の入学式だっただろ?ということは同じく高校も入学式なわけ。よって、今日はお休み」陽平は僕を一瞥しながらどこか面倒くさそうに話す。


「ああ、そういえばそうだ」


少し考えれば分かることだった。

僕はカーペットの敷かれた床に腰を降ろし、ソファーの前にある卓袱台の上にカバンを置いた。


「どうだったよ?」唐突に陽平が僕に訊ねる。


「何が?」


「入学式だよ」


その問いに僕は一瞬だけ水瀬奏の顔を思い出した。

だが、それを口にする気にはなれなかった。

少なくとも、陽平にそんなことを言うと変な勘違いをするに決まっている。


「……まあ、普通だよ」僕はそう言って卓袱台の隅っこにあったテレビのリモコンに手をかけた。


「何だよ、普通って。もっと何かあるだろ?例えば、可愛い子がいたとかさ」


「兄貴……そんなこと言ってると彼女に言いつけるよ」


陽平は変なところで勘が鋭い。

このまま続けるとその話題は僕に不利になると思い、僕は咄嗟に陽平の彼女を話題に引っ張り出した

しかし、陽平はまるで気にする様子を見せない。


「今のあいつは脳みその全てが剣道一色だから、一々そんなこと気にしないよ」


陽平の彼女は同じ高校の剣道部に所属している。

詳しくは知らないが、話によると生真面目で不正な行為を嫌い、何から何まで自分でこなしてしまう完璧主義者。

そのうえ剣道も男勝り。

おまけに美人だそうだ。

なぜ陽平にそんな彼女がいるかというと、曰く「剣道に関しては俺の方が強いから」だそうだ。

陽平は何から何まで中途半端であるが剣道だけは凄い。

中学では個人で全国経験があり、幾つもの高校から推薦があった。

しかし、陽平はそれを全て断り、家から一番近い公立校に入学してしまった。

理由を問うと、「団体戦に興味はないし、俺がどこにいこうとも勝つことには変わりない」だそうで実際、去年も個人で全国出場を果たしている。

両親はそんな陽平を鼻高々に自慢している。

僕もまたそんな自信に溢れる陽平が自慢でもある。

だが、それと同時にコンプレックスでもあった。

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