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校舎の中に入ると、既に何人もの生徒達が我先にと教室に向かっていた。
僕の教室は三階にあったはずだ。
面倒くさい気持ちを抑えながら仕方なく階段を上り始めた。
ホコリ臭い校舎をゆっくり上っていく。
天窓から射し込む春の陽光が暖かく僕を包む。
自然に心と体が軽やかとなり、階段を上る速度が早まる。
だが肩に背負っているカバンが階段を上るにつれ、段々と邪魔になっていく。
これから、毎日この階段を上る。
そう思うと少しばかり憂鬱だ。
三階は不自然なくらいに静かだった
確か、僕のクラスの三組以外、どのクラスもこの階を使用していないはずだ。
そのまま廊下の一番先にある、自分の教室に向かう事にした。
廊下の途中には使われていない教室と窓ガラスが等間隔で並び、窓の外では綺麗なピンクの花びらが舞っているのが見える。
教室に近づくにつれ、心臓の鼓動が早くなっていき、手は汗で湿っぽくなってきていた。
我ながらわかり易いくらいに緊張している。
僕は苦笑いを浮かべながら深呼吸をし、胸に手をあてる。
緊張した時は、こうしろと死んだお婆ちゃんがよく言っていた。
実際、こうすると多少落ち着く。
「よし……」
僕は決心し、重い教室の扉を開いた。
中にはいると、六列のごとに机が幾つか並んでいた。
その上にはカバンなどの荷物がいくつか点在しているが、生徒の姿は何処にも見られない。
教室を間違えた分けではないようだ。
でも、誰も居ないのはどういうことなのだろうか。
少しばかり気にはなったが取りあえず荷物を置いてから考えることにした。
黒板には白いチョークで座る席順などが丁寧な字で書かれている。
僕の席は一番後ろの窓際のようだ。
運が良い、そう思いながら僕は後ろの席を目指した。
歩くたびに木造の床が軋む。
並んでいる机を注意深く見ていくと、どの机も使い込まれた古いものばかりだった。
その上、どうも埃っぽい。
咳払いをしながら僕は自分の席にカバンを置く。
すると窓際の薄い緑色のカーテンから仄かに甘い風が吹いている事に気がついた。
どうやら、窓が開いているようだ。
僕はカーテンをそっと掴み開いた。
外の景色は実に美しいものだった
グラウンドが一望でき、周辺には桜の木が幾つも並んでいる。
薄い桃色と白い桜の花びらが宙を舞い、風がそれを遠くへ運んでいく。
遠くには小さな山々が腰を据えている。
鳥の囀りが僕の耳に優しく語りかける。
長閑で清らかな風は僕の心を洗い流してくれているかのようだ。
僕はしばしの間この美しい風景に心奪われていた。
そんな時、後ろから扉の開く音が聞こえてくる。
僕は慌てて、その音のする方を振り向いた。