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僕はどこに行きたいのか、誰と会いたいのか、何をしたいのか、退屈な授業を聞き流しながらそのことをずっと考え続けた。
答えは自分が思っているよりも早く導き出せた。だが、それを僕は否定して、別の回答を求めた。
僕にもう少しだけ勇気があれば、これほど悩むこともなかっただろう。
ため息が自然と口からもれる。気がつけば終業のチャイムも鳴り終わり、部活に行くもの、自宅に帰るもの、各々がそれぞれの準備を始めている。
晃の姿もいつの間にか教室から消えていた。いつも通りだ。
やがて閑散とし始める中、僕は椅子から腰を上げられずにいた。
どうしたものか、と悩んだまま動けない。
僕は自分の浅ましさのために他人の期待を裏切ってしまった。
何度も何度も、嫌になるくらいに。
ため息も癖になるほど吐き出した。
けれど、本音はいつまでも吐き出せない。
僕が悪いのだろうか、僕がいけないのだろう。
心の軸がいつまでも落ち着かずぶれている。
死んだお婆ちゃんがよく言っていた。
ぐだぐだと不毛な考えを巡らせ、決心を鈍らせているのは当の本人のせいだ。
誰も手を差し伸べてはくれない。皆、自分のことで精一杯。
だから誰かがいつか助けてくれると希望的観測をしていると最後に待っているのは優柔不断な泥沼の海。
自力ではいあがらなくてはどこまでも沈んでいってしまう。
昔、その言葉を聞いたときはよく分からなかった。
困ったことがあれば母さんも父さんも助けてくれた。
陽平ですらいざとなれば僕を庇ってくれる。
それがいつまでも続くと思っていたからだ。
でも、そんなの有り得ない。
手のかかる「子ども」でいていいのは短い期間のうちだけ。
それに気がついたのは僕と陽平にうめられない差があると気がついた時であると同時にお婆ちゃんが死んだ時だった。
何もできない僕はただ泣くだけ、陽平は泣かなかった。
親族が慰みの言葉を吐きかけても、白くなったお婆ちゃんの顔をまじかに見ても、火葬場から沸き立つ臭いを嗅いでも、ボロボロの白骨を見ても、陽平は泣かなかったのだ。
僕にはそれが理解できなく、ただ遠い存在にしか見えなかったのを覚えている。
また、ため息をつく。
思い出に耽る余裕があるだけ僕はまだマシなのだろう。
自分の頭を軽く小突き、椅子から立ち上がる。
鞄を持ち、教室から出ていく。
そして、僕はあの異臭が漂う美術室に向けて歩きだした。