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ふと、隣でガサガサと音がするに気が付き、僕はそ気になって隣に視線を移した。
視線の先にはひとりの女生徒がプログラム用紙を使って紙飛行機を作っていた。
整った顔立ちで目元に小さな黒子がある。僕より背は少し高く、肌はかなり白い。
長い黒色の髪の毛は一本一本が艷やかで根元から毛先までおさまるまとまり感を持っているのが見ているだけで分かった。
しなやかな手がゆっくりと紙飛行機を完成させていく。
なぜだか、その光景に僕は別の世界に引きずり込まれていくような感覚を覚え、すっかり釘づけとなってしまっていた。
すると「何か用?」と透き通った鈴のような声が僕の耳に届く。
それが、あの女生徒の声だと気づくのに時間がかかった。
それほどまでに、僕は彼女の姿に見惚れてしまっていたのだ。
彼女の手は止まり、作りかけの紙飛行機が優しく握られている。
「いや……何でもないよ」僕はそう答えるので精一杯だった。
すろと彼女は「そう」とそっけなく言うと、また手を動かし始めた。
僕は心の中で胸を撫で下ろした。
まさか、声をかけられるなんて思ってもみなかった。
今の行動で彼女は僕をどう思っただろうか。
きっと、変な奴と思われたに違いない。
考え始めると、どんどんと悪い方向に考えが進んで行ってしまう。
出来ることならば、今すぐにでも体育館から飛び出して何処か遠くへ消えてしまいたい。
そう思わずにはいられなかった。
僕が内心、気恥ずかしさのあまり悲鳴を上げているさなか、体育館中から拍手が鳴り響いていた。
僕はその音によって現実に引き戻された。
とりあえず、僕も周りに合わせて拍手をしておく。
横目に見た隣の女生徒は相変わらず紙飛行機をさわっていた。
「それでは、指示に従って体育館の外に出て下さい」
舞台の端に立っていた男性教員がマイクを通して全員に指示をだす。
先ほどまでの静けさが嘘のように騒がしくなり、各々の列で指示された順に体育館の外に出ていく。
僕の隣に座っていた女生徒も立ち上がり、指示に従って外へ出て行った。
その姿は凛として、綺麗に輝いて見えた。
僕はその姿に大きなため息をついた。
「やっと、終わったなー」先まで、ずっとボヤいていた晃が元気に言う。
「うん……」
「何だよ、元気ないな。腹でも痛いのか?」
「気にしなくていいよ。いつものマイナス思考が出ただけだから」
僕はそう言って女生徒の座っていたパイプ椅子を見た。
椅子の上にはプログラム用紙で作られた紙飛行機がそっと置かれていた。
僕は無意識のうちに紙飛行機に手を伸ばしていた。
「何してるんだよ、置いてくぞ?」晃はそう言いながら、既に出口の方に向かっていた。
僕はその言葉に煽られ、急いで紙飛行機を手に取って晃の背中を追った。