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何ごともなく日々は淡々と過ぎていった。

劇的な変化など何もないありふれた日常の連続が僕に与えるものは環境に対する慣れと飽きだけである。

そろそろ夏の足音が聞こえてきているせいか、教室での話題は夏休みのことばかり。

晃との会話もまた言うまでもなくそれでもちきりだ。

「結局、夏休みも部活あるし学校に行かなきゃならないのがな……」

ボヤキながら晃は後頭部を掻いた。

晃が陸上部に入部してからはお互いに時間もズレてしまい、まともに会話するのは今のような昼休み時くらいだ。

「好きでやってんだし文句言うなよ」

「そんなつれないこと言うなよ」

この話題は何度目だろうか。思わずため息がでてしまう。

他に話題はないのかと問いたくなるが、時間のズレは自ずと話題のズレを生むものだ。

僕が家に帰宅する間、晃は他の部員たちと共にグラウンドを走り回る。

「今日の練習は疲れてたな」などと部員同士で愚痴を言いながら笑いあう姿が容易に想像できる。

練習中に起こったハプニング、先輩に対する不満、そういったものが自然と話題の中心となっていく。

僕には理解できない話ばかり。

僕らはどんどんズレていく。

いつもは一緒に歩いた騒がしい帰路も今となってはすっかり静かになった。

学校でのわずかな共有時間だけが僕らを繋ぎとめている。

そうなれば僕らの会話もパターン化しはじめる。

厳密に言えば同じものではない。だが、それは本当に微妙な差でしかないパターン。

それは仕方ないといえばそれまでだが、僕はほんの少しの寂しさを感じてならなかった。

僕らはいつも近くにいた。今も晃はすぐそばにいる。

けれど、僕らの距離は少しずつ確実に遠のいている。

それは物理的距離ではない。心の距離。

きっと晃もそれを感じているのだろう。

「そういや、美術部は夏休みにはないのかよ?」ふと思い出したかのような口調で問いかけてくる。

途端にタイミング良くチャイムが学校中に響き渡り、騒々しい教室に教師という鎮静剤が投与される。

晃も会話を切り上げ、早々に自分の机に戻っていく。

きっとあのまま会話が続いても僕は答えられなかった。

あの日以来、僕は一度も放課後の美術室に足を踏み入れていない。

何度も踏み入れようとしたが寸前になって躊躇してしまうのだ。

美術室の扉を開ければあの作りものの笑顔が僕を待ち構えているようで怖かった。

もちろん、そんなことはあり得ない。

あの日を境に水瀬奏では一度たりとも僕の目の前に現れていない。あの小さくなっていく背が最後の姿。

だからそれは僕の滑稽な妄想にすぎないのだ。




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