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一人きりの部屋はまるで鎮静剤のように僕の激情を青々しい穏やかな色に変えていく。

怒りはすぐに消えた。残ったのは陽平の言葉と惨めな劣等感。

本音を語るのが怖くて仕方ない臆病者。

ベッドの上に置かれた枕に顔をうずめる。

枕はこんな僕でも何も言わず受け入れてくれた。

途端にため息がこぼれる。

陽平は僕の行動が煩わしいのだろう。

僕もまた陽平が煩わしい。

僕らはとてもよく似た存在であるというのに、どこまでも遠くに離れた場所でお互いを覗いてる。

近づかなければ真実は見えてこないのに二人ともそれを見るのが怖くてたまらない。。

その癖、お互いが気になって仕方ないのだから救いようがない。

それでも僕はわざと言い訳し、陽平から離れようとしてばかりいる。

近づけば近づくほど僕という存在が陽平に消されてしまうのではないか、と不安になるからだ。

ありうる話だ。

僕が出来ることは陽平にも出来る。けれど陽平に出来ることは僕には出来ないものばかり。

僕らは決してイコールでは結ばれない。

それは僕らを知る全ての人間が理解している事実だ。

事実であるが故に苦しみがどこまでも、それこそ永遠に続いている道のように見える。

十二年という歳月は刻んできた軌跡。その軌跡の先には常に足跡がついている。

その足跡は力強く、大きく、そして揺るがない。

ふと自分の足跡を見てみると、もう何も言えなくなる。

僕はあとどれ程の時間を歩むのかは分からない。

けれど僕の先には必ずあの足跡がつきまとうことだろう。

いや、それを追いかけていくのだろう。

周囲がそれを望む。僕の望まぬ道を彼らは望むのだ。

そんな押しつけなど、ごめんこうむりたい。

僕は僕だけでありたいのだ。

陽平でも陽平の影でもない。

僕という存在。

そのために僕は本音を偽り、常に笑みと親切心の塊でいることに決めた。

自ずと僕は今の僕を獲得した。

誰にでも優しく、気さくで、人のために喜んで行動する。

遅刻もしなければ宿題も忘れない優等生。

これが僕。本物の僕なのだ。

枕から頭を浮かす。

部屋の一番奥には古びた竹刀が一本たてかけてある。

ベッドから立ちあがりそれを左手で掴む。

柄の感触はまだ覚えている。

少し緩んだ黄色い弦をはじきながら、部屋に備え付けられているクローゼットの前まで連れていく。

すぐさまホコリ臭いクローゼットを開き、竹刀をそこに放り込む。

今まで何度もしようとしてきた昔の僕への決別。

踏ん切りをつけるには丁度良い。

一瞥もせずクローゼットを閉め、机に向かう。

ライトを点けて教科書を広げる。

数式と計算が頭の中で何度も繰り返す。

それでも脳の片隅にはあの竹刀が深々と突き刺さっていた。

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