17
「そういえば、部活は何を選んだんだよ」
ふと思い出したような口調で陽平は尋ねてきた。
正直に言えばあまり答えたくない質問だった。
はぐらかすのも悪くない。
けれど、それは僕自身が負い目を感じてるという確かな証拠に他ならない。
認めたくない事実を受け入れるのは煩わしいし、惨めになるだけだ。
僕は何も間違っていない、と言い聞かせる。
「美術部だよ」
「美術?」
案の定、陽平は眉をひそめ怪訝さを隠そうともしなかった。
分かっていたことなのに、それが現実になると僕も不愉快になる。
「何で剣道にしなかったんだよ」
当たり前のごとく言及が飛んでくる。
僕はそれをぞんざいに返した。
「僕が剣道嫌いなの知ってるでしょ? わざわざ嫌いなもの続けても仕方ない」
わざと嫌いという憎たらしい言葉を選んで告げたのはちっぽけなあてつけ。
予想通り不愉快そうに顔をしかめてる。
しばらく僕らは無言で睨みあいを続けていた。
陽平は何度も顔を変えた。
何かを吐き出そうとする。しかしどこかでそれをせき止めている。
両方の相反する動きが何度も何度も心の中で右往左往に跳ねまわり、のたうちまわっているのが分かった。
我慢しないで怒ればいいのに、僕は心内に呟く。
自分の好きなものを否定されて腹が立たない人間なんかいない。
そんなことは僕にだって分かる。
「嘘つけよ」
しかし、陽平のしぼりだした言葉はその一言だけだった。
でもそれは的を射てた。
言葉通り、僕は嘘つき。
本心すらまともに語れない嘘つきの子どもだ。
「嘘じゃないよ、練習なんてしんどいだけだし……才能もないし」
「才能なんて関係ないだろ! お前はいつもそうだ。言い訳して逃げてばかりだろ」
実に正論すぎて僕は心が痛くなった。
嘘を嘘で塗りたくっても結果はさらに惨めになるだけ、そう分かっていても僕はそうせざるを得ない。
今さら引き返せるはずがないのだ。
「兄貴には関係ないだろ!」
僕はその一言とともに部屋という殻に閉じこもった。
背後では陽平がまだ何かを口にしていたが僕には届かない。
それはあの時の学校での一件とまさに同じだ。
僕は卑怯者だろうか、そうであろう。
でも僕は開き直ってふてぶてしい態度をとるのも、ただただ卑屈になるのもまっぴらごめん。
選択肢として残されたのは拒絶すらしない無関心。
僕自身が僕に許した唯一の逃げ道。
誰にもそれを否定されたくない。
否定されてたまるものか。
その時に僕の脳裏に浮かんだのは陽平の顔ではなく、水瀬奏での顔だったのは言うまでもない。