15
こうも口が達者だと苛立ちばかりが募っていく。
まるで手のひらで転がされてるみたいだ。
夕暮れの名残りのある空は青く沈んでいる。
どのような言葉も彼女には呼吸をするよりも容易に返答されてしまうことだろう。
彼女が僕によって沈黙することはない。
けれど、彼女によって僕は沈黙してしまう。
何とも情けない。
「そうだね、僕がとやかく言う権利はないよ。単に僕が気に食わないだけ」
こう返すのが精一杯。
僕は僕が思っている以上に陳腐な回答しか出来なかった。
そして彼女は僕よりも大人だった。
「それはワガママね、それが許されるのはランドセルを背負う間までよ」
嘲笑うかのような言葉選びがその証拠だ。
僕は無理やり苦笑いする。
「そうだね、でも仕方ないよ……僕はまだ子どもだから」
「そうね、お子様だわ」
肯定は苦痛だった。
赤の名残りはついに消えてしまった。
青と黒と白銀の粒が浮く空。
あまりにちっぽけな粒はまるで僕のよう。
「そろそろ帰るわ。また明日ね白河君」
「うん……またね水瀬さん」
ちっぽけな僕を横切っていく。
外灯の明かりに照らされた細い歩道を彼女は進んでいく。
僕は彼女の背が視界から消えるまで動けなかった。
「情けない奴」
あえて声を出してみた。
実に惨めだった。
嫉妬も不愉快さもほんの少しの魅力も、何もかもがごった返しに僕の中で煮詰まっていく。
ドロドロに溶け合ったそれは僕の体に塗り込まれていく。
奇妙な不快感と安堵。
意味のわからない感覚だった。
心音が響くたびに頭が重く沈んでいく。
このまま夜の中に沈んでいきそうな、沈んでいけたらどんなに楽か。
思考するのも億劫で僕はこのまま溶けてしまいたくなった。
それでも体は存在しているし、脳の中で弾け合う神経は健在してる。
僕がまだ此処にいるのを僕が知っている。
ため息をこぼす。
分かっている。
僕はちっぽけでワガママなお子様。
その言葉を反復しながら僕は重苦しいカバンを携えながら彼女に背をむけた。
彼女から見た僕の背はどのように見えているのだろうか。
僕はずっとそのことだけを考え続けた。