14
放課後の校門を汗だくになった生徒たちが飛び出していく。
オレンジ色の閃光が射し込む風景はどこか哀愁が漂っている。
僕は出ていく生徒の顔を横目に水瀬奏を待ち続けていた。
途中まで描いた絵は完成させないまま教室の隅っこに放置してきた。
色あせたモノクロは醜いだけだ。
見ているだけで気分が悪くなる。
色あせた原因は彼女の絵。
実力のない自分が悪いと理解していながらも、やはり彼女に嫉妬を覚えずにはいられない。
だからなんだろう。
僕の心は僕の絵にそっくりだ。
「それじゃ、また明日ね!」
雨宮さんの元気な声が聞こえてくる。
僕は咄嗟に身を隠し、様子を伺った。
すぐに上機嫌に鼻歌をする雨宮さんが校門から出ていき、小さくなっていく。
声はかけなかった。
しばらくして彼女も門から出てきた。
無表情の面でも被っているのか、と思わせるほど彼女の表情には何も浮かんでいない。
夕陽が髪の黒色をオレンジに染め上げ、風で舞うたびに煌びやかに輝く。
やはり怖くなった。
近くにいるはずなのに遠くにいるような錯覚。
それでも必死に手を伸ばそうと僕は彼女の目の前に出ていく。
案の定、無表情の面はすぐに崩れ、薄ら笑いが浮かび上がる。
「ああ、やっぱりいたのね」
予想通りに動く僕を滑稽にでも思ったのか彼女は少し喜々としていた。
その態度は実に気に食わない。
同じように彼女の反応も僕には容易に予想がついていた。
それはそれで気分が悪いことこの上ない。
「何で水瀬さんはあの部活に入ろうと思ったの?」
本人を前にすると考えていた言葉などまるで出てこない。
少し乱暴な口調で本音を引っぱり出すのがやっとだった。
「別に意味なんてないわ。まさか、あなたがいたからとでも言うと思ってた?」
「……そこまで自惚れてないよ」
随分と苛立たせる言い方を選んでくるものだ。
僕の中で苛立ちが募っていく。
それに引き換え愉快そうな彼女には心底。腹が立つ。
「質問の言い方が悪かったね……水瀬さんは何でわざわざ君を毛嫌いしてる人がいる部に入部したの?」
「白川君……私のこと嫌いだったのね」
芝居がかった口調とそれを隠そうともしない彼女の笑み。
「君と本格的に喋るまでは苦手程度だったけどね」
これではっきりした。
ようやくモヤモヤしていたものが晴れてくれた。
僕は水瀬奏が嫌いだ。
「なら逆に聞くけど、嫌われている人間のために私が距離をつくる理由ってなに?」
初めて見た彼女の愉快そうな顔はどこまでも僕を苛立たせてくれた。