春
私のはじめての長編小説のリメイクです。
のんびりと更新していくつもりなので、気長にお待ちください
体育館の窓から風と桜の花びらが入り込み、黒色のカーテンを揺らしている。
そのたびに、陽光が薄暗い体育館に射し込む。
僕は等間隔に並べられたパイプ椅子の一つに座りながら、伸び縮みする陽光の筋をボンヤリと眺めていた。
僕の周りには、同い年位の男女が何十人とパイプ椅子に鎮座し、舞台の上で演説している校長先生を見つめている。
入学式とは想像していた以上に退屈なものだ。
校長先生の長々とした前置きの与太話に本題の式辞まで、どれもがツマラナイ。
こんな式なんて早々に切り上げてしまえばいい。
僕は手に持っていたプログラム用紙を丸めながら小さくため息をついた。
「なあ、恵介」
後ろから、小声で呼ばれる。
声の主は松崎晃。
晃は幼稚園からずっと一緒の幼なじみの一人だ。
「何だよ、晃」
僕は後ろを向き、小さく返事をした。
晃はブカブカの制服をしきりに気にしながら、短い黒髪を掻いている。
頭を掻くのは晃の癖だ。
僕は内心、いつか禿げるのではないかと心配している。
「クラス発表って何時からだっけ?」あまりに退屈なせいか、顔をしかめながら訊ねてくる。
「後、二十分くらいだろ……」
僕は丸めたプログラム用紙を広げながら適当な時間を伝えた。
すでに予定されている式辞の時間をオーバーしており、僕には分からなかったからだ。
終了時刻は正に、校長のみぞ知る、と言ったところだ。
晃は僕の返答を聞くと「まだ、そんなにあるのかよ!」と少し大きな声で、僕に文句を言ってきた。
何人かの生徒がその声に驚きこちらを振り向く。
怪訝そうな視線を浴びせられ僕は気恥ずかしくなり、晃を睨んだ。
「もう少し、小さく喋れよ。恥ずかしいだろ」
「だってさー、退屈なんだよ。大体、話が長いんだよ、あの校長」
「そのくらい我慢しろよ」
僕はそう吐き捨て、前を向きなおした。
その後も晃のぼやく声が聞こえてきたが、面倒なので無視することに決めた。
入学式初日から変なレッテルをはられてはたまらない。
僕は晃のように自分を飾らない性格じゃない。
世間体ばかり考える人間だ。
どうすれば他人に良く見てもらえるか常に思案している。
僕は他人から良い子と思われなければいけないのだ。
そうしなければ、僕は僕を保てなくなる。
それだけは絶対に避けなくてはならない。
僕は丸めたプログラム用紙を強く握りしめた。