8 ファミレス
放課後になり、俺と椎子は別々に教室を出る。学校を出てからしばらくして椎子の姿を見つけ、声を掛ける。
「椎子」
「あ、周平君!」
椎子の顔がぱあーっと明るくなった。うん、この笑顔。やっぱり俺が騙されてるわけないよな。麻奈の言葉に惑わされただけだ。そう思ったが、今更もう遅い。麻奈に会わせるしかないか。
「ファミレス、楽しみです」
「だな……それでさ、椎子」
「はい?」
「今日、妹が失礼なことを言うかも知れない。そのときはごめん」
「大丈夫ですよ。周平君の妹さんですし。少しぐらい生意気な方が可愛いです」
「そうか・・…」
でも大丈夫だろうか。ここまで来たら仕方ないけど。
◇◇◇
ファミレスに入ると、すぐに店員が近づいてきた。
「2名様でしょうか?」
「は、はい」
「こちらへどうぞ」
案内された席に座ろうとすると、椎子が俺の横にスッと腰を下ろす。
「えっと……普通、向かいに座らない?」
「そうですけど、今日は妹さんが来るんですよね」
「そうだけど」
「でしたら妹さんが向かいの方が自然ではないでしょうか。私たちは付き合ってますし」
「まあそうか……」
結局、俺と椎子は横並びに座ることになった。
店員がメニューを持ってきて説明を始める。
「ご注文はスマートフォンからお願いします。こちらのQRコードを読み取って、番号で注文してください」
「は、はい……」
「ご不明な点がありましたらボタンでお呼びください。ではごゆっくり」
店員が去ると、椎子が目を輝かせる。
「スマホで注文なんて初めてです」
「俺もだよ。じゃあ、試しにやってみるか」
QRコードを読み込むと、メニュー画面がすぐに表示された。
「あ、出ました!」
「さて、何を注文しようか……」
小腹は空いているが、家で晩ご飯が待っている。あまり多くは食べられないだろう。だとすると……
「……ピザとかどうだろうか」
「いいですね! それと、私、プリンも食べてみたいです」
椎子がメニューのプリンを指さす。
「プリン?」
「はい。ファミレスのプリン、初めてですし」
「じゃあ、俺も食べようかな」
「周平君、甘い物も好きなんですか?」
「まあ、どちらかと言えば好きだな」
「意外です。男子って甘い物は苦手だと思ってました」
「そういう人もいるけどね。俺は結構好きかも」
「じゃあ、甘い物も一緒に食べに行けますね!」
そう言って椎子は笑顔を見せた。
「じゃ、じゃあ、注文しよう。えーと、スマホに番号を入れれば良いんだよな。2203……あ、できた」
「簡単ですね」
一緒に横から画面をのぞき込んでいた椎子が言う。スマホをのぞき込んできているからかなり距離が近い。
「そ、そうだね」
また椎子の甘い香りに気を取られがらも、注文を済ませた。
しばらくすると料理よりも先に妹の麻奈が店内に入ってきた。
「お兄ちゃん、早いじゃん」
「麻奈、紹介するな、こちらが櫻川椎子さんだ」
椎子が立ち上がって綺麗な礼をする。
「初めまして。周平君と付き合わせてもらってます櫻川椎子です」
「……はじめまして、妹の麻奈です。って、付き合ってるんですか?」
しまった。麻奈には付き合ってることまでは言ってなかった。
「はい。聞いてませんか?」
「聞いてないです! お兄ちゃん、マジなの?」
「……まあそうだな」
「うーん、ますます怪しい。お兄ちゃんの彼女にしては美人過ぎでしょ……」
麻奈が小さい声でぶつぶつ言いながら不審な顔で椎子をにらむ。それを見て椎子がきょとんとした顔をした。
「……とりあえず、まだいいや。で、まだ何も頼んでないの?」
「いや、ピザとドリンクバーは頼んだけど」
「じゃあ、なんで飲み物ないのよ」
「え? だって、店員さんは何も……」
「注文したなら取りに行くの! あ! 私のも追加で注文して!」
結局、麻奈の分も注文し、俺たちはドリンクバーから飲み物を取ってきて席に戻った。
「椎子さん、お兄ちゃんのどこが好きになったんですか?」
飲み物を取って席に座ると早速、麻奈の質問が飛んでくる。
「そうですね……私と似ているところでしょうか」
「似ている? お兄ちゃんが?」
「はい」
「いや、どこがですか! お兄ちゃん、地味ですし、椎子さんのような目立つ人とは全然違いますよ!」
「外見じゃありません。中身です。私、世間知らずなんです。それなのに他の人に馬鹿にされるのが嫌で、プライドばかり高いんです」
「はあ……」
「周平君を見ていたら私と同じような人じゃないかと思って……だから一緒にいろいろ初体験していけたらって思ったんです」
「いろいろ初体験って……」
「はい、早速、いろいろ初体験させてもらいました」
「え? もうヤっちゃったの!?」
麻奈が驚いて立ち上がり俺を見る。
「バカ、そういうことじゃない。マックに行ったりカラオケ行ったりだよ」
「そ、そういう初体験ね……」
麻奈が座り直したところでピザが2枚来た。
「じゃあ、食べよう」
「はい」
俺たちはピザを食べ出した。
「お、美味しいです!」
椎子が言う。その様子を見て麻奈が言った。
「えっと……もしかして椎子さんはここ初めて来たんですか?」
「はい。ファミレスっていうのは初めてですね」
「え!? ファミレス自体!?」
「はい」
「レストランとか行かないんですか?」
「親とは一緒に行きますけど、ファミレスではないですし」
「あー……もしかしてコース料理とかそういうやつですか?」
「そういう感じですね」
薄々思ってたが、椎子はお嬢様なのか。




