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私と初体験してくださいっ!  作者: uruu


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7/8

7 カラオケ②

 椎子の接近にドキドキしながらも、ようやく曲を選び終えた。選んだのは、誰でも知っているような超有名曲だ。


「まあ、これなら大丈夫だろ」


 そう自分に言い聞かせ、歌い始める。

 我ながら、歌はうまいわけじゃない。けれど、音程は外してないし、普通レベル……だと思う。


 だが、曲が終わると椎子はパチパチと拍手してくれた。


「すごいです! 周平君!」


「そ、そうか?」


「はい! 私、カラオケ初体験ですが……とっても楽しいです!」


「そ、そうか。ありがとう……でも、椎子も曲を入れないと」


「え? 私も歌うんですか?」


「そうだよ。カラオケに行ったら全員歌わされるって思っておかないと」


「そうなんですね。困りました……」


「何か知っている曲はあるか?」


「うーん……探してみます」


「履歴やランキングから見てみると有名曲があるよ」


「はい」



 少しの間、椎子は真剣な顔でデンモクをいじっていた。

 そして、ようやく一曲を選んだ。


「これなら知ってます。音楽の授業でやりました」


「なるほど」


 画面に表示されたのは、俺たちが生まれる少し前のヒット曲だ。


 曲が流れ出すと、椎子が歌い始めた。

 ……その瞬間、俺は思わず息を呑んだ。


(めちゃくちゃ……上手い……)


 音程も完璧だし、声に芯がある。おまけに表現力まである。

 この歌声を初めてだというカラオケで聞かされるとは思わなかった。


「すごいな! 椎子、めちゃくちゃ上手かったぞ!」


「そうですか? 自分ではよく分かりませんけど」


「いや、すごかったよ。これなら誰とカラオケに行っても大丈夫だ」


「それなら良かったです」


「でも一曲だけじゃ不安だな。何曲か練習しておこう」


「はい!」





 俺と椎子はそれから時間まで何曲かを歌った。終わりの時間が迫り、部屋の電話が鳴った。


「周平君、電話が鳴ってます! 誰からでしょう?」


「終わりの時間を知らせるやつだよ」


「なるほど……カラオケって親切なんですね」


 俺が受話器を取ると、スタッフの声がした。


『お時間10分前です。延長なさいますか?』


 延長か。しないとは思うが一応聞いてみるか。


「椎子、延長するか?」


「延長?」


「もっとカラオケを続けたいかって事だよ」


「はい! もちろんです!」


「そ、そうか」


 俺たちはカラオケを延長してさらに歌った。


◇◇◇


 結局、椎子が帰らなくてはいけない時間まで延長を続け、ようやくカラオケは終わった。俺はバスの停留所まで椎子を送っていた。


「今日は楽しかったです。ありがとうございました!」


「俺も楽しかったよ」


「……何が楽しかったですか?」


「え? それは……椎子の歌も聴けたし」


「それに、私と接近できたこととか? 襲いたくなってましたよね?」


「う……椎子、そんなこと言うの?」


「うふふ、すみません。ちょっと意地悪言っちゃいました。でも、本当に我慢できないときは襲ってもいいですよ? 私たち、恋人同士ですから」


「そ、そうだけど……」


 絶対、「襲う」の意味分かってないよな。

 ちょうどそのときバスが来た。


「それでは、また明日よろしくお願いしますね」


「ああ、またな」


 椎子は笑顔で手を振り、バスに乗っていった。

 俺もため息をつきながら帰路についた。


◇◇◇


「……ただいま」


「お兄ちゃん、遅い!」


 家に帰ると今日も妹の麻奈にしかられてしまった。


「何してたのよ」


「友達とカラオケだよ」


「カラオケ? はあ? お兄ちゃん、どんな友達が出来たのよ。毎日遊び歩いてる人?」


「違うよ。逆だ。カラオケに行ったことがないって言うから練習につきあったんだ」


「練習ねえ……お兄ちゃん、その子、女子でしょ」


「う……」


「やっぱり。お兄ちゃん、その子に騙されてない?」


「は?」


「その子、『アタシ、カラオケ行ったこと無いんですぅ』とか言わなかった?」


「そんなしゃべり方じゃないし」


「あー、完全に騙されてるわ。たぶん、お兄ちゃんのお金が目的ね」


「違うから。今日も割り勘だったし。マックも行ったことがないような純粋な子だぞ」


「それ、やっぱり騙されてるよ。いまどき、そんな女子高生いる?」


「それがいるんだよ」


「だめだこりゃ。わかった。その子を連れてきて。私が直接チェックしてあげる」


「アホか、家に女子なんて連れてこれるか」


「そういう女子なら簡単に来そうだけどなあ。色仕掛けとかしてこなかった?」


「色仕掛けなんて……あ……」


 そういえば今日はやたら接近してきたような……あれは色仕掛けだったんだろうか。


「ほら。思い当たることがあるんでしょ?」


「違うし……彼女は純粋な子だ」


「純粋なのはお兄ちゃんの方だよ。だから騙されるの。これ以上その子と付き合うんなら一度、私に会わせなさい!」


「……考えとく」


 俺は少し不安になって麻奈にそう言った。


 今更だけど、冷静になって考えてみたらやっぱりおかしい。あれほど綺麗な子が俺と付き合いたいなんてあるだろうか。それに今日の態度。異常に接近してきたし、俺が襲ってもいいとまで言っていた。


 麻奈が言うように俺は椎子に騙されてるんじゃないだろうか。考えれば考えるほど不安になってきた。それを確かめるには、やはり第三者に見てもらうほうがいいだろう。麻奈に会わせてみるか……


◇◇◇


 翌日、俺は今日も昼休みに天文部の部室に向かった。


「周平君、いらっしゃい」


「うん……」


「どうしたんですか? 元気ないですね?」


「……実は相談があるんだ」


「相談?」


「うん……今日、ファミレスに行かないか?」


「ファミレスですか。行ったことないですね。ぜひ初体験したいです!」


「そうか……じゃあ、行こう」


「でも、何かあったんですか? いつもと様子が違います」


「実はファミレスに来るのは俺たちだけじゃない」


「え?」


「妹に会って欲しいんだ」


「妹さんに?」


「ああ。ちょっと椎子の話をしてしまったんだよ。そうしたら、会ってみたいって言いだして」


「そうですか。私は別に構いませんけど……」


「そうか。時間は取らせないから。ごめん」


「別に良いですよ。会ってみたかったです。楽しみです!」




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