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私と初体験してくださいっ!  作者: uruu


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5/8

5 side 椎子

 せっかくの川口さんの誘いを私、櫻川椎子は断ってしまいました。その理由はいくつかあります。一つはカラオケになんて行ったことがないからです。そこで右往左往してしまえばきっと笑われてしまいます。それは絶対に避けたいことでした。


 でも、一番の理由は私に勇気がないからです。こんな私に何度も話しかけてくれる川口さんが優しい子だと言うことは十分わかっています。ですが、やっぱり恐いのです。どうしても同じ世代の子には恐怖心を感じてしまいます。それは中学時代の苦い思い出があるからです。


 中学の頃、私はいじめの対象になってしまいました。その理由はよくわかりません。先生は『大人びていたから嫉まれたんだろう』って言っていましたけど、だからっていじめるものなのでしょうか。ちょっとした仕草も、ちょっとした言葉も笑われ、からかわれ、私は徐々に追い詰められていきました。結局、私は学校に行けなくなってしまったのです。


 それからは家の手伝いをしたり、自分で勉強したりして過ごしてきました。でも「このままじゃダメだ」と思い、高校にはちゃんと行くことを決めていました。必死に勉強し、無事、今の高校に入ることができました。わざわざ家から遠い学校を選んだのは、誰も私の過去を知らない場所に行きたかったからです。


 ですが、高校に入学してからも中学の頃の記憶が邪魔をして、誰とも仲良くなることが出来ませんでした。結局、恐いのです。だから、全ての誘いを断り、周りとも話さないようにしてきました。


 「いつかはみんなと仲良くしたい」


 そう思っていましたが、プライドと恐怖が邪魔して何もできませんでした。


 そんなある日、ふと視線を感じたのです。それが杉山周平君でした。男子からの視線はこれまで何度も感じてきました。でも、杉山君の視線は他のそれとは違っていました。じっと見ているのに、いやらしさがない。むしろ――温かい。まるで、私を心配しているような優しい眼差しでした。


 それから杉山君を観察してみました。すると、わかったのです。杉山君も私と同じく一人ぼっちだということが。私はだんだんシンパシーを感じていきました。


 クラスで誰とも話さない私が、夢の中では杉山君と話すようになっていました。


 ある日の夢。私は杉山君に告白し、恋人同士になって、いろいろな場所に行きました。夢の中では私は杉山君のことを「周平君」と呼び、周平君も私を「椎子」と呼んでくれました。すごく幸せな、温かい世界。しかし、残酷なことに夢は夢でしかありません。夢から目覚めるとそこはひとりぼっちの現実でした。


「周平君……」


 目が覚めた私の頬には涙が伝っていました。


 翌朝、学校に行く準備をしていると母に私がいつもと違うことを悟られてしまいました。


「椎子、学校は大丈夫なの?」


「……はい、大丈夫です」


「無理は禁物よ。もし、どうしても無理ならまた学校を休んでもいいのよ」


「いえ、大丈夫です。ただ、夢を見ただけですから」


「夢?」


「はい。すごく幸せな夢だったので、それが現実ではないことにがっかりしていたのです」


「そうだったの。だったら、それを現実に出来るように頑張ってみたら?」


「夢を現実に……」


 そんなことは考えもしませんでした。でも、考えてみたらそれができない理由があるでしょうか。私は高校生になってから何度も告白されています。でも、恐くて全てお断りしてきました。中学の時には気がつきませんでしたが、私は男子から付き合って欲しい対象とみられているようです。


 もしかしたら、周平君も同じなのかも知れません。だとしたら、あの夢を現実に出来るかも知れない。私は決意しました。


 それからすぐに行動を起こしました。朝早く学校に行き、誰もいない教室で周平君の机に手紙を入れました。周平君はそれを見つけて、すぐに私を見てくれました。

 そして屋上での告白。最初は嘘告白じゃないかと疑われてしまいましたが、勇気を出して伝え続け、なんとか恋人同士になることが出来ました。私は久しぶりに同年代の子とたくさん話し、一緒に行動することが出来ました。


 これで一歩を踏み出せた。そう思っていたのですが、川口さんの今日の誘いはまだ恐怖心があって断ってしまいました。でも、もっと周平君といろいろな経験を積めば、クラスにも馴染めるようになるはずです。


 だからそのために……今日も周平君とある場所に行きたいと思います。周平君、早く話したい。私は昼休みになると、急いで部室に向かいました。


 部室に入り、静かな空間で周平君を待ちます。

 でも、周平君はなかなか来ません。時計の針がじりじりと進むにつれ、胸の奥がザワザワしてきます。


(何かあったのでしょうか?)

(まさか……来てくれない、なんてこと……)


 不安に押しつぶされそうになりながら、私はひたすらドアの方を見つめていました。



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