45 天体観測会
8月5日。今日は天文部の天体観測会だ。
俺が学校の部室に着いたときには、既に椎子が来ていた。
「椎子、早かったな」
「周平君……なんか新鮮です」
「何が?」
「制服……かっこいいです」
そういえば、最近は旅館での和装姿ばかりだったから、今となっては逆に新鮮だ。
「椎子も……やっぱり可愛いな」
「……ありがとうございます」
そう言うと椎子が立ち上がって近づいてきた。
「し、椎子?」
「制服姿ではあんまりしてなかったなので」
「た、確かに……」
「服が違うだけなのに……不思議です」
そう言って俺の顔を両手で挟み、顔を近づける。
「ここじゃまずいって」
「大丈夫ですよ。足音がしたらやめます」
そう言いながら椎子は俺に口づけした。
「んっ・・…」
その直後、足音が聞こえた。
俺たちは慌てて座った。すぐに扉が開く。
「お! 椎子ちゃんに彼氏君、早かったね」
「は、はい……」
「こ、こんにちは部長」
「……なんか二人の態度が怪しいなあ」
「べ、別に怪しくないです」
「まさか、またここでハメ外してたんじゃないでしょうね」
「またって……まだ二回目です」
「やっぱり、なんかしてたんでしょ!」
「す、すみません!」
「すみませんでした!」
俺と椎子は頭を下げた。
「まったく……独り身にはきついからここではやめてよね」
「はい……すみませんでした」
「じゃあ、早速準備始めようか」
俺たちはまだ暑い日差しの中、準備を始めた。
望遠鏡を屋上に運び、椅子を並べる。
「今年は去年より参加者が多いのよねえ……」
坂本部長が不思議そうに言った。
「たぶん、椎子のせいでしょうね」
俺が言った。
「椎子ちゃん?」
「はい。天文部のイベントに椎子も参加するって分かったら、クラスのみんなが来るって言い出してしまって」
「確かに君たちのクラスばっかりだ」
そう、椎子がクラスのメッセージで流してしまったものだから、20人ぐらい来ることになっていた。まるで、ミニクラス会だ。
「まあ、何にしろ天文に興味を持ってくれるのは嬉しいことだよ。これで文化祭もたくさん来てくれたらなあ」
坂本部長は嬉しそうだった。
◇◇◇
開始時間が迫ると、クラスメイトを中心にたくさんの参加者が屋上にやってきていた。川口さんや岡崎さんは椎子となにやら話している。その周りには大塚や倉原と言った男子がいた。
以前だったら胸がざわついたかもしれない光景だが、今の俺にはなんてことも無い。椎子との絆は確固たるものになっていた。俺は俺で自分の仕事をするだけだ。来場者にチラシを配り、説明をしたりしていた。
やがて、坂本部長が前に立ち、話し出した。
「それでは天文部の天体観測会を始めたいと思います!」
みんなが注目する。
「今日は望遠鏡が二台用意してあります。一台は土星に。もう一台はアンタレスという赤い星を見ることが出来ます。」
「アンタレス?」
岡崎さんは星に詳しくないようだ。
「それぞれの星の資料はチラシのQRコードから読み取ってスマホで見れますので見てください!」
椎子が慌てて言った。さすがだ。
「では、望遠鏡を見たい人は並んでください!」
坂本部長が言って、みんなが並んだ。一台を部長、もう一台を椎子が担当し、案内している。俺は……雑用係だ。
「うわー! 輪が見える!」
「アンタレス、綺麗……」
見た人が言ってくれる感想が嬉しい。
「アンタレスって夏の大三角だっけ?」
「いえ、夏の大三角はデネブ、アルタイル、ベガ、で……」
椎子が流ちょうに説明している。
俺がそれを眺めていると、川口さんが近くに来た。
「椎子の人嫌いも解消されたみたいね」
「そうみたいだな。元々、椎子もみんなと仲良くしたかったみたいだし、ただ、色々あってそれが出来なかっただけだから」
「そっか。杉山君のおかげだね」
「……少しは役に立てたなら嬉しいよ」
そんな話をしていると椎子が俺たちに気がついて小さく手を振ってきた。俺も振り返す。
「あ、やばい。二人で話してるところ、椎子で見られたら怒られる!」
「大丈夫だって」
椎子は俺に手を振った後は普通にしている。
「あれ……なんか椎子に余裕が出てる」
「うん。もう、変に嫉妬したりはしないよ。それだけお互いのことを信頼してるし」
「……なんか君たち、一段階先に進んだね」
「そうかもな」
「さすが……大人の階段も上っただけあるなあ」
「……なんで知ってるんだよ」
「私、椎子の親友だし」
そんなことまで話してたのか。
「もう、君たちは大丈夫だね」
そう言うと川口さんは俺の元を離れていった。川口さんはずっと俺たちのことを心配してくれてたんだな。今度は違う人の心配をするんだろうか。
そんなことを考えていると急に部長に呼ばれた。
「彼氏君! 来場者にチラシ!」
「あ、すみません!」
気がついたら後から来場者が来ていた。俺は慌てて、チラシを渡す。
「ふう……」
そこに大塚と倉田、さらには男子が何人か来た。
「え、何?」
「お前、今、彼氏君って呼ばれてなかったか?」
「あ……」
しまった。坂本部長に言わないように釘を刺すのを忘れてた。
「なんだ? あの部長と付き合ってるのか?」
「違うよ」
「じゃあ、誰の彼氏なんだよ」
「まさか、川口さんか?」
「いい加減、吐け!」
男子達に羽交い締めにされる。
「や、やめろって!」
そこに椎子が来て言った。
「周平君……もういいんじゃないですか?」
「……そうだな」
「お、吐く気になったか」
「誰だよ、お前の彼女は!」
「俺の彼女は……椎子だよ」
「「「は?」」」
「はい、私が周平君の彼女です」
椎子はそう言うと俺の頬にそっと口づけした。
「「「えー!」」」
屋上に男子達の声が響き渡った。
だが、女子達はもう知っていたのか、驚きは無かったようだ。
「あ、ごめーん! 彼氏君、バレちゃった?」
坂本部長が悪びれもせず、そばに来た。
「いえ、大丈夫です。もう言うつもりでしたし」
「そっか……椎子ちゃんも彼氏君も大人になったねえ」
しみじみとうなづきながら、坂本部長は去って行った。
その後、クラスのメッセージで俺と椎子の交際はあっという間に広まった。
◇◇◇
観測会が終わり、片付けを終わってから校門を出て2人でバスセンターに向かった。
夜風が気持ちいい。
「今日はいろいろありましたね」
椎子が言う。
「そうだな」
「でも、良かったんですか? みんなにバレてしまって」
「いいよ。俺ももう隠すつもりは無くなってたし。いいタイミングだったよ」
夏休み中に噂が広まれば二学期にはもうそれほど騒がれなくなるだろう。
「今日の周平君、かっこよかったです」
「え? なにが? 特別なことは無かったと思うけど……」
「もちろん、私を彼女と言ってくれたことです」
「そ、そうか」
「これからは手をつなぎながら帰ってもいいですよね」
「もちろん」
椎子はぎゅっと俺の手を握りしめた。
「椎子……」
「さて、家に帰りましょうか」
「そうだな」
今日は椎子の家に泊まる予定だ。
長い夜になるかも知れないな。
(完)




