4 メッセージ
「ただいま」
家に帰ると、母と妹が夕食の準備をしていた。妹の麻奈が俺の顔を見て、すぐに声を上げる。
「お兄ちゃん、遅い!」
「ごめんごめん」
「部活もしてないのに、なんでこんなに遅いわけ?」
「ちょっと友達とマックに行ってた」
「はぁ? そんな高校生っぽいこと、お兄ちゃんするわけない!」
ひどい言われようだ。
「お兄ちゃん、友達いないんじゃなかったの?」
「……できたんだよ」
友達じゃなくて彼女だけど。なんてことは言えないな。
「へぇー、よかったね。どんな人? イケメン?」
「バーカ、普通のやつだ」
ここはひとまず誤魔化しておこう。
「なんだ、つまんない。イケメンの友達作って家に連れてきてよ」
「無理に決まってるだろ」
「じゃあ、可愛い彼女さんでもいいよ」
「……」
「素敵な人が来て、おしゃれのこととか教えてもらったら嬉しいけどなあ。でも、お兄ちゃんには絶対無理だよね」
「……まあ無理だな」
「あれ? いつもなら『彼女ぐらいいつでも作れる』とか強がるくせに、今日はどうしたの?」
しまった。本当に彼女ができたことを隠そうと、いつもと違う返しをしてしまった。
「まさか、お兄ちゃん……」
「な、なんだよ」
「告白して振られた?」
「アホか! 告白なんてしねーよ!」
俺は告白された側だからな。
「なーんだ。無理だとか言うからてっきり……でも、安心して。あんなお父さんだって高校時代にお母さんとつきあい始めたんだから。お兄ちゃんもその遺伝子があるんだし、きっと大丈夫だよ」
遺伝子か。俺にあんな綺麗な彼女が出来たのも遺伝子のおかげなんだろうか。
「ねえ、お母さん! お父さんって高校時代はかっこよかったの?」
麻奈がキッチンの母に聞く。
「そんなことないわよ。今と同じで冴えない感じだったわ」
「えー! じゃあ、なんでお母さんと付き合ったの? お母さんって美人な方だと思うけど」
「話してもいいけど……長くなるわよ?」
「じゃあ、やっぱいい」
「また今度ね。でも、あのころはまさかあの人と結婚するなんて夢にも思わなかったわ」
「えー! そうなんだ……なんかロマンチック。でも、私はイケメンがいいなあ」
お父さんが残業でまだ帰ってなくて良かった。
◇◇◇
夜、自分の部屋でスマホを眺める。せっかく椎子と連絡先を交換したんだから、何かメッセージを送るべきだろうか。
でも、何も用がないのに何を書く? 今日のマックのことか? 「マック美味しかったね」とか? いきなりそんなメッセージが届いても困るだろ。
悩みながらスマホを見つめていると、突然スマホが振動した。驚いてスマホを落とし、慌てて拾い上げると、椎子からのメッセージが来ていた。
椎子『今日はありがとうございました。マック美味しかったです』
そうか、まずは「ありがとう」から入れば良かったのか。
周平『こちらこそありがとう』
これでメッセージのやりとりは終わりだろうか。そう思っているとまたメッセージが来た。
椎子『明日のお昼、一緒に食べませんか?』
お昼? マジかよ。でも……
周平『教室で一緒に食べたら目立つよ』
僕と椎子が急に一緒にお昼を食べ出したら教室が騒然とするだろうな。
椎子『天文部の部室なら大丈夫です』
そういえば部室を使えるって言ってたか。部員は実質一人らしいし、だったら問題なさそうだ。
周平『わかった。部室に行く』
教室では話せないけど、昼休みに部室で椎子と話せそうだ。
◇◇◇
翌朝、登校すると椎子は既に席に座り、なにやら本を読んでいた。俺がつい見てしまっていると、椎子も視線に気がついたのか顔を上げて俺と目が合った。すると椎子は少し微笑んだ。俺は慌てて目をそらした。
俺が席に着いた瞬間、スマホにメッセージが届く。
椎子『おはようございます』
周平『おはよう。つい見てしまってごめん』
椎子『別にいいですよ。バレたくないのは周平君だけですし』
周平『そうなのか?』
椎子はみんなにバレるのは気にならないのか。
椎子『はい。でも安心してください。約束は守ります』
椎子もちゃんとバレないようにはしてくれるようだ。
すると、「櫻川さん、今日の放課後暇かな?」という声が聞こえてきて思わずそちらを見てしまう。椎子に話しかけていたのは川口優実。椎子は誰に話しかけられても塩対応だが、それにもめげずにいつも話しかけているのがこの川口さんだ。クラスの女子のまとめ役みたいな感じの子だ。
「暇じゃないです」
椎子は今日も安定の塩対応だな。
「予定あるの?」
「はい」
「そっかあ。じゃあ、しょうがないね。女子だけでカラオケ行こうって話してたんだけど」
「そういうのはちょっと」
「え? そうなの? 櫻川さん、てっきり男子が苦手で来ないんだって思ってたけど」
「別にそういうわけではありません」
「じゃあ、男子がいてもいいんだね?」
川口さんのその言葉にクラスの男子がみんな注目する。男嫌いと思われていた椎子がそうじゃないとわかれば狙ってくるやつもさらに多くなるだろうが――
「男子も女子も苦手です」
椎子の答えはそっけなかった。
「あちゃー、人嫌いってことか。でも、それって直していった方がいいんじゃない?」
川口さんも食い下がる。
「わかってます。ですが、すぐには無理です」
「そっか……じゃあ、そのうち行こうね」
「はい、そのうち」
椎子がそう言ったので、川口さんも納得して去って行った。
でも今なら椎子がみんなと距離を置いてる理由……分かる気がするな。
成績優秀でスポーツもできて、完璧に見える椎子。でも、実際は世間知らずでマックの注文すら分からない。そんな弱い部分を見せたら、周りはきっとイジってくるだろう。それが嫌だから人を避けてるんだ。
だったら俺の役割は大事だな。俺は一応「彼氏」をやってはいるけど、それ以上に「練習パートナー」として頑張らないと。




