35 期末試験
期末試験前日の日曜日は家で一人で勉強する。でも、途中で椎子とメッセージのやりとりをしたり、分からないところを教えてもらいながらやったので、寂しくはなかった。
そして月曜日。いよいよ期末試験が始まる。
初日のテストが無事に終わった頃、スマホが鳴った。
椎子『周平君、試験うまくいきましたか?』
周平『たぶんね。椎子は?』
椎子『私もたぶん大丈夫です。一緒に帰りませんか?』
周平『いいけど、部室は空いてないし、どうする?』
椎子『バスセンターのテラスで待ち合わせましょう』
テラスか……学校からそこまでは別々だけど、少しでも二人で会えるなら十分だ。
周平『じゃあ、念のため三階にいるから』
椎子『わかりました』
今日はみんな一斉に下校するからリスクが高い。
人目を避けるため、スタバのある二階ではなく、あえて三階で待ち合わせることにした。
三階テラスに着くと、まだ椎子は来ていなかった。
しばらく待っていると、少し息を切らせた椎子が現れた。
「すみません、遅くなりました」
「大丈夫だよ。どうかしたの?」
「いえ、優実と彩花とちょっと話してました。でも……途中で男子が入ってきて、何とか抜け出してきたんです」
「なるほど、それは大変だったね」
「はい。彼氏がいるって言ってるのに、どうして私と話したがるのか理解できません」
「まあ……椎子に彼氏がいるなんて、みんな信じられないんだろうね」
「そうかもしれませんけど。私にとってはどうでもいい話です。だって、今は周平君と会う時間ですから」
「そうだね。椎子は今日のテストは大丈夫だった?」
「はい、問題ありません。でも明日の予習もしておいた方が良いですね」
そう言って椎子は教科書を取り出した。
「明日の準備もしてきたんだ」
「はい、一緒に勉強しませんか?」
「そうだな」
俺と椎子はテラスで勉強を始めた。
しばらくすると、椎子が何かに気付いて目を見開いた。
「どうした?」
「静かに……。周平君の後ろ、鳥さんがいます」
「鳥さん?」
そっと振り返ると、小さな鳥がテーブルにちょこんと止まっていた。雀より少し大きくて、羽は柔らかな茶色。つぶらな瞳で、こっちをじっと見ている。
手を伸ばせば届きそうな距離だ。
「ほんとだ……この鳥、なんて名前なんだろう」
「わかりません。でも、すごく綺麗で可愛いです」
鳥は一度だけこちらを見て、ふっと軽やかに飛び立っていった。
「可愛かったですね」
「うん。でも、珍しいな。何度もここに来てるけど、こんな近くで鳥を見たのは初めてだ」
「きっと幸運の印です。明日はきっと良い点が取れますよ」
「……だといいけどな」
◇◇◇
そして翌日。
昨日テラスで勉強した箇所が、ほぼそのまま試験に出た。おかげで完璧に解けた。
この日の帰りも俺たちはバスセンターの三階テラスで待ち合わせした。
「本当に幸運でしたね」
「だな」
「今日も勉強しながら、あの鳥を待ちませんか?」
「そうだな」
二人で予習を始めるが、なかなか鳥は現れない。
それでも意地になって長い時間勉強を続け、ようやく帰ろうとしたその時――。
「あっ……」
椎子が小さく声をあげる。
昨日と同じ鳥がテーブルに止まっていた。
「来ました……」
「ほんとに来たな」
二人で目を合わせてほほえみあい、その日は満足して帰った。
すると、翌日の試験でもテラスで予習した問題が出題された。
「やっぱり、あの鳥は幸運を呼んでくれますね」
放課後、椎子が微笑む。
「そうかもな。じゃあ今日も勉強しながら待ってみるか」
しかし、この日、あの鳥はなかなか現れなかった。
長い間勉強したが、結局鳥が来ないまま帰ることに。
だが翌日の試験でも、しっかり予習した問題が出ていた。
「結局、鳥が来なくても幸運はありましたね」
椎子が笑う。
「だな。もしかして、椎子自身がラッキーガールなんじゃないか?」
「だといいですけどね。周平君にとって私がラッキーガールになら、ずっと一緒にいたいって思うはずですから」
「……うん。もうそう思ってるよ」
小さく答えると、椎子は頬を染めて微笑んだ。
「でも実は、あの鳥がくれた幸運の謎、解けてるんです」
「え、どういうこと?」
「だって、私たち、鳥が来るまでずっとテラスで予習してましたよね。つまり長い時間勉強したから、その分テストに出やすかったんです」
「なるほど……」
「それに問題が出そうな場所を重点的にやってますからね」
「まあそうだな」
椎子は「幸運の鳥」とか言いながら冷静に物事を見ていたようだ。
「意外に冷静なんだな」
「意外とは失礼ですね。これでも学校ではクール姫と呼ばれてるんですけど」
「え、知ってたのか?」
「はい、知ってますよ。でも本当は全然クールじゃないので、できるだけクールにしなくちゃ、って思って行動しています」
「そうだったんだ」
「もっとも、周平君にはバレてしまってますけどね。私が全然クールじゃないって」
「……そうだな」
椎子とつきあい始め、俺は椎子のことが分かってきた。椎子は本当はクールじゃなくてとても表情豊かな少女なのだ。




