34 家で勉強会
土曜日。
今日は椎子が家に来る日だ。朝から自分の部屋とリビングを徹底的に掃除した。親は親戚の家に出かけていて、家には俺と妹の麻奈だけだ。
「お兄ちゃん、張り切ってるね」
掃除機をかける俺を見て、妹の麻奈がニヤニヤしながら言う。
「うるさいなあ」
「でも、私も椎子さんと一緒に料理できるの楽しみ!」
今日はお昼ごはんを椎子と麻奈が一緒に作ってくれる予定た。
やがて椎子からメッセージが届いた。
椎子『もうすぐ着きます』
周平『すぐ行く』
俺は玄関を出て、最寄りの電停まで迎えに行った。
ほどなくして電車が到着。
降りてきた椎子は、青と白のチェックのワンピースに白い帽子をかぶっていて、お嬢様モードだ。
「周平君!」
俺を見つけると、小走りで駈け寄ってきた。
「椎子、ようこそ、俺のホームへ」
「……ちょっと緊張します」
「そんな必要ないよ。さあ、行こう」
俺たちは二人で家に向かって歩き出す。といっても家はすぐそこだ。
「ここが俺の家だよ」
「ここが……」
おそらく椎子の家と比べたら小さいだろうけど、一応一軒家だ。古いけど。
「ただいま」
「お邪魔します」
玄関を開けると、麻奈がすぐに顔を出した。
「あ、椎子さん! いらっしゃい!」
「麻奈ちゃん、お久しぶりです」
「お久しぶりです! でも、メッセージしてるからそんな気がしませんね」
「そうですね」
……そんなに二人でやりとりしてたのか。知らなかった。
「椎子、まずは勉強からな」
「はい、どこでしましょうか?」
「俺の部屋に行こう。二階だよ」
「二階! うちは平屋なので二階があるのはうらやましいです」
俺の部屋は二階の奥。階段は急だから椎子が転ばないように気をつけながら案内する。
「ここが周平君の部屋……」
「何も無くて殺風景だろ」
ラノベと漫画が少し並んでるだけのシンプルな部屋だ。
「いえ、落ち着きます」
「座って」
俺はクッションを差し出すと椎子は微笑んで受け取った。
「ありがとうございます」
小さなテーブルに教科書とノートを広げ、早速勉強会が始まった。
椎子の教え方はすごく丁寧でわかりやすい。苦手だった問題も、みるみる理解できていった。
しばらく経つと扉がノックされた。
「はい?」
「お茶持ってきたよ」
扉の向こうから麻奈の声。椎子がドアを開ける。
「はい、どうぞ」
麻奈がお茶を差し出した。
「ありがとう、麻奈ちゃん」
「いえいえ。椎子さんって成績いいんですか?」
「それなりには……」
椎子が謙遜する。
「いやいや、椎子は学年一位だろ」
「え!? すご!!」
「でも、二位のときもありますよ」
「でも、十分すごいです! 私の勉強も見てください!」
「もちろんいいですよ」
「麻奈、今日は俺たちの勉強だから、今度な」
「わかってる。じゃあ受験が近くなったら是非!」
「はい、わかりました」
麻奈はにこにこしながら部屋を出ていった。
「麻奈ちゃん、ほんといい子ですね」
「今日は猫かぶってるな。椎子が来てるから」
「そうなんですか?」
「そうだよ。いつもは憎まれ口ばかりだ」
けど、俺が椎子と付き合いだしてからは、前ほど突っかかってこなくなった気がする。
◇◇◇
勉強に集中していたら、あっという間にお昼の時間になった。
「そろそろ一階に降りるか」
「そうですね」
一階に降りると麻奈がキッチンでいろいろ準備をしていた。
「あ、椎子さん! 一緒に作りましょ!」
「はい!」
椎子は麻奈と一緒になってキッチンに向かった。
俺はリビングでテレビをつけたけど、結局気になってキッチンを覗く。
「椎子さん、包丁の使い方、うまっ!」
「そうですか? 自分ではまだまだだと思いますけど」
「いやいや、めっちゃ上手です! やっぱ料理が趣味なだけありますね~」
謙遜する椎子。でも運動も勉強もできて、料理まで得意。
完璧女子、と言われるだけある。
「できましたよー!」
麻奈が声を弾ませる。
「今日のお昼はオムライス!」
「お、美味そうだな!」
「当たり前じゃん!」
「周平君、まずは食べてください」
椎子が言った。
「いただきます……う、美味い!」
「でしょ?」
麻奈が得意げだが、遠目で見ていてほとんど椎子が作っていたのは知っている。
「椎子さん、料理上手だし今度教えてください!」
「はい、いいですよ」
「ほんと? また絶対来てくださいね!」
「はい、もちろん」
「やったー!」
麻奈、すっかり懐いている。お姉さんが欲しいって言ってたから嬉しいんだろうな。
昼食後、椎子と麻奈はしばらく料理の話をしていたが、まだ勉強会の続きが残っている。
「椎子、そろそろ行こうか?」
「はい、そうですね」
「もっと椎子さんと話したいのに……しょうがないなあ。椎子さん、頑張ってくださいね!」
「はい、ありがとうございます」
麻奈、俺には言わないのか。そう思いつつ、再び二階に上がった。
◇◇◇
再び勉強会を始めたが、昼食後の満腹感もあって少し眠気が差してくる。
「周平君、眠そうですね」
「ちょっと食べ過ぎたかも」
「じゃあ、少し休憩します?」
「そうだな」
俺はペンを置いて、伸びをした。椎子がじっとこちらを見ていた。
「どうかしたか?」
「いえ……休憩するなら、ちょっとこういうこともしたいなって」
そう言いながら、椎子がそっと俺ににじり寄る。
「し、椎子?」
「ダメでしょうか?」
彼女はためらいがちに俺の肩に寄りかかる。
「……ここなら誰も見てませんし、抱きしめても大丈夫ですよ」
「そ、そうだな」
俺は椎子の体を抱き寄せた。
「前に言いましたけど、こうやってハグされながら頭をなでられる夢を見たんです」
「うん、言ってたな」
俺は左手で椎子を抱き、右手で頭を撫でる。
「……夢が叶いました」
「そ、そうか……」
しばらく俺は椎子の頭をなでていた。
だが、ふと扉の方を見ると、何か隙間があいているような……まさか。
「麻奈!」
「ひゃっ!」
「何見てるんだ」
ドアの向こうから麻奈がひっそりとのぞいていた。
「ごめんごめん、椎子さんがうまくやってるかなーって思って」
「はい、上手くいきました」
椎子が照れくさそうに言う。
「うん、よかったよかった」
「よかったじゃないだろ、まったく……椎子は見られて良かったのか?」
「私は麻奈ちゃんにいろいろ相談していたので」
「そうなんだ……」
「でも、椎子さん、私はもう一段階アドバイスしたはずだけど?」
「そ、それは今日は無理です!」
「そっかあ。椎子さんがそう言うなら仕方ないか」
「おい麻奈! 余計なこと吹き込むな! ほら、出てけ!」
「はーい、ごめんなさーい!」
俺はドアをバタンと閉め、鍵をかけた。
「椎子、麻奈の言うことをあんまり真に受けるなよ」
「大丈夫です。麻奈ちゃん、私と周平君のことをちゃんと考えてくれてますので」
……まあ、そうかもしれないけど。
妹にリードされてる感は、ちょっと複雑だ。




