33 間違い探し
三階のスタバで待ってると、川口さん、岡﨑さんと話を終えた椎子がやってきた。
「周平君……」
「椎子、ここ座る?」
「はい……なんだか疲れました」
椎子は俺の隣に腰を下ろすと、小さくため息をついた。
「スタバは上手くいった?」
「はい、大丈夫でした」
「それはよかった。でも、岡﨑さんに根掘り葉掘り聞かれたんじゃない?」
「そうですね……それもありましたけど」
「何かあった?」
「彩花はキスの先も経験があると言ってました」
「ぶふっ!」
椎子の思わぬ言葉に咳き込んでしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫……それで?」
「まだ高校生ですが、そういうことも経験していった方がいいんでしょう?」
「……それはまあ……おいおい考えよう。俺たちはまだキスもしてないんだし」
「そ、そうですよね。わかりました。でも……いずれは体験してみたいです」
本当の初体験に話になってきたな。
「そ、そうか……」
「それはおいといて……周平君、早くお願いします」
「え? なにを?」
「忘れたんですか? 慰めてくれる約束のはずです」
慰める……つまりそういうことか。
俺は少し照れながら椎子の頭に手を伸ばし、優しく撫でる。
「ありがとうございます」
しばらく頭をなでていたが、ふと時計を見ると、そろそろバスの時間だ。
「そろそろ時間じゃない?」
「そうですね。今日は周平君とあまり話せませんでした」
「でも、俺の話はたくさんしたんじゃない?」
「はい、自慢してきました」
「じゃあ、それでいいじゃないか」
「はい。彩花も秘密にしてくれるって約束してくれましたし。思ったよりもいい人でした」
岡﨑さん、最初の印象はあまり良くなかったようだな。
「じゃあ、帰ります」
「うん、行こうか」
俺たちはいつものようにバス乗り場に向かった。
「庄一さんによろしくな」
「はい、ではまた」
椎子はバスに乗り込む。窓際の席から俺に手を振った。
俺も手を振り返す。バスが走り出し、彼女の姿は遠ざかっていった。
「……行っちゃったねえ」
背後から声がして振り返ると、川口さんと岡﨑さんが立っていた。
「見てたのかよ」
「全部見てたよ」
「はあ?」
「頭、なでてたねえ」
岡﨑さんがニヤニヤしながら言う。
「べ、別にいいだろ」
「いいけどさあ、学校ではクールな椎子があんなふうに甘えてるのはギャップがすごくて、思わず声出しそうになったわ」
「……誰にも言うなよ」
「分かってるって。でも気をつけなよ。噂って、あっという間だから」
「……そうだな」
「秘密は守るから安心して。じゃあね!」
二人は手を振りながら去っていった。
まったく、あいつらの野次馬根性には困ったもんだ。
◇◇◇
翌朝、学校に着くと椎子からメッセージが届いた。
椎子『今日は2人で勉強会しましょう』
周平『いいけど急だな』
椎子『優実たちがまた勉強会するというんで、今日は周平君と二人でやるって言いましたので』
なるほど。
周平『でもどこでやる?』
椎子『2人だと学校は難しいですね』
かといって俺の家まで行くと、椎子が帰る時間が遅くなってしまう。バスセンターは知り合いに会いやすい。少し離れた場所がいいな。
周平『ファミレス行くか?』
椎子『はい、わかりました』
放課後、バスセンター二階のテラスで待ち合わせ、ファミレスに向かった。ファミレスはここから少し離れている。だから大丈夫だろうと思ったのだが……
「……意外に高校生多いですね」
店内に入ると制服姿がちらほら見える。
「そうだな。でも、他校の生徒が多いし、大丈夫だろう」
「そうですね。では、ここでやりましょう」
テーブル席に座りメニューを開く。
「私はドリンクバーだけで十分です」
「俺はピザも頼もうかな」
スマホで注文を済ませ、ドリンクを取りに行くと椎子がなにやらメニューの裏を見ていた。
「これ……間違い探しですね」
二つの絵の細かい違いを探すやつだ。
「あ、もう見つけました」
「俺も見つけたぞ」
「周平君、どちらが先に十個見つけるか勝負しませんか?」
「いいね。対決だ」
俺たちは勉強も忘れ、夢中になって探し始めた。だが、ピザがやってきても10個全部は見つからない。顔を上げた椎子が言う。
「難しいです。お互い、見つけたものを言っていきませんか?」
「そうだな」
一つずつ確認すると、ほとんどがかぶっていた。
「じゃあ、これはどうです? テーブルの脚が少し短いです」
「え? 確かに! 椎子、よく気づいたな」
「ふふ、周平君は気がつきませんでしたか?」
「うん。わからなかったよ。でも、これはどうかな? この子の服の線が一本多い」
「あ、本当です!」
「これは気がつかなかった?」
「はい……ということはこれを合わせて二人で10個見つけましたね」
「そうだな。共同作業で見つけたな」
ん? 共同作業? 初めての共同作業ってやつだけど、椎子は何も気がついてないようだから言わないでおくか。
「たいへんです! 勉強する時間があまり残ってません!」
「そ、そうだな。早く始めよう」
俺たちは慌てて試験勉強を始めた。




