32 友達
翌日の昼休み。昨日と同じく、中庭にいる俺の隣に椎子が座った。その隣に川口さんだ。
「杉山君、昨日、椎子の家に行ったんだって?」
川口さんがニヤニヤしながら尋ねてくる。
「家までは行ってないよ。近所まで、だから」
「でも、一緒に犬の散歩したんでしょ?」
「ああ」
「いいなあ。うちは猫がいるから犬は飼えないんだよね」
「優実は猫を飼ってるんですか?」
椎子も知らなかったようだ。
「うん。見る? 写真あるよ」
「ぜひ、見せてください」
川口さんはスマホを取り出し猫の写真を見せた。
「……かわいいです」
「でしょ? うちのモモ、世界一かわいい猫なの」
「でも、庄一さんにはかないません」
「庄一さん?」
「うちの犬です」
椎子もスマホを取り出し、庄一さんの写真を見せた。
「わっ! 大きい! でも、優しそうな顔してて可愛い~」
「うちに来たときは小さかったですけど、今はすっかり大きくなりました」
「それにしても……庄一さん、なんか杉山君に似てない?」
「え!?」
椎子は慌てて俺と庄一さんの写真を見比べる。
「……言われてみれば、似てるかもしれません」
「ふふ、椎子が杉山君を好きになるわけだ」
川口さんがニヤリと笑うと、椎子は顔を赤くしてうつむいた。
なるほど……もしかしたら、本人も気がつかないうちにそういうきっかけがあったのかもしれない。
「……そろそろお弁当を食べようか」
ようやく、俺たちはお弁当を広げた。
そして食べ終わろうとする頃だった。
「ここにいたんだ」
背後から声がかかる。振り返ると、岡﨑彩花が立っていた。ちょっとギャルっぽい川口さんの友達だ。
「彩花、どうしたの?」
「どうしたのじゃないでしょ。優実と椎子が二人して消えたから探したの」
「消えたって……」
「なんか怪しいと思ったら、やっぱり杉山君いるじゃん。優実、やっぱり杉山君と付き合ってるの?」
岡﨑さんは、川口さんと俺を疑っているようだった。
「そんなわけないでしょ」
「……だよね。隣に居るのは椎子だし」
岡﨑さんの視線が椎子に移る。だが椎子は何も言わず、目を伏せたままだ。
「……え、ちょっと待って。まさか……!」
岡﨑さんは目を丸くし、俺と椎子を交互に見比べる。
「内緒にしておいてください」
椎子があっさり認めてしまった。
「え……いいけど……ガチなの?」
「はい、ガチです」
「マジか……でもいいじゃん! なんかお似合いだよ、二人!」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
「なるほどねえ、だから勉強会のとき、態度がおかしかったんだ」
「お恥ずかしい限りです」
「ふふ、これは詳しく聞かせてもらわなきゃね?。内緒にする代わりにいいでしょ?」
「優実から聞いてください」
「本人からがいいの! 放課後空いてる?」
「いえ、周平君と帰るんで」
「えー! 杉山君、今日の放課後、椎子借りていい?」
「……どこに行くんだ?」
「スタバかな」
「スタバ……」
椎子が俺を見る。これは、椎子が“初体験”を重ねてきた成果を見せるチャンスかもしれない。俺はうなずいた。
「いいよ。椎子、行ってきたら?」
「しゅ、周平君……」
「やったー!」
こうして椎子は初めてクラスメイトとスタバに行くことになった。
◇◇◇
午後の授業の休み時間、椎子からメッセージが来た。
椎子『周平君、私を見捨てましたね』
周平『違うよ。椎子がスタバに行けるようになったのを試すいい機会かなと思って』
椎子『まだ早いと思いますけど』
周平『大丈夫だって。自信持って』
椎子『不安です。終わったら慰めてください』
周平『わかった。三階のテラスで待ってる』
いつもの二階はスタバがあるから、少し離れた三階で待つことにした。
椎子『お願いしますね』
やっぱり椎子は不安なようだけど、お兄さんともスタバに行ってたしもう大丈夫だろう。是非、友人とのスタバを初体験して欲しい。
◇◇◇ side 椎子
放課後、私、櫻川椎子は川口優実、岡﨑彩花の三人で教室を出ました。
「ついに椎子と一緒に帰れる!」
優実が感慨深そうに言います。
「え、優実でも初めてなの!?」
彩花が驚いて言いました。
「そうだよ。いつも彼氏と一緒だから」
「そうなんだ。ラブラブじゃん!」
「当たり前です」
3人でスタバに入りました。やっぱり2人はスタバに慣れていて、あっという間に注文を済ませています。私は最後に注文しました。
「チラックスソーダマンゴーのトールで」
無難にいつものドリンクを注文し、受け取ったドリンクを持って席に着きました。
「あ、それチラックスってやつ?」
彩花が私のドリンクを見て言いました。
「はい、そうです」
「私、それ最初デラックスって言っちゃってさ~、超、恥ずかしかった! アハハ!」
彩花は自分の間違いをさらけだして笑っています。すごいです。私にはできそうにありません。
しばらく雑談をした後、彩花が言いました。
「さて、そろそろ聞かせてもらおうかな。どうして杉山君と付き合うことになったの?」
「……私が告白したからです」
「え、マジで!? てっきり、杉山君の方からだって思ってた。だって、椎子、めっちゃモテるでしょ? 選び放題じゃん」
「でも、私が好きになったのは周平君なので」
「そうなんだ。じゃあ、杉山君、告白されてめっちゃ喜んだでしょ?」
「いえ、最初は信じてもらえませんでした」
「え、なんで?」
「罰ゲームじゃないかって言われて……彩花たちはそういうのをやるんでしょう?」
「え!? ウチらはそんなことしないし! ……まあ聞いたことはあるけどね」
「やっぱり……だから信じてもらえませんでした。なので、半ば強引に付き合ったんです」
「椎子、すごいね……」
「最初はなかなか信じてもらえず焦りましたけどね」
「へー、椎子のような美人でも焦るんだね」
「焦りますよ。周平君が私を好きになってくれなかったらどうしようって毎晩のように悩んでました」
「でも、好きになってもらえたんでしょ?」
「はい、初めて好きって言ってもらえたときは天にも昇る気持ちでした」
「へー!」
岡﨑さんが目を輝かせて言います。
「あのときはすごかったねえ……椎子が興奮して私に電話かけてきたから」
「ゆ、優実……」
「そうなんだあ。嬉しかったんだねえ!」
「はい、やっと本当に恋人同士になれた感じでした」
「……それで、今はどこまで行ったの?」
「どこまで……?」
「だから、キスはした?」
「!! キ、キスなんて……してません……」
「そうなんだ。でも付き合ってどれぐらい?」
「一ヶ月ぐらいですね」
「だったらそろそろじゃない?」
「そうなんですか?」
「うん、そうだよね、優実」
「そうなんじゃないかな。知らないけど」
「あら? 優実もキスしたこと無いんだ」
「無いね」
「彩花はしたことあるんですか?」
「モチ! その先もやってるし」
「え? キスの先って……」
「だから、エッチなこと」
「そ、そんな……高校生で……」
「今時そんなこと言うなんて、清純ぶっちゃって~」
「そ、そういうわけじゃ……」
「彩花、椎子はマジだから」
優実が言います。
「え、ガチ? ……うわあ、杉山君も大変だ、これは」
「す、すみません……」
周平君にも迷惑をかけているのでしょうか。心配になりました。
「でもまあ、椎子は自分のペースで行けばいいと思うよ」
優実が言ってくれます。
「は、はい……」
でも周平君が望むなら……




