28 中庭
月曜日。天文部のメッセージグループに坂本部長からお知らせが届いた。
部長『今日から試験前期間なので部活はお休みね。部室も屋上の鍵も借りられないよ』
マジか……
つまり、椎子と一緒にいられないってことじゃないか。
すぐに椎子からも俺宛にメッセージが届く。
椎子『どうしましょうか?』
周平『仕方ないよ。お昼は別々に食べよう』
椎子『わかりました』
椎子は普段、お昼休みに他の女子から誘われても「部活動があるので」と断り、天文部の部室で過ごしていた。だけど部活動が休止中の今、どこかに一緒に行くのは無理だ。教室で食べるしかない。幸い、今は川口さんという友達もいる。
一方、俺は完全にぼっちだ。
以前は気分転換に教室を抜け出して中庭に行ったりしていた。
久しぶりに行ってみるか。
昼休み、久しぶりの中庭に俺は来ていた。ここにはカップルが多い。俺のようなぼっちは少数派だ。
だけど、場所に余裕はあるので人の少ない場所を見つけて座る。
今日の昼飯は、麻奈が作ってくれた弁当だ。一人でゆっくり食べよう。
弁当を食べ終え、のんびりしていると誰かが近づいてきた。
顔を上げると、坂本部長と見知らぬギャルっぽい先輩が立っていた。
「やっぱり彼氏君じゃん。一人?」
「はい。部室も開いていないので」
「だったら二人でここに来ればいいじゃない」
「そんなことしたらバレますよ」
「そっか。二人のことは内緒だったね。で、彼女はどこにいるの?」
「教室で友達と食べてます」
「なるほど……」
「ねえ、この人誰なの?」
坂本部長の隣に居るギャル先輩が俺を見て聞いた。
「同じ天文部の……名前何だったっけ?」
覚えてなかったのかよ。
「杉山です」
「そうそう、1年生の杉山君」
「なんで名前知らないのよ」
「ど忘れしただけだって。いつもは彼氏君って呼んでるから」
「彼氏君? さっきもそう呼んでたよね。何? あんたら付き合ってるの?」
「はあ? 自分の彼氏を彼氏君って呼ぶわけないでしょ。他の女子と付き合ってるのよ」
「天文部の?」
「そうそう」
坂本先輩、さらっとバラしちゃってるけど。
「先輩、それは秘密にする約束ですよ」
「あっ、ごめんごめん! でも安心して、この子は口堅いから」
ギャル先輩、こう見えて口堅いのか。そう思って見ていると、ギャル先輩が俺に言ってくる。
「後輩くん、黙っててあげる代わりにさ、放課後ヒマ?」
「暇では無いですね。彼女と会うんで」
「だから彼女じゃなくて私と遊ぼうってこと」
「無理です。バレたら彼女怒るんで」
「バレなきゃいいじゃん。ねえ?」
そう言いながら、ギャル先輩が俺の腕をつかんできた。
「ちょっと、やめなよ」
坂本部長が止めてくれた。
「まったく……すぐ他人の彼氏に手を出そうとするんだから」
「エヘヘ、だって、奪うのって燃えるじゃん?」
「奪ったらすぐ飽きるくせに」
「背徳感が無くなると冷めるの」
「……ほんと懲りないね」
坂本部長はため息をついて、こちらに視線を戻す。
「ごめんね、彼氏くん。ほら、行くよ」
「はーい」
二人は去っていった。
……嵐みたいだったな。
「……お楽しみだったみたいですね」
その声に振り返ると――そこに椎子が立っていた。
隣には川口さんもいる。
「し、椎子!?」
「少し目を離すとすぐこれですから」
「違うって。一方的に声をかけられてただけだし」
「どう思います? 優実?」
椎子が川口さんに聞いた。
「……杉山君ってモテるんだ」
「モテないから。からかわれただけだよ」
「そうは見えなかったけど。なるほどねえ、椎子が心配になるわけだ」
「わかってもらえて嬉しいです」
「何言ってるんだ。椎子の方がモテるくせに」
「それはそうですけど」
椎子はあっさり認めた。
俺の横に椎子、その隣に川口さんが座った。
「で、さっきの二人は誰?」
川口さんが聞く。
「天文部の坂本部長と、その友達」
「ふーん。何話してたの?」
「……今日遊びに行かないかって」
「やっぱり……」
「違うからな。坂本部長が俺を彼氏君って呼ぶから、俺に彼女がいるのがバレて、それで興味もたれただけ。彼女持ちの男を誘うのが好きらしい」
「あー、いるよね、そういう子」
川口さんがうなづく。
「そうなんですか? ひどいですね」
椎子はムッとした表情を浮かべる。
「人のものを奪って優越感を持ちたいんだと思うよ」
「許せません……やっぱり、しばらくは付き合ってることは秘密にしましょう」
「そう……だな」
でも、普通は公開した方が狙われにくいと思うけど。ギャル先輩は特殊な例だろう。
「でも、だとしたら……ここに座ってていいのか?」
俺の横に2人が座っているのをクラスメイトが見たら驚くだろう。
「優実もいるし、付き合ってるとは思わないでしょう?」
「まあ、そうだけど……」
「明日からここで一緒にお弁当を食べましょう。優実もいいですか?」
「私はいいよ」
「マジか……でも、俺と椎子が仲がいいことはバレるぞ?」
「それぐらいは許してもらえませんか? 周平君」
椎子が俺を見つめて言う。
「……仕方ないか」
「ありがとうございます」
椎子に外堀を埋められているような気もするけど。
まあ、いずれはみんなに言うことになるだろうな。




