27 ふれあい
「うちは両親と妹の4人だから、椎子の家は大家族に感じるよ」
「なるほど……。私、あまり友達の家に遊びに行ったことがないので、比べようがありませんでした」
「そうなんだ」
「はい。うちの家は田舎にあるんです。あまりに何も無い場所ですし友人を家に呼んだことは小さいとき以外はありません。本来なら彼氏である周平君を家に呼んだりするんでしょうけど、まだ勇気が出なくて。ごめんなさい」
「そんなの気にしなくていいよ」
「……そのうち、来てもらえるように頑張ります」
椎子の家は片田舎にあったのか。でも、椎子自身はいつも敬語でお嬢様みたいだけど。
俺たちはお弁当を食べ終わり、再び動物園内を歩き始める。
「あれ、何でしょうか?」
椎子が小さな立て看板を指差す。
そこにはこう書かれていた。
「モルモットのふれあいタイム(先着18組)」
その前には、10人ほどの行列ができている。
「動物にふれあえるイベントみたいだね」
「……私も、触ってみたいです」
「じゃあ並んでみよう」
「はい!」
先着順だったが、運よく俺たちは申し込むことができた。
時間になり、小屋の中へ入る。
囲いの中ではたくさんのモルモットがチョロチョロと走り回っている。
「よーし……触れるかな」
そう呟きながら手を伸ばすが、モルモットは素早く逃げていく。
「えっと……ふれあえるのかな、これ」
「捕まえてみます」
椎子は囲いの周りをすばやく動き、モルモットにそっと手を伸ばす。
「……!」
次の瞬間、彼女の両手の中に一匹のモルモットが収まっていた。
「かわいい……」
椎子がそっと撫でながら呟く。
「さすが運動神経抜群だな」
「よく言われますけど、そんなにすごくはありません。ただ足腰が強いだけで、球技は苦手なんです」
「そうなんだ」
「はい。だからバスケとかだとすぐにパスを出して目立たないようにしてます」
「なるほど……」
少し新しい一面を知れて、なんだか嬉しい。
あっという間に10分のふれあいタイムは終了。
「もっと触れたかったです……」
「椎子は、やっぱりああいう可愛い動物が好きなんだな」
「子どもっぽいですか?」
「そんなことない。……じゃあ、次はアレを見に行こう」
「アレ?」
◇◇◇
「か、かわいい……!」
俺たちが来たのはレッサーパンダのコーナーだった。
椎子は夢中になって見ている。ただし、周りは小さい子供で一杯だけど。
そして、俺はそんな椎子をずっと見ていた。
「可愛いものは見てて飽きませんね」
「そうだな」
俺は椎子を見ながらそう言った。
「……なんで私を見てるんですか?」
「だって、可愛いから」
「純情な周平君はどこに行ってしまったんでしょうね?」
「ごめん。椎子と一緒にいて、いろいろ経験を積んだから」
「でも、そんなに恋愛の経験は積んでませんよね?」
「そうだね。それはこれからかな」
「仕方ありませんね」
そう言うと、椎子は俺の腕を取って、急に体を寄せてきた。
「ちょっ! 椎子!?」
驚いた俺に椎子が言う。
「少しは純情な周平君が戻ってきたようですね」
「いきなり近づくから……」
「ふふっ。先に好きになったのは私ですから、恋愛の主導権は今後も私が握ります」
「そ、そうか」
「罰として、今日はずっとくっつきます」
「え!?」
椎子は俺の腕にぴったりとくっついた。
「椎子……」
「ふふ、動物園デート、すごく楽しいです」
耳元でささやかれ、心臓が跳ねる。
「さて、次の動物に行きましょうか」
彼女は俺の腕を引いて歩き出した。
◇◇◇
「さすがに疲れたな」
いろいろな動物を見て回って足が疲れてきた。椎子はくっついたままだ。
「ですね。休憩しましょう」
近くにベンチがあり、そこへ座る。
「アイスを売ってるな。買ってくるよ」
立ち上がろうとすると、椎子が俺の腕をつかんだ。
「椎子?」
「今日は罰としてくっつくって言ったはずです」
「でも……」
「トイレ以外はずっと一緒ですから」
結局、二人でソフトクリームを買いに行くことになった。
俺はチョコ味、椎子はストロベリー味を選ぶ。
「いただきます」
ベンチに戻り、食べ出した。
「美味いな」
「私のストロベリーも美味しいですよ。食べます?」
椎子がソフトクリームを差し出す。
俺はためらわず一口食べた。
「周平君、前は間接キスがどうこう言ってた気がするのですが?」
「椎子だって気にしなくなってるだろ」
俺は椎子にソフトクリームを差し出した。椎子もパクっと口にした。
「……そうですね。もう気にしてません。お昼もいつもそんな感じですし」
「だな」
「でも、間接キスを気にしなくなったら……次にすることは何でしょうね?」
「う……」
「ふふ、やっぱり周平君は純情です」
「そういうこと言うと俺も反撃するぞ」
「なんですか?」
俺は椎子に顔を近づけた。キスをするみたいに。
「しゅ、周平君……ここは公共の場ですし……」
「冗談だよ」
顔を離すと、椎子は頬を赤らめながら口を尖らせた。
「もう……意地悪ですね」
「ハハ、椎子も純情だな」
「当たり前です……でも、その時は近そうですね」
「そ、そうだな」
◇◇◇
帰り道、椎子が俺の顔を覗き込む。
「周平君、改めて聞きたいです」
「何だ?」
「私のこと、好きですか?」
椎子が俺の顔をのぞき込む。
「もちろん好きだよ」
「そうですか。じゃあ、いつ好きになりました? 私が告白したときはそうでもなかったですよね?」
「……そうかもしれない。でも、綺麗な子だなとは思ってたぞ」
「でも、恋愛的に好きじゃなかったでしょ? それがいつから好きになりました?」
「……正直分からないな。一緒にいたらいつのまにか椎子がいないとだめになっていた」
「そうですか。嬉しいです」
「でも、逆に聞くけど椎子はいつ俺を好きになったんだ? 告白したときは本当に好きだったのか?」
「はい、好きでしたよ。告白する前からいつも周平君を見てましたし」
「なんでだよ」
俺は目立たない生徒だったはずだ。
「言ったと思いますけど、私と似てるなって思ったからです。みんなから孤立してて。周平君は私に同じことを思いませんでした?」
「……正直思ったよ」
「ですよね。時々私を見てましたよね?」
「う……」
「その視線は感じてましたから。だから私も意識して見るようになったんです。気がついたらお話ししてみたいと思うようになってました」
「そうだったのか」
「はい。だからあの告白は私的にはかなりの勇気を絞り出しました。一世一代の賭けという感じです。上手くいって本当に良かったです」
椎子がそんなに勇気を振り絞っていたとは思わなかった。
椎子の優しい笑顔に、胸がぎゅっとなる。
この笑顔を、これからもずっと守っていきたい――そう思った。




