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私と初体験してくださいっ! ~世間知らずのクール姫と秘密の関係が始まった~  作者: uruu


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26 動物園

 土曜日の朝。

 待ち合わせ場所は、いつものバスセンター二階のテラス席。


 俺が到着すると、すぐに椎子がやって来た。


「お待たせしました」


「!?」


 思わず目を見開く。

 Tシャツにジーンズ姿――いつもの可愛い系の服ではなく、どこかスポーティーな装いだ。


「なんか……いつもと違うな」


「はい。今日はたくさん歩きますから、動きやすい格好にしました。どうですか?」


「すごく似合ってるよ」


「ありがとうございます」


「で、今日はどこに行くんだ?」


「動物園です」


 なるほど。


「……子供っぽいって思ってません?」


「そんなことないよ。デートで動物園に行く人、多いと思うし」


「そうですか。でも、子どもも多いでしょうから、子どもに見えないように少し大人っぽい服にしてみました」


 そう言う椎子は、確かに普段よりも落ち着いた雰囲気で、まるで雑誌から抜け出したみたいだ。

 この横を歩くのかと思うと、胸がざわつく。


「……行こうか」


「はい」


 俺は怖じ気づきながらも路面電車の電停に向かった。



◇◇◇



 路面電車を降りて動物園へ。

 チケットの購入は簡単だった。入り口横にあるチケット売り場でチケットを買い、中に入った。


「俺たち、こういうチケットを買うのにも慣れてきたな」


「そうですか? 私はまだ周平君がいないと不安です」


「……そうなの?」


「はい。だから、これからもずっと一緒にいてくださいね」


「わかった」


 頼られているのは、やっぱり嬉しい。


 園内に入ると、さっそくサルやクマの檻が目に入った。


「椎子は何が見たい?」


「……ペンギンとかどうでしょう」


「ペンギンか、すぐ近くだな」


「はい、では行きましょう」




 ペンギンの前で立ち止まると、椎子はじっとその姿を見つめた。


「ペンギン、好きなんだね」


「はい。私と似ている気がします」


「椎子と?」


「はい、鳥なのに飛べないところです。私も人間なのに人付き合いが苦手ですから」


「なるほど……」


 椎子はペンギンに自分を重ねて見ていたのか。

 少し切なそうな横顔に、俺は思わず言葉が出た。


「でも、ペンギンは飛べない代わりにすごく可愛い。椎子も、そうだ」


「……急にどうしたんですか?」


 椎子が驚いたように振り返る。


「ごめん、真面目な話してたのに茶化したみたいで」


「……私はペンギンみたいに可愛くありませんし」


「じゃあ、こう言おうか。ペンギンは飛べない代わりに泳ぎが得意だ。椎子は勉強もスポーツも得意。みんな苦手なことがあれば得意なこともあるんだよ」


「……そうかもしれませんね」


 少し笑った顔に、ほっとする。


「それで……私が『可愛くない』って言ったのは否定してくれないんですか?」


 椎子が少し拗ねた声で言う。


「もちろんそんなことはないよ。椎子は可愛い」


「ペンギンより?」


「世界中のどの動物より」


「……先手を打ってきましたね。他の動物を見たときにも言わせようと思っていたのに」


「仕方ないだろ。世界一可愛い生き物、それが椎子なんだから」


「周平君、そんなセリフ言う人でしたっけ?」


「椎子の前でだけな」


「なんか口が上手い感じがして好きじゃないです」


「ご、ごめん」


「女慣れしないでくださいね。純情な周平君が私は好きですから」


「気をつけるよ」


 今日の椎子はどこか意地悪だ。でもそれもまた可愛いけど。



◇◇◇



 いろいろな動物を見て回るうちに、気づけばお昼時。


「お昼はどうする?」


「心配はいりませんよ。今日はお弁当を作ってきました」


「え!? 本当に?」


「はい、私が作ってきましたので」


 芝生広場のベンチに座り、椎子が差し出すお弁当を開けると、そこにはハンバーグ、唐揚げ、ポテトサラダ、ウインナー――俺の好きなものばかりが並んでいた。


「どうぞ、召し上がれ」


「いただきます……」


 一口食べて、目を見開く。


「どうですか?」


「美味い! さすが椎子だな」


「ふふ、嬉しいです。勉強以外だと料理は一番私の自慢できるものですから」


「んっ!?」


「どうしました?」


「み、水……」


「もう……勢いよく食べ過ぎです」


 椎子が水筒を渡してくれる。ごくごくと飲んで、やっと落ち着いた。


「落ち着いて食べてくださいね」


「ごめん、あまりに美味しくて……」


「ふふ。今度、また作ってきてあげます」


「ありがとう」


「……いっそ、周平君の家に作りに行きたいですね」


「うちに?」


「はい。妹の麻奈ちゃんとも一緒に料理したいです」


「いいね。今度麻奈がいる日に連絡するよ」


「絶対ですよ」


「わかった」


 その話で思い出した。俺は椎子に兄がいることすら知らなかったのだ。この際、聞いておいた方がいいだろう。


「椎子の兄妹はお兄さんだけ?」


「そうですね。兄1人だけです」


「そうか。お兄さんは一緒に暮らしてるの?」


「いえ、大学に入ってからは東京にいますので。今は夏休みで帰ってきてるんです」


「そうか。じゃあ、普段は椎子と両親の3人暮らし?」


「いえ、両親と祖父、祖母、あと叔母ですね」


「結構な大家族だね」


「そうでしょうか。私はこれが当たり前でしたので何とも思いませんけど。むしろ兄がいなくなって少し寂しくなりましたね」


 椎子が俺に告白してきたのもお兄さんがいなくなった寂しさが原因の一つにあったんだろうか。



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