21 部室
翌日の昼休み。俺はいつものように天文部の部室に入った。
「周平君、早速ですけど……」
席に座る前に、椎子が立ち上がって俺のそばまで来る。
「え、何?」
「言ったじゃないですか。ちゃんと『好き』って言ってもらうって」
「そ、そうだったな。でも……ここでいいのか?」
「はい」
俺と椎子は立ったまま向かい合った。
「椎子……好きだ」
「周平君、私もです!」
そう言った椎子は勢いよく俺に抱きついてきた。
「し、椎子!?」
「すみません……本当はハグして欲しかったのですが、言えなかったので自分から抱きつきました」
「そ、そうなんだ。言ってくれれば良かったのに……」
俺はそう言いながら椎子の背中に腕を回した。
「幸せです……」
「そ、そうか」
「もう一回、好きって言ってください」
「椎子、好きだよ」
「周平君、私もです」
俺と椎子は抱き合ったまま見つめ合った。やばい……この流れはこのままキスしそうだ――
そのとき、コンコン、とドアがノックされた。
椎子は慌てて俺から離れ、椅子に座る。俺もそそくさと自分の席に座った。
「はい」
「入っていいかな?」
声の主はどうやら部長だ。
「どうぞ」
坂本部長が入ってくる。
「……ごめん、聞こえちゃった」
「「あ……」」
「お邪魔かな、とは思ったけど、部室でいろいろされるのもなあって」
「べ、別に何もしてませんよ!」
「そう? キスとかしてなかった?」
「し、してません! ちょっとハグしてただけです」
椎子、それ言っちゃうのかよ。
「あ、そうなんだ……でも部室であんまりハメ外さないでよ」
「わ、わかってます」
「ならいいけど」
坂本部長はくすっと笑った。
「……バレちゃったから言いますけど、私と周平君は付き合ってますので」
「うん、わかってるよ。邪魔しないように気を付けるね」
「お願いします。それで、今日はなんでしょうか?」
「文化祭の準備を少し話そうと思って。放課後がいいかな?」
「はい、放課後でお願いします」
「うん。じゃあ、また放課後ね」
「部長、このことは内緒でお願いしますね」
「わかってるって。でも、いいなあ。彼氏か……私も欲しい」
「周平君はあげませんよ」
「私をなんだと思ってるのよ。後輩の彼氏を奪おうとか思わないから」
「……なら、安心です」
「はいはい、もう行くからね」
坂本部長は笑いながら出て行った。
「……バレちゃいましたね」
椎子が少し赤い顔で言った。
「う、うん。やっぱり部室でああいうことはやめた方がいいな」
「はい……ちょっとやりすぎました。優実がやれやれって言うから」
「え?」
「あ、なんでもないです。さ、早く食べましょう」
「そうだな」
俺たちはようやく昼飯を食べ出した。
◇◇◇
放課後。俺と椎子は再び部室へ向かった。
部室には、すでに坂本部長が来ていた。
「あ、椎子ちゃんと彼氏君。どうぞ座って」
彼氏君って……俺は苦笑いだが、椎子はその呼び方に何も言わず席に座った。俺も椅子に腰を下ろす。
坂本部長はホワイトボードに大きく文字を書いた。
"文化祭企画会議"
「では天文部、文化祭企画会議を始めます! 今年、何かやりたいことがある人!」
そう言われても何をどうやったらいいのか、一年生の俺たちに思い浮かぶわけがない。
椎子が困った顔で聞いた。
「あの……去年はどういうことをしたのでしょうか?」
「去年はプラネタリウムだね。一応、機械はあるよ」
「あ、いいですね。じゃあそれで」
「でも、それだけじゃあ、単純すぎない? ただ機械で映像映すだけじゃあねえ」
「なにか説明を加える、とかでしょうか」
「そうね。そういうのもいいわね」
「どういう説明をするか、ですね……」
「ところで2人はプラネタリウムを見たことは?」
坂本部長が俺たちに聞く。
「「ないです」」
「え、2人とも!? デートの定番でしょうに……付き合ってるならそれぐらい行かないと。ましてや天文部同士でしょう?」
「言われて見れば、確かにそうですね」
椎子がしょんぼりした顔で言った。
「でもこのあたりだとプラネタリウムは博物館だし、平日は時間的に厳しいわね。じゃあ、今度の週末、行ってきなさい」
「はい、わかりました」
「じゃあ、企画会議はその後にしようか。まずはプラネタリウムを知らないとどうしようもないよね」
「すみません……」
そう言うと、坂本部長は帰っていった。
「……周平君、土曜日空いてます?」
「もちろん。じゃあ、その日に行くか」
「はい、楽しみです」
ということで俺たちは土曜日にプラネタリウムに行くことにした。




