20 side 椎子
私、櫻川椎子は家の用事があって、今日はすぐ帰らなければいけませんでした。
本当はもっと周平君と一緒にいたかったのに……仕方ありません。
特に今日は、天文部の部室に部長が来てしまって……周平君は、私が誘ってもなかなか入ろうとしなかった部に、あっさり「入る」なんて言い出したのです。
私、少しショックでした。
もしかして、周平君は部長のようなタイプが好きなんでしょうか。
眼鏡を掛けていて真面目そうなのに、どこか軽やかで人当たりのいい人です。
私とは正反対――。
そんなことを考えていたら、「天文部に入らないで」なんてことまで心の中で思ってしまいました。
……でも、そんなのは良くないですよね。
せっかく入ってくれるって言ってくれたのに、私が子どもみたいに駄々をこねるわけにはいきません。
「部長と仲良くさせなければ大丈夫」
そう自分に言い聞かせましたが、夜になっても胸のモヤモヤは消えてくれませんでした。
――この気持ち、どうにかしないと……
昼休みも放課後もゆっくり話せなかったし、解消するには……もう、今しかないです。
私はスマホを握り、思い切って周平君に電話をかけました。
「今日はあまり話せなかったので……周平君と話したくて電話しました」
『そうか、椎子。今日は不安にさせてごめん』
「……何の話ですか?」
分かっていたけれど、あえて知らないふりをしました。
私が気にしていることを、悟られたくなかったからです。
『部長だよ』
「あー、部長ですか、大丈夫です。周平君には部長と話しさせませんから」
『そういうところだよ。やっぱり信用されてないなあって思って』
「信用……ですか。まあ、前科もありますし」
思わず言ってしまいました。
『あれは仕方なくだってば』
「わかってます。ですが、私も不安なんです。周平君には私がわがままを言って付き合ってもらってますから」
『でも、俺だって今は椎子と一緒にいて楽しいから』
――よかった。
周平君も楽しいって、そう思ってくれてるんですね。
「……そうですか。それなら私も嬉しいです」
『椎子……伝えておきたいことがある』
急に真剣な声。
胸がドキン、と大きく鳴りました。……まさか……最悪の事態が頭をよぎります。
「え……? な、なんですか? 改まって。やめてくださいね、悲しい話は」
『違うよ。そうじゃない。でもこの機会に伝えておきたいんだ』
「な、なんですか?」
一体何を伝えたいんでしょう。ちょっと恐くなりながらも周平君の言葉を待ちました。
『椎子……俺、椎子のことが好きだ』
「っ……!!」
息が止まるかと思いました。
「しゅ、周平君……な、何ですか急に……びっくりしました……」
『いや、よく考えたら、俺、椎子にちゃんと『好き』って言ったことなかったなって思って。だから不安にさせてたのかもって』
「そう……かもしれませんね。私は好きって伝えましたし、告白だってしましたけど……周平君の気持ちをちゃんと聞いたこと、ありませんでした」
私、少し強引に進めすぎていたのかもしれません。
『だからちゃんと伝えたかった』
「そ、そうですか……ありがとうございます。私も……周平君のこと、好きです」
『ありがとう』
「……なんか、すごく照れますね」
『だな』
「でも……今度は、電話じゃなくて直接言ってください」
『え?』
「明日、お願いしますね」
『明日!?』
「はい。そして……できれば、その……」
――できればハグもしてほしい。
けれど、それは恥ずかしくて言えませんでした。
『何?』
「いえ、なんでもないです。では……おやすみなさい」
私は電話を切ると、胸に手を当てて大きく息をつきました。
「周平君が私を好きって言ってくれました……」
嬉しさが体中からあふれてきて、じっとなんてしていられません。
「っ……!!」
気づけば、私はベッドの上をゴロゴロ転がりながら、足をバタバタさせていました。
だめです、落ち着きません。
この気持ち、誰かに話したい……!
でも、私にはこういうときに話ができる友達がいません。
……それを考えると少し悲しくなります。
「……あ」
私のスマホには1人だけ、女子のクラスメイトの連絡先がありました。
川口優実――そこまで親しいわけじゃないけど、今の気持ちを自分の中だけに抱えておくのは無理です。
私は意を決して、彼女に電話をかけました。
『もしもし、椎子?』
「すみません、優実。こんな遅くに」
『どうしたの?』
「実は……ちょっと嬉しいことがありまして。自分の中だけで抱えておくにはあまりに嬉しすぎたので、優実にも聞いてほしくて」
『え、なになに? 聞きたい聞きたい!』
「では言いますね。実は……周平君から『好き』って言ってもらいました!」
私はきっと、優実も一緒に大騒ぎしてくれると思っていました。
けれど返ってきたのは冷たい声。
『は? それだけ?』
「そ、それだけって……私には大事件なんです!」
『え、だって2人ってもう付き合ってるんでしょ?』
「そうですよ」
『だったら好きなのは当たり前じゃない?』
「当たり前じゃないです! 私から告白したので私は好きって言ってたんですが……」
『え、まさか杉山君は言ってなかったの!? マジか……』
「はい……」
『うわぁ……椎子を彼女にしておいて好きって言わないとかありえないでしょ。さすがにちょっとなあ』
「いいんです。杉山君はそういう人なんですから」
『まあ、椎子が嬉しいならそれでいいけど』
「はい。嬉しいんですけど……」
『まだ何かあるの?』
「はい。電話じゃなくてちゃんと言ってもらいたくて」
『え? 電話だったの?』
「はい。だから明日直接言ってもらうように約束しました」
『そっか。よかったじゃん。じゃあ何の問題も無いね』
「それが……」
『まだ何かあるの?』
「はい。できればハグしてほしいと思ったのですが……言えませんでした」
『ハグかあ。今までしたことは?』
「ありません」
『そっかあ。だったら、確かにしてもらいたいよねえ』
「はい……」
『だったらさあ……』
そこから優実が私に作戦を教えてくれました。




