18 映画後
映画が終わり、館内が明るくなる。
俺は隣の椎子を見た。椎子も同じタイミングで俺を見つめてくる。
「面白かったですね」
「そ、そうだな」
まだ手はつないだままだった。
「い、行こうか」
「はい」
どちらも手を離すタイミングを掴めず、そのまま立ち上がり、劇場を出た。
「……なんだか、離しづらいですね」
「うん。でも……俺、トイレ行こうと思って」
「そ、そうですね。では、あとで」
ようやく手を離し、それぞれトイレに向かう。
先に出た俺は、椎子が来るのを待った。
すると――
「お待たせしました」
椎子は来るなり、また俺の手を握った。
「椎子?」
「いいですよね?」
「う、うん」
俺たちは自然な流れで、再び手をつないだまま歩き出した。
「スタバ、また行きませんか?」
「そうだね」
俺たちは手をつないだままスタバに向かった。さすがに店に入る前にそっと手を放す。
「チラックスソーダマンゴーのトールで」
椎子は今度はちゃんとメニューを言って注文した。
「スタバ、もう慣れた?」
そう聞くと、椎子は得意げに微笑む。
「はい。完璧です」
――まだ二回目なのに、すごいドヤ顔だ。
飲み物を受け取って席に座ると、椎子がうれしそうに話し出す。
「それにしても映画、面白かったですね」
「だな。『不思議の国のアリス』なのに、日本人キャラが自然に馴染んでて驚いた」
「はい、まるで本当にあの世界に入り込んだみたいで……夢を見てるみたいでした」
「夢?」
「はい、小さい頃、不思議の国のアリスを読んだ後、よくああいう夢を見たんです。自分が本の世界に入り込む夢」
「なるほどな」
「だから今回、それが現実になったようで……しかも周平君と一緒だなんて、本当に夢の続きみたいです」
「え?」
「……な、なんでもないです!」
椎子は顔を赤くして慌てて視線を逸らした。
「映画って2人で見るとその後に感想を言い合えるのが楽しいですね」
「たしかに。だからデートの定番なんだろうな」
「なるほど……あ」
突然、椎子が入り口の方を見て動きを止める。
「どうした?……っ!」
視線の先には、俺たちのクラスメイトたちがスタバに入ってくる姿があった。
「まずい! とりあえず出よう」
「はい」
俺たちは慌てて別の出口から外に出て、バスセンターのテラスへ出た。
「……なんとか気がつかれなかったな」
「はい……ふふっ」
椎子は微笑む。
「秘密の関係って、なんだか楽しいですね」
「そ、そうか……」
椎子に迷惑をかけてるんじゃないかと思っていたが、椎子がそんなふうに楽しそうにしているなら、まあいいか。
「この後、どうする?」
「そうですね……あ、屋上に行ってみませんか?」
「いいね。階段で行けば、知ってる人と鉢合わせることもないし」
「なるほど。ではそうしましょう」
俺たちは階段を上り、映画館のあるフロアを抜けてエスカレーターで屋上へ向かう。
屋上に出るとそこは庭園のようになっていた。
「ここは初めて来ました」
「そうなんだ。俺は時々来るよ。ほら、あっちにベンチがある」
庭園の奥の方にあるベンチに座ると、ようやく落ち着けた気がした。
「でも、もしさっきクラスの連中に見つかってたら……どうなったんだろうな」
「そうですね。私に彼氏がいるのはもう知られてますし、あれが彼氏だって大騒ぎになってましたね」
「だよな」
「でも、騒ぎはすぐに落ち着くんじゃないですか?」
「まあ……そうかもな」
あれ? そう考えると何を怖がってたんだろう。俺は秘密にする意味がだんだんわからなくなってきた。
「周平君」
「ん?」
「そのうち、私たちの関係はバレると思います。それでも、いいですか?」
椎子は、俺の心を見透かすように言った。
「……ああ、いいよ。バレるまでに覚悟を決める」
「はい。じゃあ、それまでは秘密の関係を楽しみましょうね」
そう言って、椎子は微笑んだ。
◇◇◇
家に帰ると、妹の麻奈が待ち構えていた。
「お兄ちゃん、椎子さんとのデートどうだった?」
「ああ、映画見てきたぞ」
「ふーん。で、手はつないだの?」
「ま、まあ……つないだな」
「じゃあ、そのあとキスは?」
「するわけないだろ、映画館で」
普通しないよな、たぶん。
「別に映画館じゃ無くても、帰り道とかさ」
「してないって」
「ふーん……お兄ちゃん、もしかしてさ」
「何だよ」
「付き合ってから、全然進展してないんじゃない?」
「そ、そんなことない! 椎子とかなり仲良くなったぞ」
「じゃあ、手をつなぐより先は?」
「……まだだ」
「えー、もう3週間でしょ? そろそろじゃない?」
「そ、そうなのか?」
「知らないけど」
「知らないのかよ」
「でも、もしかしたら椎子さん、待ってるかもよ」
「椎子が……そんなわけないだろ」
「……まあ、椎子さんだしね」
麻奈は一瞬考えてから、同意するように頷いた。
――けど、椎子は本当はどう思ってるんだろう?
俺はすぐにでもキスしたいわけじゃない。けれど、いつかはするんだろうか……
そんなことを考えると、少し現実味がなかった。




