17 映画館
土曜日。今日の待ち合わせ場所はバスセンターの2階テラスだ。
本来であればバスセンターは高校のすぐ近くだしデートの場所として避けるべきだろう。だが、映画となるとここか駅ビルってことになる。川口さんからのアドバイスでこの間のような椎子のファッションならバレないだろうという話だったから、ここにしたのだ。
「お待たせしました」
振り返ると、椎子が立っていた。
白いブラウスに黒いリボン、黒系のフレアスカート。さらに、いつもはおろしている髪を二つ結びにしている。
――可愛い。いや、可愛すぎる!
俺は椎子を見つめたまま、固まってしまった。
「どうしましたか?」
「いや……あまりにも可愛すぎて……」
「やっぱり、子供っぽいですよね……」
「そうじゃないよ。すごく素敵だってこと」
「だったらよかったです。もしかして周平君、こういう服の私、好きですか?」
「うん。好きだね」
「ありがとうございます。私、私服はこういう感じばかりでして……髪型も少し変装っぽくしてみたんです。どうですか?」
「完璧だよ。全然気づかれないと思う」
「よかったです。周平君に褒められると嬉しいですね」
人形みたいに可愛くて、正直、隣に並ぶのが気後れする。でも、この姿なら椎子だと気づかれにくいはずだ。
俺は勇気を持って言ってみることにした。
「椎子、写真を撮っていいかな?」
「私のですか?」
「うん。あまりに可愛いから」
「そんなに気に入ってもらえて嬉しいです。もちろんいいですよ」
「ありがとう」
俺はスマホを構え、緊張しながらシャッターを押す。
「あ、でも誰にも見せないでくださいね。優実にもですよ」
「わかってる」
「それと……2人で撮りませんか?」
「2人で?」
「はい」
確かにカップルなら自撮りは定番だ。
「やってみようか」
スマホをインカメラにして手を伸ばす。慣れてなくて少しもたついたが、なんとか構えられた。
「もっと近づかないと、二人とも入りませんね」
椎子がおれにぐっと近寄った。
「っ……!」
「これなら大丈夫そうです」
椎子は平然としているが、俺は内心ドキドキだった。
何とかシャッターを押す。
「その写真、私にも送ってください」
「わかったよ」
写真を送ると、椎子はスマホの画面を見て微笑んだ。
「……最高です。宝物ですね」
◇◇◇
映画館に着いた。まずは何を見るかだ。俺たちは事前に何を見るか話していたが、結局決まらず「現地で決めよう」ということになっていた。
「できればあまり観客がいない映画がいいです」
「確かにな」
俺も椎子も人見知り。だから空いてる映画がいいが、どれがそうなのか分からない。
「椎子はどんな物語が好き? アニメとか小説とか漫画とか」
「そうですね……小説は漱石とか芥川とか、古典が多いですね」
夏目漱石か。そんな映画は無いな。
「それにこの間買ったライトノベルも気に入りました」
「確か悪役令嬢や婚約破棄ものだったっけ」
俺と一緒に本屋に行ったときに買ったものだ。
「はい。主人公がつらい目にあうところは読んでいて苦しかったですけど、自分で運命を切り開いていく姿は読んでいてワクワクしました」
「そうか、気に入ってもらえて良かったよ」
「はい。私もああいう強い心があれば、少しは違ったのかも……」
「え?」
「……なんでもありません」
椎子は視線をそらした。
「周平君は戦うようなライトノベルが好きでしたよね。映画も、そういうのがいいですか?」
「そういうわけじゃないけど……やっぱりアニメがいいかな」
「アニメ……ですか」
俺はアニメ、椎子は古典か。ふと見るとぴったりの映画があった。
「これだな」
「ですね」
『不思議の国のアリス』のアニメだ。
二人で顔を見合わせて頷く。
俺たちはチケットを購入するために機械の前に行った。
「時間もちょうどいいです。あ、席を選ぶんですか」
「そうだね。どうしようか」
「これでいいのではないですか?」
椎子が指さしたのはカップルシートだ。少し恥ずかしい気もするけど他の人から隔離されているし、落ち着けそうだ。
「……そうだな」
俺たちはカップルシートを選んだ。
「じゃあ入りましょうか」
「待って。映画館ってよくああいうの食べてないか?」
俺は売店を指さす。そこにはポップコーンが売ってあった。
「確かにそうですね。買いましょう」
俺たちは売店に進む。ポップコーンを注文するとドリンクも勧められ、結局それも買って劇場に入った。
「このポップコーン、たくさんありますね」
「そうだな。食べきれるかな」
失敗だったかも。でも、みんな買ってるし大丈夫だろう。
カップルシートに座ると、普通の席より広く、肘掛けが無いのに気づいた。
「席と席の区切りが無いね」
「カップルシートですし……くっついたり抱きついたりするためですかね」
「そ、そうかもな」
世の中のカップルはそうかもしれないけど、俺たちはそこまではしないだろう。しないよな。
俺たちはポップコーンをつまみながら予告編を見て映画が始まるのを待った。
(こんなに映画ってあるんですね)
椎子が耳元でささやく。
やばい、耳元でささやかれると、何気ない言葉も刺激が強い。
(また来ましょうね)
(そうだな)
そして映画が始まった。
俺たちはポップコーンを食べながら画面を見つめていると、椎子の指先が俺の手に触れた。
(ごめんなさい)
(別にいいよ。付き合ってるんだし)
(そ、そうですね)
あんなにたくさんあったポップコーンは映画の中盤には無くなっていた。
映画はクライマックスにさしかかる。そういえば、ライトノベルの映画館シーンでは、カップルが手をつないでいるのをよく見るけど……どうしよう。つないだ方がいいんだろうか。俺は思わず椎子を見る。椎子も気がついて俺にささやいてきた。
(どうしましたか?)
(……手をつないでもいいか?)
(ええ、いいですよ)
そっと椎子の手を握る。
椎子も握り返してくれた。
そのまま最後まで、ずっと手をつないで映画を見た。




