16 告白
翌朝。教室に入ると、椎子からメッセージが届いていた。
椎子『おはようございます。今日のお昼休みですが少し遅れます』
いつもの天文部部室での待ち合わせに遅れるらしい。でもなんでだろう?
周平『どうかした?』
椎子『手紙が靴箱に入ってましたので』
靴箱に手紙。まさか……
周平『もしかしてラブレター?』
椎子『おそらく』
やっぱり告白か。彼氏がいる女子に告白するなんて……いや、俺たちの関係は秘密なのだから、仕方ない。
周平『俺が一緒に行こうか?』
椎子『そんなことしたら関係がバレますよ。それに川口さんについてきてもらうので大丈夫です』
川口さんか。彼女なら俺と椎子の関係を知ってるし、きっと上手くフォローしてくれるだろう。そのときは、そう思っていた。
◇◇◇
お昼休み。俺は先に部室に入り、弁当も開けずに椎子を待っていた。
やがて、扉が開く。
「周平君、お待たせしました」
「いや、大丈夫だよ……って、え?」
「ごめん杉山君、お邪魔します」
椎子の後ろから、なぜか川口さんまで入ってきた。
「へぇー、二人っていつもここで過ごしてるんだ」
部室を見回しながら、川口さんが興味津々で言う。
「それはいいですから。川口さん、用事を済ませてください」
用事?
「そ、そうだね。杉山君……ごめんなさい!」
突然、川口さんが深々と頭を下げた。
「えっと……どうしたの?」
「櫻川さんに彼氏がいるって、つい言っちゃった」
「はあ?」
川口さん、秘密にしておくって約束だったはずだろ……。
「ごめん! でも、杉山君が彼氏ってことは言ってないから。ただ、櫻川さんに彼氏がいるってことだけ」
「それにしてもどうして……」
「周平君、仕方なかったんです」
椎子がフォローする。
「今日の人がしつこくて……」
「やっぱり告白だったのか?」
「はい、何度断っても迫ってきて」
「だから私が出て行って『やめなよ』って言ったんだ。そのとき、つい彼氏の話をしちゃって……」
「そういうことか。それなら、別にいいよ」
「ほんと?」
「ああ。椎子を守ってくれてありがとう」
「ほら、言った通りでしょう? 周平君は絶対に怒らないって」
椎子が自慢げに言う。
「そ、そうだね……櫻川さんの言うとおりだったけど、でも、ごめん。もしかしたら、『櫻川さんに彼氏がいる』って噂は広がっちゃうかも」
「まあ、それで椎子が告白されなくなるなら別にいいよ」
「そっか……そうなるといいよね」
「……もう謝罪は済みましたよね。川口さん、出て行ってください」
椎子が冷たく言った。
「あ、うん……お邪魔しました」
「二度とここには来ないでくださいね」
笑顔なのに、妙に怖い椎子。
「こ、恐いって、櫻川さん。じゃあ、また」
川口さんは逃げるように部室を後にした。
「……ふぅ、本当に困った人です」
椎子がため息をつく。
「でも、俺のせいだよ。交際をオープンにしてたら、こんな面倒は起きなかった」
「まあ、そうですけど。でも、私は周平君と秘密の関係というのも気に入ってますし」
「そ、そうなんだ」
「とにかくお昼にしましょう」
「そうだな」
二人で弁当を広げ、その後は穏やかな時間が流れた。
◇◇◇
翌朝。教室に入ると、椎子の席の周りがざわついていた。
「櫻川さん、彼氏がいるってホント?」
またよく知らない女子が椎子に話しかけている。どうやら昨日の話が早速広まったらしい。
「はい、本当です」
椎子は表情を変えずに答える。
「えー! どんな人? 同じクラス?」
「言えません」
「そう言わずに教えてよ!」
あっという間に椎子の周りは女子に囲まれてしまった。
まずい……そう思った瞬間、教室に大きな声が響いた。
「こら! 櫻川さん、困ってるでしょ!」
川口さんだ。
「ごめーん、つい気になっちゃって」
「人には事情があるんだから、困るようなこと聞いちゃだめだよ」
「そうだね。櫻川さん、ごめんね」
「いえ……でも、少しなら話します」
「え? いいの!?」
「はい。彼氏は私と性格がよく似ていて……でも頼りがいがあって、とても信頼できる人です」
「うわぁ、いいなあ!」
「はい、私にはもったいないぐらい素敵な人です」
「キャー! 櫻川さんが照れてる!」
教室中が一気に華やいだ。
それにしても、椎子、俺のことをそんな風に思ってたのか。
◇◇◇
昼休み。ようやく騒ぎも落ち着き、俺と椎子はいつもの部室で向かい合っていた。
「椎子、大変だったな」
「はい、ちょっと疲れました」
「でも、あんな風に話すなんて意外だったよ」
「聞いてたんですか? 恥ずかしいです」
椎子は顔を赤らめた。
「いつもなら話さないだろ」
「……そうですね。自分でも不思議です」
「じゃあ、どうして話したんだ?」
「それは……ちょっと彼氏を自慢したくなったのかもしれません」
「えっ?」
「素敵な彼氏だ、ってみんなに言いたくなったんです」
「そ、そうか……」
俺なんて、全然素敵じゃないと思うけどな。
でも、椎子にそう思われてるなんて。俺は照れまくりで何も言えなくなった。
昼休みの終わり頃、椎子が言った。
「周平君、今週末は空いてますか?」
「空いてるよ」
「だったらデートしましょう」
「デートか……それはいいけど、どこか行きたいところにあるの?」
「優実と少し話しまして……」
優実? 川口さんか。いつの間にか名前で呼ぶほど親しくなったようだ。
「デートの話をしたら『映画を見に行ったの?』と聞かれまして」
「映画か……確かにデートの定番と聞くな」
「はい。ですが、私は映画館に行ったのなんて、子供の頃に親に連れられて以来です」
「そうか……俺も同じ感じだな。だったら2人で行ってみるか」
「はい! 映画の初体験、お願いしますね」




