15 スタバ
放課後、俺と椎子はバスセンターのスタバに来ていた。
「周平君はもうスタバの経験者ですよね。本当は二人とも何も知らない状態で来たかったです」
スタバが近づくにつれて、椎子の機嫌はまた少しずつ曇っていった。
「そんなことないって。スタバは注文がめちゃくちゃ難しいんだ。俺もまだ緊張してるし」
「またそんなことを言って……行きましょう」
椎子はため息混じりに言いながら、俺よりも堂々とスタバに入っていく。
だが、カウンターの前に立つと、こっそり俺を前に押し出した。
「ご注文はいかがしましょう?」
さて、どうするか。前回と同じものを頼むのは楽だ。でも、それじゃあ逃げだろう。椎子はこのスタバという未知の壁にチャレンジしているのだ。俺もチャレンジすべきだろう。
「えーと……ダークモカチップフラペチーノのトールで」
「ダークモカチップフラペチーノのトールですね」
「はい……」
よし、ちゃんと通じたな。川口さんは何か追加の要望をしてたような気もするが今日はやめておこう。
続いて椎子の注文になった。
「えーと……デラックスソーダマンゴーで」
「……かしこまりました。サイズは何にされますか?」
「サイズ? えっと……普通で」
「はい、590円です」
無事、椎子も注文できたようだ。それにしてもデラックスソーダマンゴーか。デラックスとは凄そうだな。そう思ってメニューを見ると……ん? チラックス!? まあ、椎子には言わないでおくか。
俺たちは無事にドリンクを受け取り、窓際の席に座った。
「スタバ、意外と簡単でしたね」
ドヤ顔の椎子を見て、思わず口が滑った。
「でも、椎子、サイズはトールとかグランデとか、そういうのだぞ」
「え、そうなんですか? 『普通』じゃダメなんですね」
「伝わるけどな。それにメニューも。よく見て」
「何がですか? デラックスソーダマンゴー、あってるじゃないですか」
「ほんとに?」
「え……あれ? デラックスじゃない! チラックス!? ま、間違えました……」
「俺も最初そう思ったからしょうがないよ」
「そ、そうですか。でも店員さんには通じたみたいですね」
「たぶん、間違える人が多いんだろうな」
「恥ずかしいです! もう、この店には来られません!」
「大丈夫だって。店員さんだって毎日何百人も相手してるし、いちいち覚えてないさ」
「そ、そうですか……でも、周平君、気がついてたら教えてくれたら良いのに」
「いいのか? その場で言って」
椎子はいじられるのは嫌だと言っていたはずだ。
「周平君ならいいんです。彼氏ですし」
「そ、そうか。じゃあ今度からはちゃん言うようにするな」
「はい、お願いします」
椎子はにこりと笑い、ストローでドリンクを吸った。
「それにしても周平君……今日一緒にスタバに来れたので、私より先にスタバに行ったことは許します」
「……ありがとう」
「でも……私がいるのに、他の女子と二人で会ったことは許してないですからね!」
「え!? それも怒っていたの?」
「当たり前です! 私は周平君の彼女なんですから。それなのに周平君が他の女子と二人で行動したら怒ります!」
「そ、そうだよな。でも、川口さんの前ではそのことは言ってなかったから……」
「……あの場ではちょっと恥ずかしかったんです。川口さんに私が嫉妬してると思われるのが嫌だったので……」
「え?」
「私があの人にヤキモチ焼いてるなんて、思われたくなかったんです」
「そうだったんだ……」
そういえば以前、椎子は「私はプライドが高い」と言っていた。川口さんに弱みを見せたくなかったのだろう。
「でも、本音では怒ってます。嫉妬してます。私というものがありながら他の女子と2人でなんて……」
「ご、ごめん!」
「……川口さんのことが気になってるんですか?」
「違うよ。川口さんに話があるって言われて、断ったら椎子と付き合ってることをバラされるんじゃないか、って思ったんだ」
「……そういうことですか。川口さんの魅力に惹かれたとかじゃないんですね?」
「それはない! 誓って言う!」
真剣な顔で言う俺を、椎子はじっと見つめた後、小さく頷いた。
「そうですか……だったらいいですけど。周平君、もう二度としませんか?」
「うん、二度としないよ」
「わかりました。許します。でも、周平君は私の彼氏ですからね。くれぐれも忘れないでください」
「もちろんだよ」
当然、俺は川口さんによこしまな気持ちは持っていない。だから誘いに乗ってしまったが、椎子の気持ちを考えれば不安になるのはわかる。これからはちゃんと考えて行動しないと……
でも、椎子が俺にここまで嫉妬してくれるなんて……ちょっと嬉しいかも。
◇◇◇
夜、椎子からメッセージが届いた。
椎子『川口さんと友達になりました』
え? 俺は驚いた。川口さんとは険悪な感じだったけれど。
周平『なにかあったの?』
椎子『川口さんがメッセージをくれて、また謝ってくれました。そして友達になって欲しいと言われましたので』
川口さんはいわゆるコミュ強。椎子を除いたクラスの女子全員と話してるし、きっかけがあれば椎子ともすぐに友人になれたのだろう。でも、椎子は川口さんにも塩対応だったはずだ。
周平『椎子が気を許すなんて珍しいね』
椎子『だって周平君のことをすごく褒めてくれるので。私も乗せられてしまいました』
なるほど。さすがはコミュ強だ。
でも、クラスに女子の友達ができたのは良かった。これで少しは椎子もクラスになじめるだろう。




