#08 永遠祭
変装を変えながら、いくつかの酒場で情報交換を終えて俺は屋敷へ帰る。
空の旅を終えて変装と浮遊を解除して、おれは屋敷に入った。
そして、壁の修理を三分の一ほど済ませた。
「あら、ヴォル。姿が見えなかったけど、どこにいたの?」
「すいません。少しお腹を壊していて。・・・明日に持ち越しても、よろしいでしょうか? このペースだと、明後日までかかるかもしれませんが」
「もちろんよ。魔道具を戻す時は言ってね。」
そう言って、俺はあと二日の猶予を得る。
そして、酒場への噂を広め続けた。
最終日、時間的に最後となる酒場を後にして、俺は考える。
ここエスピオンは冒険者も多い。
魔道具が使える上、希少な鉱物も狙えるからだ。
その分、情報交換の場である酒場も数多く立ち並ぶ。
俺が三日間で訪れた酒場は、その内の一握りに過ぎない。
だが、冒険者が多い分、情報が広まる速度も速いはず。
これで、噂が広まってくれればよいのだが。
そう思って、俺は屋敷へ到着した。
変装を解除して俺は壁を直し終える。
そして、母へ報告を終えた。
「あらヴォル、壁の修復は終わったの?」
「はい。時間がかかってしまい申し訳ありません。」
二日目で壁の庭側が修復が終わっていたので、姿を見られないことに違和感はないはず。
そもそも、この屋敷には執事が居らず、母が全て管理をしているため、俺をいちいち見る暇はないだろう。
「いいのよ。じゃあ、これが鍵ね。しまっておいてちょうだい」
「かしこまりました」
後は、噂が広まるのを待つだけ。
そう思って、俺は部屋に戻った。
◆◆◆
あれから八ヵ月後。
変装や演技、そして魔道具の効力により、噂は瞬く間に広がった。
そして、さらに二か月後。
ようやく、そのイメージが定着してきたようだ。
そんな中、母が俺の部屋を訪れた。
「ヴォル、来月に帝都で社交界があるそうなんだけど、行く?」
「そうなんですか・・・せっかくですし、行ってみます」
来月にあるのは、『永遠祭』と呼ばれる祭。
この国の国教『聖心教』の祭で、永遠を願う祭なのだそう。
だが、俺に用があるのは社交界だけ。
人脈は、広ければ広いほど武器になる。
裏社会に通ずる者や、魔法に長けた者を味方につけることができれば大きい。
そう思って、俺はその準備を始めた。
◆◆◆
『永遠祭』当日。
帝都・ツェアファレンは、数多くの馬車が集い、賑わっていてた。
「楽しみだわね、ヴォル」
「はい、母上」
今回の目的は人脈を広げること。
だが、その際に俺の力を試そうとする者がいないとも限らない。
ヒナにお願いして、社交界の期間は身体強化魔法をかけてもらっておいた。
それにより湧き上がる力を感じながら、俺は帝都の景色を眺める。
俺と反対側の席には、兄の姿もあった。
「・・・ったく、たかが魔物を倒したぐらいで剣士の才なんて、馬鹿らしい・・・」
ボソボソと、悪口を呟いているようだ。
そして、もう一人の兄の姿もある。
次男、マジア。
二年前に魔力量Sランクの鑑定結果で帝国を驚かせた、天才だ。
マジアは相変わらず、ただ黙って座っている。
「もうそろそろ着くわよ。ようやく、ソルセ様に会えるわね」
母は嬉しそうにそう言った。
◆◆◆
『聖心教』
その総本山・ラッツィズモ大教会に、一人の司教姿の男が座っていた。
「宮廷魔導士の一族に、剣士が生まれるとはな」
その傍には、もう一人司教姿の男がいる。
スフィア教の中心的存在、『大司教』の一人・ゼロータだ。
「噂によると、大将軍ジョーヴァの血を引いているとか」
ゼロータの言葉を、その男は笑い飛ばした。
「ふん、ありえるものか。・・・魔法連合の謀だろう」
「ならば、その罪を償わせましょう」
ゼロータの提案に、男は首を振る。
「奴を消したところで意味はない・・・重要なのは、背後にいる者の始末だ」
その言葉に、ゼロータは頷いた。
「教王様・・・ご子息を、潜入させるのですか?」
「ああ。あの子も、そろそろ仕事の一つはできるだろう。」
◆◆◆
「へぇ・・・ヴォル、ね。社交界に来ているのか」
少年は、そう言って笑みを浮かべていた。
「はい。ラカーザ公爵家の三男とのことです」
「案外、ジョーヴァの血を引くというのもありえるのかもね。あの魔法の一族から、剣士が生まれるなんて聞いたことがない」
「私が、確かめましょうか?」
傍にいた騎士の提案を、少年は断った。
「いや、いいさ。恐らく、奴が試すだろうから」
そう言って、少年はまた笑う。
「本当に、面白い者が現れたものだね。本物ならば、我が駒にしたいものだよ」
◆◆◆
「ほう・・・魔力なしの剣士・・・か」
帝都で、ある貴族がその報告を受けていた。
白髪と白髭を伸ばす彼には、歴戦の猛者という言葉が似合う。
「ありえますか? 剣士であっても、その多くは魔力を持っているものですが」
「そんな理屈などどうでもよい。儂がこの目で、確かめるのみよ」
そう言って、その貴族は立った。
「【大将軍】エストリア・ゾーレ・ス・バストを欺こうものなら、その首を落とすのみ」
歴史上、三人目の大将軍。
その眼が、最凶謀略家を見つめている。
ある者は後ろを睨み、ある者は駒を欲し、ある者は真の戦士を求める。
虚像の剣士を見つめる目の中で。
最凶謀略家は、帝都の地へ降り立った。