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#07 魔法都市エスピオン

魔法に優れた町は発展する。

この都市はその中でも、特に発展した場所だ。


世界に三つが認定されている【魔法都市】の一つ、エスピオン。

屋敷がある魔力の多い地域『魔林帯』を囲うように形成されており、その魔力の恩恵により多くの魔道具が魔力なしでも使用できる。


そんなエスピオンの酒場に、俺は顔を出した。

幻影の魔道具により俺は大人の姿に変装している。


「いらっしゃいませ、お客様」


「どうも、マスター。」


その話し方だけで、俺にはそのマスターの情報屋としての資質が伺える。

何が嘘で、何が本当か。

情報屋としてそこを判断する力に長けている。


だが。

俺は、全てを欺いた最凶の謀略家だ。


注文したワインを出され、俺はそれに口をつける。

持って来た『ある魔道具』で酔いをなくしていると、マスターの方から話しかけてきた。


「お客様はどちらから?」


「・・・少し、南から」


その言葉で、マスターは察したような表情をする。

ここの南には、とある国がある。


三大国家の一角、【ドーズ魔法連合】。

魔法に優れ、魔道具や魔導書の貿易で栄える連合国家だ。


ここはそのすぐ北に位置し、地域的な魔力にも優れていることから交流や貿易が盛ん。

そして、そのぶん政治的な思惑も絡んで来る。


その地域的な魔力は、様々な鉱物も作り出す。

魔金(オリハルコン)魔銀(ミスリル)(レッド)水晶クリスタルなどが主だ。

その資源を得るために、公爵家と関係を持とうとする連合国の諜報員が多くいる。


俺もその一人だと上手く勘違いしてくれたようだ。


「こちら側からの良い情報がある。その代わり、ラカーザ公爵について話してほしい」


「かしこまりました」


マスターは笑顔を変えずにそう返した。


「・・・我々の中に、少し乱暴な策を思いついた者がいる」


「乱暴な策、ですか」


「ラカーザ公爵の息子を人質に、取引をするというものだ」


その言葉に、少しマスターの顔に動揺が見られた。

想定外ではあっただろう。


(ラカーザ公爵)と良い関係を築きたいのなら、恨みは買わない方が得策のはずなのだから。


だが、信憑性はある。

少なくとも、魔法連合としては父の態度に苛立っているはずなのだから。


父は、魔法連合に依存しているこの都市を領地としながら、宮廷魔導士という地位を持つ。

その影響で、政治界から父を排除することを目論む者もいた。


それを恐れた父は、方針を転換し魔法連合との貿易や交流を制限した。

特に、連合側の諜報員は厳しく街へ入ることが禁じられたのは大きい。


魔法連合側としては、強引な手段を使ってでも資源を取り戻したいだろう。


「・・・それを言っても、よろしかったのですか?」


「俺としても、手荒なことは望まないからな・・・だが、この情報を広めるも、独占するも、マスターの自由だ。それと、もう一つ」


「なんでしょう?」


その言葉から少し間を置いて、俺は言った。


「トゥール王国の王子が呪われたという情報は、入っているか?」


再び、マスターが動揺した。


トゥール王国は、魔法連合の構成国の一つ。

魔法都市の一つを抱え、多くの富を得る大国だ。


先月、その若き王子が急病にかかったという情報が公開された。

病気の原因ははっきりしていないという。


だが、その王子を最も邪魔と考える存在がいた。


王国の政権を握る、筆頭魔法使いグランペだ。

グランペが王国の政権を握っていたのは、王子がまだ若かったため。


しかし、王子は既に16歳となり、成人した。

しかもグランペには反対派で、魔法使いの政権介入を嫌っていたという。


間違いなく、今回の急病はグランペの仕業。

そして、公表されている症状から見て、病気や毒ではなく呪詛だ。


「・・・それは、本当なのですか。」


「俺はトゥールの人間ではないが、間違いない。これが証拠だ」


そうして俺が取り出したのは、魔道具だった。

ひし形の血水晶(レッドクリスタル)のネックレスに、見事な意匠が施されている。


その水晶は、光り輝いていた。


「・・・紅界(ルージュ)の首飾り(ソトワール)


紅界の首飾りは、儀式魔法の行使を感知する魔道具だ。


魔法は、複数人で行使するほど効力は上がる。

それが呪詛魔法などの実戦で使わない魔法であれば尚更だ。


知らず知らずのうちに呪われてしまえば、それが呪いかも分からない。

そのため、儀式魔法を感知する魔道具が作られたのだ。


効果は300km圏内で儀式魔法が行使されれば、赤く輝くというもの。

そして、ここはトゥール王国より800km以上離れている。


それは、俺が魔法連合の人間という証拠になるのだ。


もちろん、実際は違うが。

これは、幻影魔法により輝かせているだけ。

実物を持ってくることにより本物かどうかで疑われることをなくしたのだ。


暗殺計画を知っていること、紅界の首飾りの所持、そして何より紅界の首飾りの反応。

俺が魔法連合の人間だということを相手は確信したはず。


「では、約束通り情報をいただこうか」


「かしこまりました。・・・つい数日前、魔力なしと鑑定された公爵家の三男・ヴォル様が、Aランク魔物を討伐されました」


「・・・ほう、興味深いな。だが、魔力なしでAランク魔物の討伐だと?しかも、三男はまだ10歳に満たなかったはずだ」


そう言うと、マスターは答えた。


「ええ。ヴォル様は7歳です。ですが噂によると、戦士の才がおありだったとか」


「ふん、笑えるな。・・・魔法使いの一族に、戦士の者だと? 何者かが裏に_」


そこまで言って、俺は言葉を切る。


「いかがしました?」


「・・・いや、思い出したことがある。その三男の母は、確か魔法使いの娘ではないか?」


「ええ。名前までは憶えておりませんが」


「俺は、彼と出会ったことがある。帝国の魔法使いで一、二を争った男_スパーダ・ネオ・エルト。」


「そうでした、スパーダ様」


「『ネオ』・・・この族姓は、ある戦士と一致する」


その言葉に、マスターは驚いた。


「・・・まさか」


「【大将軍】ジョーヴァ・ネオ・スケルマ。彼は、その子孫だったのではないか?」


「・・・ですが、ジョーヴァ大将軍は子がいなかったと」


そう言うと、俺は首を振った。


「いや、ジョーヴァは慎重で戦略に長けた戦士だったという。ならば、大将軍の血を引く子を、隠していても不思議ではない」


「・・・確かに」


この情報を、普段の彼なら少なからず疑っただろう。

だが、今彼はそれができない。


【毒返しの杖】

酒への耐性と、相手の理性の低下のため俺が持って来た魔道具だ。

そして、さらに。


_【盲信の魔道具】

一度信じたことを疑えなくする、凶悪な魔道具。

二つの魔道具を重ねて使うことで、このマスターは完全にこの噂を信じ切った。


後は、マスターに噂を流してもらうだけ。


「・・・いい情報が得られた。感謝しよう。では」


そう言って、お代を払い、俺は次の酒場へ向かった。

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