#03 魔物の討伐
まず、追放を免れるためにはなんらかの才能が必要となる。
魔力なしである以上魔法の才は無理だが、特別と認められれば追放はされない。
方法は二つ。
一つは、他の兄弟を全員消すこと。
しかし、A~Sランクの魔力を持つ兄弟を暗殺するのは困難な上に、できたとしても暗殺後に他家から養子をとられるとまずい。
それに、自分だけが兄弟の中で残ったとなれば、暗殺の疑惑が起きかねない。
ヒナのために暗殺を躊躇するつもりはないが、ヒナ自身に危険が及べば元も子もないので、少なくとも今はすべきでない。
もう一つは、魔力を使わない形で強くなること。
身体能力を重視する戦士や、魔道具を使用する魔道具使いになれば、追放はされないはずだ。
戦士の才能はこの家に求められてはいないが、武闘派との繋がりは父も欲しいだろう。
だが、どちらにしても、今のままでは無理だ。
戦士にも身体強化のために魔力は必要だし、魔道具使いになるための技量もない。
今は、人脈を広げるのがよいだろう。
とはいえ、人脈を広げるのにもまた特技が必要。
どうしたものかと考えていると、どこからかヒナが俺の傍へ歩いて来た。
「どうした?」
「いえ、こんな真夜中まで何かを考えていらっしゃるようで、心配で」
「少しぐらい大丈夫だ。ヒナももう遅い。寝てくれ」
そう言うと、少し迷ったような顔をして、ヒナは言った。
「よろしければ、これ」
そう言ったヒナの手から、淡い光が放たれる。
そして、羽織のようなものが現れた。
ヒナが、魔法を使える。
その驚きよりも先に、俺の脳裏にある記憶が浮かび上がった。
◆◆◆
「父上、遅くまで起きているとお体に障りますよ。」
月明りの通った部屋の中で、娘が言った。
「少しぐらい大丈夫だよ。それより、お前が寝てくれ」
そう言うと、娘は手に持っていた羽織を自分に着せる。
「すまん」
「風邪を引かれては困りますから。では、おやすみなさいませ」
そう言って、娘は廊下を歩き立ち去っていく。
静寂とした冬の庭を眺め、俺は目を閉じた。
既に、娘の縁談がいくつも上がっている。
だが、娘を他所に嫁がせるつもりはない。
いかに娘を守るか。
それを、俺は考え続けていた。
◆◆◆
「・・・ヴォル様?」
ヒナに声をかけられて、俺は我に返る。
「ああ・・・ありがとな。・・・魔法が、使えるんだな」
「はい・・・少しだけですが」
少しだけ、ではないだろう。
今の魔法は恐らく転移・召喚魔法か創造魔法。
どちらも難易度の高い魔法だ。
それを、あの短時間でなんでもないかのように使った。
それだけで、ヒナの実力が伺える。
下手をすれば、10歳ほどの今でも父を超える力があるのかもしれない。
ならば、と俺は思う。
身体強化魔法を使ってもらえば戦士にも、魔道具を作ってもらえば魔道具使いにもなれる。
だが。
ヒナに頼っていいのか、とも思う。
悩んでいると、ヒナの方から声をかけてきた。
「何かお悩みでしたら、遠慮なく言ってください。お手伝いいたします」
ここで俺にできることは、ヒナの力を借りること。
それ以外に方法はない。
「・・・すまない。手を貸して欲しい。」
「どのようなことでしょうか?」
「ヒナの呪いを解くには、地位と財力が必要だ。そのために、人脈を広げておきたい。だが、今の俺は魔力なしで興味を向けられることはないだろう。・・・だから、なんらかの功績を上げておきたいんだ」
そう言うと、ヒナは微笑んで言った。
「でしたら、私が魔物を召喚し、ヴォル様が倒したことにすればいいのではないでしょうか。」
ん?
思ったのと違うぞ。
「いや、別にそこまで・・・」
「私が庭で仕事をしている時に強大な魔物が現れ、私は助けを呼ぶ。そして、それをヴォル様が討つ・・・大丈夫です、絶対にばれないようにいたします」
「まあ、それでも問題はないが・・・。」
ここは立地的に魔力が多い。
そのため、まれに魔物の襲撃を受けることがある。
ヒナはその年齢でそこまで考えていたのかと、少し驚いていた。
「では、明日の昼前に実行しましょう。おやすみなさいませ」
強大な魔物の召喚。
召喚士でもないのに、そんなことができるのか。
少し不安を抱えながら、俺は布団に入った。
◆◆◆
朝。
起きて着替え、朝食を食べる。
あの鑑定から、母の配慮で俺はヴィオレと朝食をとることはなくなった。
それでも、出会う度に嘲笑ってくるが。
だが、そんなことはどうでもいい。
昼前まで魔法の本を読み、そして今日の策略を頭で確認する。
重要なのは、魔物を倒すための剣。
訓練用の剣で勝つと流石に疑われるので、真剣を持って行かなかればならない。
この家は元々魔法の一族なので、剣をほとんど置いていない。
しかし、魔法剣の元となる剣や、衛兵の使う剣なら置いてある。
場所は、庭と部屋との間にある武器庫。
扉は頑丈だが、既にヒナが魔法で脆くしたらしい。
「・・・そろそろか」
日が昇って来たと感じた、その時。
庭の方面から小さく悲鳴が聞こえた。
「・・・よし」
俺は廊下を走り、倉庫へ辿り着く。
そして、思い切り倉庫の扉を蹴った。
「・・・くそっ」
しかし、それでも扉は破れない。
運動をろくにしていない7歳の力では、脆くしてある状態でも厳しかった。
それでも。
「はあっ!」
今回の策略を失敗に終わらせるわけにはいかない。
その一進で、倉庫の扉を開けた。
中にある剣を握って、俺は走り出す。
「・・・なっ」
庭に出て見えたのは、巨大な魔物だった。
魔力探知の才がない俺にも、その強大な魔力を感じ取れる。
猪のような姿をしたそれは、長い牙を生やしていた。
「グルルルルルルルル・・・!」
圧倒的な魔力量、巨躯。
それに、俺は一瞬動きが止まる。
「ヴォル様」
傍で、ヒナが言った。
こんなところで、止まっているわけにはいかない。
後ろで、ヒナが何かを呟いた。
すると、体から力が湧き出してくる。
これが、身体強化魔法。
剣を握る。
そして、駆け出した。
今までとは比べものにならない速度で、俺は魔物に突っ込む。
そして。
魔物を、切り裂いた。
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
魔物は、苦しそうに雄叫びを上げる。
しかし、まだ動けるようだ。
後ろをちらりと見ると、騒ぎで人が集まってきている。
これなら、大丈夫そうだ。
俺は剣を握ると、魔物に再び突っ込む。
「はぁっ!!!!!」
全力の一振り。
それは、魔物の首を斬り落とした。
「・・・ふぅ」
恐らく、魔物の硬度を落としてくれていたのだろう。
おかげで身体強化だけで仕留められた。
倒れ伏す魔物を見ながら、俺はそう考えていた。