#02 謀略の目覚め
幸い、魔力なしだった俺を哀れんで、母はヒナを使用人にすることを許してくれた。
しかし、魔力がない現状ではいつ追放されてもおかしくはない。
だが、今は追放されてはいけない理由がある。
使用人となってもらった以上、ヒナの呪いを解かなくてはならない。
そう思い、毎日のように魔法の本を読んだ。
「ごめんなさい、私のせいで」
「いい。・・・ヒナのせいじゃない」
そう言いながらも、俺は内心迷っていた。
何の関係もない人を救うのに、何の意味があるのかと。
今世には娘のような『捨てられないモノ』はいない。
そして、それを作るつもりもなかった。
前世で自分が負けた理由は、それを捨てる覚悟がなかったから。
「お掃除、してきます」
「ああ」
そう言って、俺は本と向かい合う。
そして、考えていた。
やはり、似ている。
話し方も、考え方も、雰囲気も、全てが。
もしかすれば、あいつは転生した_。
そこまで考えて、やめた。
この広い世界で偶然娘と出会うことなんて、ありえないのだから。
「ふぅ・・・。」
息を吐いて、俺は考える。
本に書かれているのは、呪いの魔法の基本のみ。
「もっと・・・知識を得なければ」
知識を得るためには、やはり必要になるのが地位だ。
呪いを解くために何らかの素材が必要ならば、それを手に入れる財力も必要。
だが、それを誰かのために求めた男の末路を、俺は知っていた。
娘のために地位と財力を求め、血を血で争う醜い権力争いの末に、娘を捨て切れず滅んだ男の滑稽で愚かな話を。
「・・・。」
諦める、べきなのだろうか?
赤の他人のためにこんなことをして、せっかく手に入れた第二の人生を捨ててもよいのか?
「第二の人生、か・・・。」
俺はなぜ転生した?
遠く離れた異国に生まれた?
俺の生きる意味は何だ?
「掃除が終わりました、ヴォル様」
「ありがとな、ヒナ」
「いえ。・・・それより、休まれた方がいいのでは?」
そう言われ、俺は窓を見た。
すっかり、日が暮れている。
「もうこんな時間か。分かった、もう休む」
そう言うと、安心したようにヒナは自室へ去っていった。
なんだろう、この感情は。
娘と話している時に似た、不思議な感情。
それを自覚して、俺の口元に自然と笑みがこぼれる。
俺は、ヒナを大切に思っているのだ。
気付いた時には、ヒナは『捨てられないモノ』になっていた。
ならば、俺は。
あらゆる謀略を駆使して、絶対にヒナの呪いを解く。
前世でも、そうしたように。