#14 郊外で
魔法都市エスピオンは、魔力の多い『魔林帯』を囲うように形成されている。
そのため魔物は多いが、冒険者や魔法兵も多く、正直俺が行っても意味がない。
だが、それより北は、冒険者の数は少ない。
理由は、旨味が少ないからだ。
危険な魔物が多い割には、町や村が少なく、素材を売れる場所がほとんどない。
危険な魔物の素材はかさばるので、都市まで持っていくには面倒なのだ。
そして、単純に危険で討伐してほしい魔物がいても、村や町では大した金額が出せない。
そのため、帝国の治安維持を担う帝国軍と、数少ない聖騎士が討伐しているのが現状だ。
そんなところで危険な魔物を討伐すれば、多くの者から感謝される。
あとは、俺に憧れて同行を願う者がいればいい。
何度か同じことを繰り返せば、一人や二人ぐらいいるだろう。
そう思って、俺は北へ歩き続けた。
しばらくすると、近くに村が見えた。
小さな村だが、それなりに防衛力はあるようだ。
村を囲うように柵が設置され、物見櫓もある。
そんなことを考えて、村へ着いた。
「おや、こんなところに子どもとは珍しい。」
そう言って、一人の男性が近付いて来た。
そして、俺の服を見て、驚いたような顔をした。
「まさか、貴族の方ですか? なぜこんなところに?」
俺の着ている服は、戦闘ができるよう動きやすく軽量だが、素材は高級で装飾も施されている。
庶民の服でないとはすぐ分かっただろう。
「とある貴族の子で、剣士になるため危険な地域で修行をしようと思いまして。この村の周囲に、危険な魔物はおりますか?」
「そうでしたか・・・。実は、西の山に多くの魔物がおりまして・・・我々は困っているのです。西の山は狩り場で、このままでは食料が尽きてしまうと」
「なるほど。それなら任せてください」
「しかし、よろしいのですか?」
その男性が、少し心配そうな顔をして言う。
まあ、まだ8歳の子どもだからな。
周りよりは背が高く、10代に見えないこともないが、それでも子どもは子ども。
護衛もいないのだから、心配されるのも無理はない。
「大丈夫です・・・これでも、大将軍の血を引いていますから」
その言葉に、男性は驚く。
「大将軍・・・!?」
「ええ、では。一応、村の方にも伝えておいてください」
こうして、俺の戦いは始まった。
◆◆◆
西の山へ登り始めてわずか数分で、魔物は現れた。
Eランクの魔物、ゴブリンだ。
もちろん今の俺にとっても雑魚だが、正直コイツらの力は一般人とそこまで変わらない。
ゴブリンたちが、俺を見つけて騒ぎ出す。
魔力が感じられなかったからか、ゴブリンの一体が俺に襲い掛かった。
「剣を抜くまでもないな」
俺はそう言って、ゴブリンの横を通り過ぎる。
ゴブリンの首は、それだけで飛んだ。
「グゲェ!?」
周りのゴブリンが、驚いたような顔をする。
その隙に、俺は腕を振るった。
ゴブリンが、その風で消し飛ぶ。
分かってはいたが、この身体強化魔法の力は凄まじい。
これが長時間できるヒナは、一体どれほどの力を持っているのか。
そんなことを考えながら、俺は山を登った。
一時間後、かなり魔物が増えてきた。
ゴブリンやオークなど、その種類は様々だが、頂上に近付くほど強くなっている。
(Sランクの魔物でもいるのか・・・?)
強大な魔物がいると、その周囲には同系統の魔物が集まる。
時には、巨大な群れを成して魔物津波を起こすこともある。
恐らく、頂上には強大な人型の魔物がいるのだろう。
そう思って、地面を踏んだ、その時。
目の前に、巨体が見えた。
「・・・あれは」
Aランク魔物、ゴブリンキング。
しかし、その体は圧倒的なまでに大きかった。
その魔力は俺でも感じ取れるほど圧倒的で、周りには通常のゴブリンキングが十体以上いる。
これはまさか。
「・・・変異種か」
魔物は、魔法的要因で突然変異することがある。
その場合、通常のランクよりも強くなることが多い。
このゴブリンキングは恐らくSランクに近い実力がある。
「・・・だが、ここで負ける訳にはいかない」
前世の剣術と戦闘経験に、ヒナの身体強化魔法。
それを合わせ、目の前のコイツを倒す。
その決意と共に、俺は剣を抜いた。