#13 魔女
屋敷に戻ると、ヒナが部屋の前で待っていた。
「お疲れさまでした、ヴォル様。ところで、社交界はどうでしたか?」
「上出来だったよ」
俺はそうとだけ言って、部屋に入った。
ヒナに、全てを教える必要はない。
そのせいで、ヒナの心を痛めてしまうかもしれないから。
「・・・ふぅ」
必要なのは、最低でも二十人以上の魔法使いの一団。
もしくは、遠隔で魔法を封じる魔道具。
父は宮廷魔導士で、帝国の魔法兵団の統帥権を持っているが、俺が自由に動かすことはできない。
なら、他国に手を伸ばすべきか。
最も狙い目なのは魔法連合。
二つの魔法都市が存在する魔法大国である上に、複雑な利害関係のもと成り立っており、つけ入る隙が多い。
あとは、三大国家の一角・シャド王国もいいだろう。
シャド王国は魔法兵器の技術に長けており、魔道具も多いはずだ。
そして、シャド王国では現在、混乱が起こっている。
その原因は、【魔女】だ。
【魔女】は元々、人類に敵対する女性の魔族を指す言葉だったが、現在では一握りの強力な女性魔法使いが、魔女と認定されている。
3人いる魔女の内の一人、それが【炎の魔女】だ。
大陸の南方の多くは、シャド王国が植民地支配している。
それに反抗しているのが、炎の魔女。
混乱が起こっている国では監視が弱まる。
シャド王国と魔法連合、双方に探りを入れてみるのがいいだろう。
だが、この立場では探りを入れるための人材がいないな。
裏社会の組織にでも依頼できればいいが、そんな伝手はない。
なら、探すしかないだろう。
各地で魔物を討伐し、恩を売って人材を集めれば、ある程度は信用できる。
そう思って、俺は行動を始めた。
「ヒナ、魔物を討伐して評判を上げたい。身体強化魔法をつけてくれないか?」
結局、いつもヒナに頼ることになる。
だが、こうでもしないとヒナの呪いは解けない。
そう思い込んだ。
「分かりました。」
「ところで、身体強化魔法をあれだけ長時間かけて大丈夫だったのか?」
魔法をかけてもらいながら、俺はそう言う。
「二人同時は流石に無理です・・・でも、一人なら魔力が持ちますよ」
どんな魔力量をしているんだ。
そう思いながら、俺は屋敷を発つために母の部屋を訪れた。
「魔物の討伐?」
「はい。この領土で困っている人たちを助けたくて」
母は、少し心配そうな顔になった。
「心配しなくても大丈夫です。大将軍と戦うわけでもありませんし」
「・・・分かったわ。でも、本当に気を付けてね」
そう言われ、俺は母の部屋を後にする。
そして、屋敷を発った。