五限 固有魔術と冥王アルベド
固有魔術
固有魔術とは、生まれつきごく一部の者だけが持つ特殊な魔術であり、その力は「魔極の十席」の一人、冥王アルベドによって刻まれたものとされる。
かつては遺伝によるものと考えられていたが、固有魔術を持つ者の家系に共通点がないことから、その説は否定されている。どのような基準で刻まれるのか、あるいは刻まれること自体に意味があるのかも不明であり、すべては冥王アルベドの意志によるものとされる。
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固有魔術の特徴
1.外部魔法陣が不要
通常の魔術は、魔法陣を描いたり展開することで発動するが、固有魔術は体内魔力そのものが魔法陣となっているため、準備が不要。
そのため、詠唱や動作なしで即座に発動可能なものもある。
魔法を封じる呪印や、魔法陣の展開を妨害するトラップの影響を受けにくい。
2.生まれ持った個人専用の魔術
固有魔術は一人ひとり異なる。
遺伝によって受け継がれるケースはなく冥王により無作為に決められる。
他者が同じ固有魔術を習得することは不可能。
3.通常の魔術とは異なる法則で発動
固有魔術は通常の魔術とは別のルールで成り立っているため、反転魔法陣や一般的な魔術封印の影響を受けない場合がある。
例えば、通常の炎魔法が無効化される環境でも、固有魔術による「炎」は影響を受けずに燃え続けることがある。
4.強力だが制御が難しい
固有魔術の発動は無意識で起こることがあり、感情に左右されやすい。
特に幼少期は暴発のリスクが高く、制御が困難。
一部の者は「生まれながらにして災厄」と呼ばれるほどの危険な固有魔術を持つこともある。
5.魔力消費量に個体差がある
一般的な魔術よりも効率的に魔力を使用するものもあれば、膨大な魔力を必要とするものもある。
中には、一度使うだけで数日間魔力が枯渇するほどの負担を伴う固有魔術も存在する。
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固有魔術の分類
固有魔術は、大きく3つのカテゴリーに分類される。
① 発動型
•条件を満たせば、自動的に発動する固有魔術。
•無意識下で発動することもあり、事故を引き起こすことがある。
例:
•「死の視線」 → 視界に入った対象の生命力を削る魔術。
•「逆転の盾」 → 受けたダメージをそのまま相手に跳ね返す。
•「自己再生」 → 負傷した瞬間に肉体が修復される。
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② 操作型
•特定の物質や概念を自由に操る固有魔術。
•通常の魔術では不可能な操作が可能。
例:
•「空間歪曲」 → 空間を自在にねじ曲げ、短距離のワープが可能。
•「時間加速」 → 一定範囲内の時間の流れを早める。
•「血液操作」 → 自分の血を自由に変形・硬化させて武器化する。
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③ 創造型
•通常の魔術では生み出せないものを作り出す固有魔術。
•「新たなエネルギー」「未知の元素」など、常識を超えた創造が可能。
例:
•「虚無の炎」 → 物理法則に従わず、燃え広がることのない炎を作り出す。
•「疑似生命創造」 → 一定時間だけ動くゴーレムや分身を生み出す。
•「武器生成」 → 魔力を凝縮し、完全に物質化した武器を生み出す。
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固有魔術のリスク
固有魔術を持つ者は、社会から迫害されることも少なくない。
•一部の固有魔術は「危険すぎる力」とされ、生まれた時点で排除対象となることもある。
•戦争や政治的な陰謀に巻き込まれることも多い。
また、自分の固有魔術を知らずに育つ者もいる。
•「能力の発現が遅い者」や「極端に発動条件が特殊な者」は、自分の固有魔術に気づかず生きていく場合もある。
•ある日突然、感情の高まりや危機的状況で能力が覚醒し、大惨事を引き起こすケースもある。
まとめ
固有魔術は、一部の選ばれた者が生まれながらに持つ特別な魔術。
体内魔力に魔法陣が刻まれているため、通常の魔術とは異なる発動法則を持つ。
外部魔法陣を使わずに即時発動できる反面、制御が難しいことも多い。
大きく「発動型」「操作型」「創造型」の3種類に分類される。
強力すぎる固有魔術は、社会的な迫害や陰謀の対象となることもある。
人工的な固有魔術の再現は困難であり、成功例はほぼ皆無。
固有魔術を持つ者は英雄にも怪物にもなり得る。
彼らの存在が歴史をどう動かしていくのかは、その力をどう使うかにかかっている。
固有魔術を持つ者——テフテの記録
テフテは、生まれながらにして固有魔術を宿した希少な存在である。彼の固有魔術は、**「見た者を石化する」**という極めて強力かつ制御の難しいものであった。幼少期の彼は、この力を自覚しないままに発動させ、周囲の人々を次々と石化させてしまった。
この異質な能力は人々の恐怖を招き、テフテは「災いの子」と呼ばれ、迫害を受けることとなった。彼がどれほど意思を持たずとも、目を合わせただけで相手が石となるため、町の住民たちは彼を恐れ、遠ざけようとしたのである。その結果、テフテは幼少期のほとんどを孤立した環境で過ごすこととなった。
しかし、彼の存在は魔法省の関心を引くこととなる。魔法省は固有魔術の研究と管理を行っており、危険視される能力者を保護・監視する役割を担っていた。テフテの能力は制御が難しく、野放しにすれば社会全体に深刻な影響を及ぼす可能性があると判断され、魔法省の職員によって保護されることとなった。
魔法省に引き取られた後、テフテは特殊な魔術具を用いた視界制限訓練を受け、能力の抑制方法を学んだ。また、魔法省の監督のもとで成長した彼は、その後、正式に魔法省の職員として任命されることとなる。彼の任務は、固有魔術を持つ他の者の保護と管理であり、自身と同じように危険視された存在を導く役割を果たすこととなった。
テフテの生涯は、固有魔術を持つ者の**「才能と災厄は表裏一体である」**という事実を象徴している。彼のような能力者は、適切な管理と指導がなければ、社会にとって大きな脅威となるが、その力を制御し、適切に活用すれば、人々を守る存在にもなり得るのである。
冥王アルベド
冥王アルベドとは、死と生を司る存在であり、冥界を統べる魔族「死神族」に属する。彼は古来より冥界の管理者として君臨し、死者の魂を裁き、生と死の均衡を保っているとされる。その力は計り知れず、多くの伝承において「冥界の王」として語り継がれている。
彼の外見は異様であり、青白い肌に青い髪を持つ。その姿は生と死の狭間にある存在を象徴しているかのようで、異世界の気配を纏っているという。さらに、冥界に迷い込んだ冒険者たちの証言によれば、彼の周囲には無数の手が浮遊しており、それらが意志を持つかのように蠢いていたとされる。その手が何を意味するのかは不明だが、アルベドが持つ特異な能力の一端である可能性が高い。
また、アルベドは生者の世界にも影響を及ぼしていることが確認されている。その最たる例が、彼の意志によって「固有魔術」を持つ者が生まれるという現象である。固有魔術とは、生まれながらにして体内魔力に刻まれた特異な魔法陣を指し、通常の魔術師が後天的に習得する魔法とは異なる性質を持つ。しかし、なぜアルベドが特定の者たちに固有魔術を刻むのか、その目的は一切不明であり、彼の意図を知る者は誰もいない。
彼の行動の背景には、冥界の法則や死神族の掟が関係していると考えられるが、それを解き明かす術は今のところ存在しない。アルベドの真の目的を知ることができるのは、彼自身と、あるいは彼の選びし者のみなのかもしれない。
初代冥王の書とその解読
初代冥王の書は、冥王アルベドがその存在を公にする以前に、魔法省の手によって回収された貴重な書物である。この書には、冥王の真の目的に関わる可能性があるとされる記述が含まれていたが、その真偽については現在も不明のままである。
魔法省の研究者たちは、この書の記述を分析し、その意図を解明しようと試みた。その中でも特に注目を集めた一節が存在する。以下に、その一部を抜粋する。
「力の発展は破壊を止め、世界を進める。
だが、力なき者が秩序を語るとき、進歩は鎖に繋がれ、崩壊する。
故に、選ばれし力のみが、新たな時代を拓く鍵となるのだ。」
この言葉の意味は一見明瞭であるように思われるが、その本質を正確に理解することは未だに困難である。文脈を踏まえる限り、この記述は単なる破壊を是とするものではなく、力の行使が世界の発展に必要不可欠であることを示唆している可能性がある。
特に、最後の一節にある「選ばれし力」とは何を指すのかについて、魔法省の学者たちは様々な解釈を試みてきた。一説には、これは固有魔術を持つ者たちの存在意義を示唆するものではないかとも考えられている。固有魔術は歴史の中でしばしば災厄の象徴と見なされてきたが、この書の記述によれば、それは必ずしも悪しきものではなく、むしろ世界の進歩において重要な役割を果たす可能性がある。
しかし、冥王アルベド自身もこの書の内容について何らかの見解を示したことはなく、彼がこの記述をどのように解釈し、どのような目的を持っているのかは未だ謎に包まれている。果たして、冥王の思想は世界にとって脅威なのか、それとも新たな秩序の幕開けなのか——その答えを知る者は、今のところ誰もいない。