二限 世界誕生と魔力の人体影響
魔力分散と再生成
世界の誕生とともに起こったとされる現象の一つに、「魔力分散」と「魔力再生成」がある。この現象は、世界の根源的な法則に関わるものであり、創世の瞬間に発生したと考えられている。
最初に起こったのは「魔力分散」である。これは、世界が誕生する際、膨大な魔力が空間に放出され、無秩序に拡散した状態を指す。この段階では、魔力は特定の形を持たず、ただ広がるエネルギーとして存在していた。しかし、このままでは生命の誕生や世界の形成は不可能であった。
その後、魔力が一定の法則に従い再び凝縮される「魔力再生成」が起こった。この過程により、魔力は秩序を持ち、世界を構成する要素――大地、水、空、さらには生命そのものへと変化していったとされる。
この「魔力分散」と「魔力再生成」によって世界が形成され、この過程については今なお完全には解明されておらず、研究者たちは魔力の本質に迫るための探求を続けている。
魔力輪環説
魔力輪環説は、魔術学者エルドマルドールによって提唱された理論であり、現在最も信憑性が高い説の一つとされている。この説は、「魔力分散が起こる以前にも世界が存在しており、魔力の分散と再生成を繰り返すことで、新たな世界が誕生し続けている」という考えに基づいている。
この理論を裏付ける根拠の一つとして挙げられるのが、「総魔力の遺伝的減少」という現象である。長い歴史を振り返ると、生まれてくる子供たちの持つ魔力の総量は、わずかではあるが徐々に減少していることが観測されている。この減少が極限まで進行したとき、魔力は完全に分散し、結果として世界そのものが崩壊するのではないかと考えられている。そして、崩壊後に魔力が再び再生成され、新たな世界が誕生するというのが、魔力輪環説の根幹である。
現在の魔術学界においても、この説の研究は進められており、もしも魔力の減少を止める方法が確立されなければ、いずれ世界は再び分散へと向かい、終焉を迎える可能性があると指摘されている。
魔導創世説
魔導創世説は、世界の再生成が単なる自然現象ではなく、何らかの高度な魔術的干渉によって引き起こされているとする理論である。現在のところ科学的・魔術的な証明はなされておらず、信憑性は決して高いとは言えない。しかし、魔術の可能性を広げる点において、重要な仮説の一つとして注目されている。
この説を提唱したのは、エクソシストとしても名高いカント・マルドールである。彼の研究によれば、魔力輪環説が唱える「魔力の分散と再生成」の過程において、何らかの魔術的介入があった可能性が示唆されるという。具体的には、錬成術において魔術師が物質を構築し、その内部に魔力を宿すことが可能であるように、この世界そのものも、より高次の存在による”錬成”の産物ではないかと考えられている。
この説に影響を受けた一部のエクソシストたちは、世界を創造したとされる未知の存在を**「創造神」**と崇め、その存在が行使したと推測される”創世の魔術”の解明を試みている。
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魔力の人体への影響
魔力は、この世界の生物にとって不可欠な存在であり、生命活動の維持や魔術の行使に深く関わっている。しかし、魔力の影響は必ずしも制御可能なものではなく、特に外部からの魔力干渉によって**「魔力改変」**と呼ばれる現象が発生することが知られている。
魔力改変
魔力改変とは、空間魔力の影響によって生体構造が変化する現象を指す。特に魔力濃度の極めて高い地域では、人体や動植物が長時間その場に留まることで、不可逆的な変質を遂げることが確認されている。
通常、この世界の生物は体内魔力を持ち、それによって自らの身体を維持している。体内魔力は、外部からの魔力干渉を抑制し、魔力改変を防ぐ役割を果たしている。しかし、次のような条件下では魔力改変が進行する可能性が高まる。
1.体内魔力の枯渇
体内魔力が極端に低下すると、外部の魔力に対する抵抗力を失い、魔力改変の影響を受けやすくなる。
2.高濃度の空間魔力に長時間さらされる
魔力濃度が異常に高い場所(例:魔女の墓場などの魔力異常地帯)では、短時間でも魔力改変が進行することが確認されている。
3.特殊な魔術の影響
一部の魔術、特に肉体強化系や呪詛系の魔術は、意図的に魔力改変を引き起こすことが可能であるとされているが人類が使用すると死亡する確率が高く、魔族のみが使うとされている。
魔力改変の影響と症状
魔力改変が進行すると、以下のような変化が生じる。
軽度の改変:髪色や眼の色の変化、感覚の鋭敏化
中度の改変:肉体の異常発達、知覚の変質、精神への影響
重度の改変:異形化、理性の喪失、魔物化
特に重度の魔力改変が進行すると、元の姿に戻ることはほぼ不可能とされる。このため、魔力異常地帯への立ち入りは厳しく制限されており、探索には高度な魔力制御技術が必要とされる。
なお、一部の魔術師は意図的に魔力改変を引き起こし、自らの肉体を強化する術を研究しているとされるが、その危険性ゆえに詳細な情報はほとんど残されていない。
魔力改変と種族決定
この世界には数多くの種族が存在しているが、長年の間、その起源や形成の仕組みは謎に包まれていた。しかし、近年の研究により、魔力改変が種族の決定に深く関与していることが明らかになった。
魔力と種族の関係
従来、種族の違いは遺伝的要因によるものと考えられていたが、最新の魔力研究では、魔力改変こそが種族の多様性を生み出す主要因であると示されている。この理論の根拠となるのが、胎児の成長過程における魔力の影響である。
1. 胎児の魔力状態
胎児は母体内で発育するが、この時点ではまだ自身の魔力を持っていないことが確認されている。つまり、外部の空間魔力に対する防御機構を持たない状態である。
2.母体による魔力の保護
胎児は、母体の体内魔力によって外部の魔力干渉から守られている。このため、胎児が魔力改変を受けるのは空間魔力ではなく、母体の体内魔力の影響によるものである。
これにより、胎児は母親の魔力特性を受け継ぎ、母親と同じ種族として生まれることが分かった。
3.種族の決定
母体の魔力特性は胎児に強く影響を与えるため、基本的には母親の種族が子へと継承される。
しかし、母体の魔力が弱まっていたり、特殊な魔力環境にさらされた場合、魔力改変が通常とは異なる形で起こることがあり、その結果として異種族が誕生するケースも報告されている。
特に、魔力濃度の極端に高い地域では、母親と異なる種族の特徴を持つ子供が生まれることも確認されている。
異種族誕生の可能性
魔力改変による種族決定の仕組みが解明されたことで、異種族の誕生がどのように起こるのかという疑問も新たに浮上している。いくつかの仮説が提唱されており、特に次の2つが有力視されている。
1.魔力環境の影響説
魔力濃度の高い地域では、母体の体内魔力だけで胎児を完全に守ることができず、一部の空間魔力が胎児に影響を与える可能性がある。これにより、魔力改変が通常とは異なる形で発生し、異種族の特性を持つ子供が生まれるのではないかと考えられている。
2.魔力遺伝の変異説
ごくまれに、母体の体内魔力自体が不安定な変異を起こすことがあり、その影響で胎児の魔力改変が通常とは異なる形で進行する可能性がある。これにより、従来の遺伝とは異なる種族が誕生するケースがあると推測されている。
無魔適応不全症
概要
無魔適応不全症とは、生まれつき魔力を一切持たない個体に発生する致命的な疾患である。この疾患を持つ者は、誕生直後から魔力改変に対する防御機構を持たず、外部の空間魔力の影響を抑えることができない。そのため、出生から1週間以内に急速な魔力改変が進行し、生命活動が維持できなくなる。
原因
この疾患は、胎児期に母体の体内魔力から十分な影響を受けることができず、魔力の適応機構が形成されないことが主な原因とされている。特に以下の要因が発症リスクを高めると考えられている。
1.母体の魔力異常
母体の魔力が極端に弱い、もしくは不安定な場合、胎児への魔力適応が正常に行われず、無魔の状態で誕生する可能性が高まる。
3.遺伝的要因
ごく稀に、魔力を持たない遺伝子変異が発生し、それが原因で魔力が発現しないケースも確認されている。
症状
生まれた直後は健常な新生児とほぼ同じ状態に見えるが、時間の経過とともに以下の症状が現れる。
魔力適応の欠如:空間魔力の影響を防ぐための機能がなく、急速に魔力改変が進行。
肉体の異常変異:身体の一部が異常に成長する、もしくは縮小する。
臓器不全:魔力改変の影響で内臓が正常に機能せず、多臓器不全を引き起こす。
急速な衰弱:最終的に全身の崩壊が進み、1週間以内に死亡するケースがほとんど。
治療・対策
現在、無魔適応不全症の確立された治療法は存在しない。しかし、以下の方法で症状の進行を一時的に抑えることが可能とされている。
母体魔力供給:出生直後に母親から強制的に魔力を送り込むことで、一時的に適応機能を持たせる試みがなされている。
結界での保護:魔力の影響を受けない特別な施設で隔離することで、改変の進行を遅らせる。
無魔適応不全症は、魔力を持つことが前提の世界において致命的な疾患であり、特に母体の魔力管理が重要であることが分かっている。今後の医療魔術の発展により、治療法の確立が望まれているが、現状では根本的な解決策は存在せず、発症した場合の生存率は極めて低い。