地図
妄想垂れ流し。
「じゃーん、見てこれ、新しい地図買ったの」
「どうせこれから嫌ってほど見るだろ。地図なんだから」
とある国の、宿屋の一室。少女と男が向かい合ってベッドに腰掛けていた。
少女の方はカバンから地図を取り出し広げて見せると、嬉しそうに頭を揺らしている。
「新しいやつらしくてね、ねぇおじさん見てったら、これこれ、絵が付いてるの」
「なんだよ……あぁ、目印になるようなものを書き込んでるのか。こいつは良いな、分かりやすい。この絵になったものに何かあれば書き換えなきゃならんのは手間だろうが」
そして2人は地図を眺めながら次の目的地について確認を行う。日が落ちてしばらく経つ頃には少女もあくびを漏らすようになっていた。
「それじゃあもう夜も遅い、ガキはさっさと寝るこった。明日、日が昇り切るまでには出立だからな」
「おじさんも身体休めてあげた方がいいんじゃない?次の街に着くまでけっこう長そうだけど。ちゃんと足腰と体力持たせてくれなきゃ困るよ」
「……生意気なガキだ」
「そんなカリカリしないでよ。更年期?」
口論は少女に分があるらしい。「子供扱いはやめてって言ってるじゃん」と少女が続けるのに対して男はフンと一つ鼻を鳴らし、そのままベッドに横になった。
少女もそれを見ると「それじゃ、おやすみ」と言って自分のベッドで横になる。
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「なぁガキ」
「分かってる。この地図なんかおかしいね」
少女は以前使っていた地図を取り出し、新しい地図と見比べる。そしてあることに気付くと、おかしそうに大笑いし始めた。
「おわっ、なんだよ、どっかおかしいとこでもあったか?」
「あはははははははっ!いや、ごめんおじさん、これは私のミス。ふふっ、はははははははっ」
「なんだってんだ、なぁおい、俺にも見せてみろ」
男が少女の持つ地図を覗き込むと、最初はしばらく何がおかしいか分からないらしく目を細めて凝視して、「あっ!」と叫んだ。
「おまっ、これ、交易共通規格の縮尺と違うじゃねぇか!」
「あははははははははははっ!観賞用のやつ間違って買ってきたみたい!これじゃあどのくらいの縮尺か調べるとこから始めないとだね、幸いここに書いてある山はあっちに見えるし、嘘っぱちの地図ってワケじゃなさそうだよ。確かめるのすっごい面倒くさいと思うけど」
「コレに慣れた後でまた共通規格の地図に慣らさないといけないのかよ、かったりぃ……」
「あ、ちなみにおじさんこれ、銀貨8枚したから」
男は少女の頭にげんこつを落とした。
「痛っっったい!何するのさ!」
「当たり前だこのバカ!使えるかどうかも曖昧なガラクタにそんな大金突っ込んで!」
「しょうがないじゃん!いちいち地形と距離測らなくても絵で分かるのは便利だなって思ったんだから!」
「簡単な方に頼ろうとするからそうやって失敗するんだ!ちゃんとした地図買ってりゃ銀貨5枚で済んだ上にこうやって難儀することも無かったろうに……」
「当たりを引いたら次の街に着くまで1日短くできてたよ。今回はツキが無かっただけ」
「賭博感覚で物を買うな!あぁクソ、これじゃ戻って新しく買うにもしばらく動けなくなっちまう……」
そうして男は頭を抱えてしまう。その様子に少女も罪悪感を覚えたか、バツが悪そうに頬を掻きながら謝罪の言葉を口にした。
「ごめん」
「謝るくらいならこの状況を打開する案を出してくれ」
「この地図で頑張るしかないんじゃない?」
「…………お前、次の街で買い物はさせないからな」
「はーい」
そして男と少女は再び歩き出す。2人は未だ旅の途中、一体果ては何処へやら。