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将来の夢は母のようにこの辺境伯領の強い、父の様な人のお嫁さんになって、子どもは最低でも四人は生んで幸せに暮らす事。
それは今は亡き母が生前自身のきょうだいが四人いたから、自身も四人は……できれば五人ぐらいは生み育てたいと耳に胼胝ができるほどに父に語っていたという。だが、そんな母は残念ながら私を含めた三人を生んで産後の肥立ちの悪かった事と、当時流行っていた風邪に罹って志半ばに天に召された。軍人で厳つい顔で、自身に厳しい父はそれはそれは憔悴した。自慢の筋肉が三割しぼんでしまう程食欲も睡眠欲も失って後追いしてしまうのではと周囲は危惧したが、母に一番よく似た顔立ちの姉に頬とお尻を叩かれ何とか今は立ち直り元気に過ごしている。
そんな父を立ち直らせた姉は、父の娘といえば二度見した上で『冗談がお上手ですね』と言われるほどの美人さん。母を知っているなら十人中十人がその容姿に納得をするが、中身は父親似の『力こそ全て』の人なので父の知り合いは姉を恐れている人は少なくはない。その容姿のおかげで何人も結婚を申し出る人がいたが、結局は父と同じ軍の男の人と結婚した。父と似通った厳つめの、一回り年上の男の人に姉はそれはそれは妹の私が引いてしまう程に彼に対して結構重めの愛を与えている。今は義兄との間に息子が一人お腹の中に一人おり毎日幸せそうだ。孫という存在は大層可愛いらしく父は甥っ子の前では、でろでろのじじいとなっている。
三番目の子、つまりは私の弟は生まれてすぐは身体も弱く、遠征で忙しかった父の代わりに伯父夫婦の好意で預けられていた。碌にベッドから降りれず、額に冷たいタオルが置かれていない日を数えた方が早いぐらいだ。一緒に預けられていた私達もよく看病したものだ。幼い頃は女の子のように嫋やかという言葉が似合っていたのに……生まれながらの負けず嫌いの弟は、乳母に隠れて腹筋腕立て伏せ(私がお手本にやったらすぐに覚えてやり始めた)、姉に頼んでダンベル(子供用)を持ってきてもらい、窓から見える訓練中の兵士達を観察し隠れて木刀(これも姉が用意)を振るい、苦手な薬や医者に体の隅々を見せる事で十歳の誕生日を迎える頃には今までが嘘のように健康優良児になり、今ではそれなりに顔の良い騎士見習いとして元気に過ごしている。ただ、ここでも負けず嫌いを発揮しているようで。一度ボロボロに負けたからか、自身が所属する部隊の隊長に三日に一回、勝負を挑むのだ。そろそろ苦情になると姉と苦笑いするのが最近の話題の大半を占めている。
私?私、ソフィアラは来年王都の親戚の家に行儀見習いに行くかどうか迷っているだけの平凡な十七歳。姉のように早く結婚したいが相手がいないのでどうしたものかと悩んでいると、『じゃあ行儀見習いという名の花嫁修業に来ちゃいなYO!』という軽いノリの叔母に誘われている。
第一希望はこの領地に住んでいる人と結婚したいが、妥協案も考えておかなければ婚期を逃したうえに行き遅れになってしまう。それだけは、なんとでも避けたかったので、前向きに検討しますと言いつつ姉の勧めもあり冬を越してから王都へ行く予定を立て、細々と準備をしていた。
なのに、さぁ……。
「なるほどなるほど。君が聖女ね。じゃ、王都行こうか」
金髪碧眼、絵本の中でよく見る王子様を体現したようなルックスの男(だが私の趣味ではない)は親指を立てていい笑顔をした。
こんなの聞いてないんだよなぁ。
結局春を待たず、通年よりも早く初雪ちらつく冬の始めに私は住み慣れた辺境伯領を後にするのであった。
ソフィー(独/賢明)+アーラ(伊/翼・羽)→ソフィアラ
花の十七歳、婚約者もいなければ恋人もいない