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生まれも育ちも()()()()。王都から離れた辺境伯領に実家を置く私は、ここ王都では田舎者扱いである。辺境伯領は北方に位置しており、それなりに栄えているけれど王都に比べたら月とすっぽん。大体気候からして違うもの。冬場は外よりはまだましな温かな家に大半の時間引きこもっている実家と違って王都は冬でも暖かい。勿論、辺境伯領と比べて、と頭に付くけれど。

だが意外にも王都に住む同じ平民の身分の人達は私のような田舎者をそう長く馬鹿にはしない。私みたいな人は田舎から出て来た者は多いから通過儀礼にでも思っておきなって言われてからは心が軽くなったものだ。今では王都育ちの平民の人達も最初から居たかの如く扱われているので時の流れが解決するって本当なんだなぁ、と呑気に思ったものだ。まだ三月も経ってないけど。


さて、私ソフィアラ・ツァベルは最初に言ったように生まれも育ちも平民である。『生粋の』とは言えないが、身分的には平民だ。母譲りの栗色の髪は手入れが面倒ではあるがしっかりと伸ばしているが邪魔にならない様に基本結い上げた上でシニヨンにしてまとめている。父譲りの金の瞳は派手ではあるがお気に入りだ。なんせ蜂蜜みたいで甘くて美味しそうだし。顔立ちは、辺境の美人と謳われ誰もが振り返る程と言われた母と、怖い厳つい小さな子供が思わずお漏らしをする程に怖い父を足して二で割ったような容姿。母の顔のおかげで不美人というわけでもないが、誰もが振り返るようなというわけでもない。


だが、いち平民としては決定的に違うところがあり、それが原因で私は現在王都の学園に通う羽目になっているのだ。迷惑甚だしいが、新しい事を学ぶのは存外楽しいので今では長い物には巻かれろ精神で日々を過ごしている。


「って、話聞いていらっしゃいます?ツァベルさん?」

「……あ、いやごめんなさい、意識を飛ばしてました。どうぞ続けて」


授業の終わった教室で、まだ他にも生徒がいるというのに他の教室から遊びに来た()女子生徒達の相手は、この学園に編入したときから続いている。とてつもなく面倒くさい。


「な、生意気な!」

「お育ちが知れますわ」

「大体平民の癖に、何故我々貴族の子女の集まる教室に編入しているのですか!」


と、内容は毎日変わらない。私が言うのもなんだけど、悪口言うならもっといろいろと言って頂きたいものだ。私の従姉妹は私が何かボソッと言うものならそれはもう語彙力と想像力豊富に罵ってくるものだから、従姉妹に逆らえないものは実の両親達と私の姉以外はいないだろう。


「はいはい、申し訳ございませんでした。……じゃ私図書館行きたいから、もういい?」

「っっっっ~~~!!!!」


と、今日ばかりは我慢の限界だったのかリーダー格のご令嬢……確か、割と良いところの伯爵令嬢が私に手を振り上げる。

ここで普通の平民なら甘んじて受け入れるだろう。なんせ相手はお貴族様。変に反撃して不敬罪とか言われたらたまったものではない。自分だけならまだしも、両親兄弟、親戚まで被害が及ぶとなったらもう受け入れるしか道はないのだから。


が、残念ながら私は一般平民女子ではないので伯爵令嬢の手を受け止め、その手で手首を軽く捻る。辺境伯領にいたときの私だったら次に思いっきり拳でぶん殴るのだが、ここは学園。暴力沙汰はNGと口酸っぱく伯父様叔母様に言われているので……これで勘弁してやろう。


「痛い痛い、痛い!!」

「痛くない痛くない。というかこれが痛いって王都のお貴族様は紙でできているのですか?脆過ぎ……牛乳飲んだ方がいいですよ。南方の方で言われていますよー、骨を折りたくなければ牛乳を飲めって」

「貴方と違うのよこの平民風情が!!」

「違うでしょ、伯爵令嬢様」


パッと手を離して涙を浮かべるご令嬢達に向かってニッと笑う。


「貴方が頬を叩こうとした私はこれでも『聖女』。分かってるでしょ、一つでも私に傷を付けようなら王家に教会、挙句には神様が黙っていないの。おまけにほら、私を監視する奴もしっかりいるのよ」


私の後ろを指させばクスクスと笑う王子様めいた金髪碧眼美少年。ご令嬢達の顔色は一気に悪くなる。


「監視って……見守っているって言ってほしいなぁ」


悪戯を成功させたようにあの男は私の側へ近寄ってくる。一歩、また一歩と彼女達が後ずさるが、残念ながらこの席は教室のドアから一番遠い。貴族のご令嬢は基本走らないらしいので、この顔だけはいい男の前ではしたない行動はまず行わないだろう。


「なら然るべきところに連絡入れなさいよ」

「ねぇそこは『見ていたなら助けなさいよ』じゃないの?」

「天地がひっくり返ったとしても君に助けを求めるわけないじゃない」

「少しは甘えて欲しいな。あと僕は君じゃない、ノアだ」

「身の程を知れ」

「わーそんなーひどーい」


泣きまねをすれば絆されるなと思うなよ。

領に出る死骸ばかりを捕食する魔物を見る様な目で見れば飽きたのか小さな溜息を吐いて微笑みを浮かべた。

嗚呼嫌だ、多分この私の行動もこの男、ノアの手の平の上に違いない。


「じゃ、ソフィアラ。早く片付けて。今日は教会に行ったら孤児院、その後は侯爵家でマナーの授業なんだから」

「うっ、図書館に行きたかったのに……鬼畜の所業め」

「僕も付き合っているからプラマイゼロだね」

「逆にマイナスだわ」


この、自分は惚れられて当たり前と言わんばかりのノアに、いつか絶対に腹に一発入れてやる。溜息を飲み込んで、私は目の前にいる顔色の悪い令嬢に言う。というか、こういうときはこう言うように教え込まされた言葉を言う。


「私は聖女ソフィアラ。私の頬を張るぐらい暇なら……崇め奉れや」


これ、絶対聖女に対してマイナスな評価になりそうなんだけど。



ソフィアラはパーよりグー派

ノアは自分の顔の良さを分かっているのでわざと受けて相手に罪悪感を持たせる派

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