第10話 地球を揺らす男
「そうそう。そういえばみんな気になってたあの話だけど」
>どれだ?
>多すぎてわからないな
>サーチかな?
>魔力制御かな?
>いや時魔法だろ常考
>でも多分どれでもないんだろうな
>こいつに俺たちの気持ちなんてわからないよ
「ダンジョンを壊して進めばいいじゃんって話」
>ほらなやっぱり
>そんなの誰も気にしてないんだよなあ
>いや気になるぞ逆に
>そもそもダンジョンは壊せないって話だったじゃん
ダンジョンは魔力を食べて育ってるからな。
なので魔法で壊すことはできないし、多少剣で切ったくらいじゃ勝手に再生してしまう。
そもそも24時間ごとに中身が変わるからな。
「RTAには大きく分けると2種類あります。それは縛りを設けるか設けないかです。
なんでもありのルールもありますが、俺はなるべく初期状態で挑むことにしています。その方が楽しいからですね。本気でなんでもありにしてしまうとダンジョンRTAにならないので。
例えば……」
俺は拳を構えると、壁に向けて一発パンチした。
ゴォン!!
ダンジョンが揺れて、壁一面に亀裂が走る。
そのままヒビが広がり、壁が粉々になって崩れていった。
>えっ
>えっ
>ちょっと待て今のなんだ!?
>パンチをした、のか?
>何をしたのかも見えなかったけど……
壊れた壁の向こうには部屋が広がっていて、下に降りる階段が見えていた。
「このように、ダンジョンを壊せるといくらでもショートカットできてしまうので、やらないようにしています。でないとダンジョンRTAじゃなくて、単に次への階段が直線距離でどれだけ近いかの運ゲーになってしまうので」
>いやいやいやw
>問題はそこじゃないでしょw
>みんなダンジョン壊せるの前提になってて草
>なんで剣でも魔法でも壊せないものをパンチで壊せるんですかねえw
>剣でも魔法でも壊せないからだぞ
>レベルを上げて物理で殴れ
「それに壁ならまだいいですけど……」
今度は拳を地面に打ち付ける。
さっきの何倍もの衝撃でダンジョンが揺れ、床に亀裂が走る。
やがてガラガラと音を立てて床が崩れていった。
そこには当然、下の階が見えている。
「こうやって床を壊していけば、ただ真下に向かって降りてくだけになっちゃうので」
>もうどこから突っ込めばいいのかw
>そんなことできるのお前だけだよ
>めちゃくちゃダンジョン揺れてたけど大丈夫なのか
>近くに俺いたらめちゃくちゃビビりそうだな
>緊急地震速報きたwwww
>マジだwww東京震度3www
>震源地住宅地のど真ん中じゃんwww
>地球を揺らす男
>ケンジくん東京に住んでるのか
「えっ、なんでバレたの。ネットの特定班こわ」
>マジかよwww
>怖いのはお前だわwww
>そりゃRTAで禁止も残当
>RTAどころか全冒険者禁止だわ
>そもそもどうやるんだよ
どうって言われてもな……
「こう、ぎゅって拳を握って、オラって殴るだけなんだけど」
>説明下手すぎw
>考えが脳筋なんだよなあw
>なんで解説動画作ろうなんて思ったの?
>才能なさすぎ
>配信だけしてろ
ええ……、みんなボロクソ言うじゃん……
「でも俺はRTAが好きなんだよ! だからRTAを広めるんだ!」
>あーあ泣いちゃったw
>俺は応援してるぞw
>解説は下手すぎだけど動画は面白いからいいぞ
>つーか同接もうえぐいしな
>同接1万超えてるじゃん
>初配信で1万越えは凄すぎ
>しかもまだ3階だからな
>これが後97階もあるのか
>伸び代しかないな
あっ、みんな優しい……
ここは優しいインターネッツですね……
なんかやっていけそうな気がしてきた……
シオリもじっとこっちを見ている。
目が合うと、微かに頷いたような気がした。
あれは、あんたの動画は絶対バズるから大丈夫、って言ってる目だ。
幼馴染だからわかるんだ。
「よーし元気出てきた。じゃあ早速先に進みましょう!」
>そうだ行こう!
>批判なんて気にするな!
>やりたいことをやるのが冒険者だろ
「そうだ! 俺は俺の道を行くんだ!」
覚悟を決めて俺は扉を開いた。
壊した壁の隣にあった扉を。
「というわけですぐ隣に階段があったので先に進みまーす。ラッキーでしたね」
>はっやwwww
>ラッキーすぎwwww
>さっきまでの感動を返せwww
「隣に階段があったから壁とか床を壊したんだよ。でなければダンジョン破壊なんていくら俺でもやらないよ」