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初級ダンジョンRTA走者 世界最速を達成したので解説動画を公開したら参考にならなすぎで大バズりしてしまう【書籍化決定】  作者: ねこ鍋


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タイトル未定2025/09/28 10:54

第87話 地獄の統治者

ルビあり


黒い門には、多くの苦しむ人間のような姿が彫刻されている。

天使が現れる神聖な図書館には相応しくない、明らかに浮いた存在になっていた。

今のところ出現条件も思い当たらない。

ヒントとなりそうなものは、扉の上部に描かれた一文だけだ。


『この門をくぐる者は一切の希望を棄てよ』


見たことない文章ですね。


>すごい見たことある気がする……

>これって神曲のか?

>てことは、まさか……

>これって絶対中に入ったらいけないやつでは!?

>ケンジくん引き返して!!

>マジでこれだけはダメだって!

>本当に!!


なるほど、そうなんですね。

新しいショートカットかもしれないですし、さっそく入ってみましょう。


>ですよねーw

>なんにもぶれないなw

>実際ショートカットの可能性もあるしな

>生きて帰って来れるならな


鉄の門扉に手をかけ、ゆっくりと押し開く。

扉を開けた先には、果てしなく広い、荒涼とした空間が広がっていた。


これまでに見たこともない地獄のような光景だ。

初めて見るマップだけど、俺が知っている中で一番近いのは、シオリの冥界だろうか。

何も無い一面のモノクロ景色なところが似ている気がするな。


さっそくサーチを使って周辺の様子を確認する。


「それほど広い場所ではないですね。クリア自体はすぐにできそうです。それにしても、なんだか地獄みたいな場所ですね」


>まあ、ダンテの神曲ならな

>しかし神が住む場所に地獄への門があるとは

>神曲だと地獄を抜けたあと天国に行くよ

>ならあり得るのか


荒涼とした大地を駆け抜け、川のようなものを飛び越えて対岸に着地する。

川の途中に、船に乗った骸骨みたいなモンスターがいたけど、これだけ広い空間なら戦う必要もない。

スキップして先に進みましょう。


>カロンさん涙目

>無賃乗車かな

>乗ってないしセーフ

>不法侵入じゃね

>それはそう


対岸に着いてさらに進むと、鳥居が並ぶ大きな東洋風の建物が見えてきた。

サーチの結果でも、この中に次への扉があることが分かっている。

さっそく扉を開けて中に入った。


>鳥居……?

>何で神曲の中に東洋風の建物が?

>もしここに神がいるのなら、地獄の神ってことか

>あっ

>まさか

>そういうこと……?


中に入った瞬間、普通とは違う独特な空気を感じた。

死を凝縮した空気に肌がひりつくような、それでいてなんだか懐かしいような、不思議な感覚だ。


開いた扉の前には、建物の中とは思えないような底の見えない谷が広がっており、その中心を曲がりくねった細い道が続いている。

その道をまっすぐに進むと、少し開けた空間につながっていた。

そこには巨大な机がひとつ置かれ、巨大な髭面のおっさんが座っている。

いかにも偉そうな服を着て、手には杓子のようなものを持っていた。


谷を一息で飛び越えておっさんの目の前に着地すると、そいつは髭だらけの口を開く。


「よう来たのう。逃げんとここまで来たその根性だけは褒めちゃゴバァッっ!!」


跳躍した勢いのまま、着地と同時に髭面のおっさんに向けて拳を叩き込んだ。


>ちょwww

>まだセリフの途中だったのにwww

>最後まで言わせてあげてwww


初めて見るモンスターですが、先手必勝です。

タイム短縮のためにも一撃で倒して先に進みましょう。


と、思ったのだが。


「おどれ、ようもやってくれたのう」


そいつは平然と起き上がってきた。

見たところダメージもない。

手加減をしたつもりはなかったんですが、最小の力を使って最短時間で倒すことを狙いすぎたのか、相手の力を見誤ってしまったみたいですね。


>さすが神

>ていうか閻魔様だよね?


なるほど、地獄の神ってことでしょうか。


>ケンジくんでもモンスターの強さを見間違えることはあるんだな


俺もまだまだ駆け出し冒険者なので、地獄の鬼と閻魔の違いがよくわからないんです。

申し訳ありません。

とりあえず鬼よりは強いみたいですね。


その瞬間、閻魔の頬がぴくりと動いた。


「ほう、おどれは……儂をそこらの鬼と一緒にしとるんか……」


>ナチュラルに煽るのやめてあげてw


「相変わらず舐めた態度じゃのう。おどれをここに呼んだ理由が分かっとるんか?」

「いや、閻魔に呼ばれる理由なんて正直なにも思いつかないが……」


>天罰だな

>天罰だろ

>天罰しかない


「あんだけ地獄で暴れてくれたけぇのう。儂のシマで暴れたケジメはきっちり取ってもらわにゃいけんわ」


なるほど。

暴れたつもりはないけど、下層の地獄ステージのことを言っているのかな。

つまり地獄ステージをクリアして深海図書館に来ると、ここに来るためのフラグが立つってことか?

確かにそのパターンは検証したことがなかった。


そういえば、地獄ステージで暴れると天罰で海ステージに飛ばされる、なんて話もコメントであったっけ。

あのときはただの噂と思ってたけど、実際に閻魔が出てきたとなると話は変わってくる。


「ひとつ聞きたいんだが、ダンジョンの次のステージを決めることはお前にできるのか?」

「地獄の沙汰を決めるんが儂の権能じゃけぇのう。そうじゃ言うたらどうするんか?」

「なら試す価値はありそうだな」


俺は拳に力を籠めるように強く握りしめた。


>おい

>まさか

>やめろ

>閻魔様逃げて!

>マジで!!

>その人、拳を強く握るだけで何でも倒せると思ってるんです!


「まさかとは思うが人間の分際でこの儂を──


──ズドォォォン!!


閻魔までの距離を一歩で詰めた俺は、がら空きの胴体に向けて一撃を放った。


>あーあやっちゃった……

>ケンジくん相手に長話なんてするから……

>誰もケンジくんの心配してないのウケる

>閻魔様しんじゃうの?


「おどれ……ようもやってくれたのう。じゃが何回やっても……む、なんじゃこりゃ」


閻魔が平然と立ち上がったが、俺の殴った位置を中心に体が透き通るように消え始めていた。

さっきよりも少し多めに神性を流し込んだからな。

地獄の神だというのなら、これで消えるはずだが。


「ふ、巫山戯(ふざけ)んなや、人間如きにこの儂が……ぐぬぬぬぬ! 舐めるなあああああああああああ!!」


薄れて消えかかった体が瞬時に元に戻る。

気合で復活させたみたいだ。


>すげえ、復活した

>これが地獄の統治者か

>ケンジくんの一撃を受けて立ってる相手は久しぶりだな


「なるほど。神性を帯びた拳で殴ったのですが、ギリギリ倒せるラインを狙いすぎてまた倒し損ねてしまったようです。やっぱり俺はまだまだ勉強不足ですね。

 今後のためにも、どれくらいの強さで殴れば倒せるのか、本格的な検証が必要のようです」


そう言いながら俺は、再度拳に神性を宿して構える。

閻魔も拳を固めて構えた。

どうやら武器を使わずに戦うらしい。


「どこまでも神を舐め腐りおって。おどれへの判決なんかいらん。この場で地獄送りにしちゃるけぇのう」

「ではさっそく検証します」

「行くけぇのう、覚悟せぇや人間!!」


ドカッ!!

「こん程度っ──!」

ボコッ!!

「おのれっ──!」

バキッ!!

「馬鹿な、こんなことがっ──」


少しづつ力を強めながら、ひたすらに殴り続けたが、なかなか倒せない。

いや、倒れはするんだが、すぐに立ち上がってくる。

トドメを刺しきれないんだ。


「はぁっ……はぁっ……! おどれら人間と一緒にするでないっ……! 儂ら神にゃ死いう概念はないんじゃ。人間がどんだけ攻撃しても無駄じゃけぇ! 敵に回したことを後悔させちゃるけぇのう……!!」


どうやら通常の方法では倒せないみたいだ。

最小の力で無駄なく最短で倒す、という考えがダメなのかもしれない。

俺もそれなりに強くなったつもりだったんが、やっぱりまだまだ勉強すべき事ばっかりだ。


「仕方ありません。時間がかかるので普通の攻撃で倒したかったのですが、それが無理なようなら、制限を一部解除するしかないようですね」


この方法を使うとダンジョンにも影響が出るため、場合によってはRTAが困難になる場合もある。

だから封印していたんだが、そうもいってられないようだ。

それにここは上級ダンジョンらしいし、少しくらいなら本気を出してもきっと大丈夫だろう。


「悪いがシオリ、少し下がっててくれ」


制限を解除すると、周囲を巻き込む恐れがある。

もちろんシオリにはかすり傷ひとつ負わせるつもりもないが、それでも万が一ということがある。

シオリは大切な幼馴染なんだ。その万が一さえ起こすわけにはいかない。


そう思って後ろにいるシオリに声をかけた時、閻魔が驚いたように目を見開いた。


「あ、貴女様は!?」


ん、なんだ?

閻魔は俺の後ろ、シオリのほうを見ている。

さっきまでの威勢の良さも忘れて、怯えるように体を震わせていた。


「ま、ま、まさか、冥界の──」

「黙れ」


シオリの一言で閻魔の動きがびたっと止まった。

言われた通りに黙った、というよりは、全身を拘束されて身動きが取れなくなったかのようだ。


ああ、そうか。

ようやくわかった。

ここに入った時に感じた、死を凝縮したような、どこか懐かしい気配の正体。


閻魔はさすが地獄の神だけあって、その周囲が少しだけ冥界に近くなっているんだ。

つまり冥界でしか効力を発揮しないシオリの「生殺自在」がここでは効力を持つということ。

シオリの命令によって閻魔の身体が拘束されたんだ。


>閻魔様が固まってる?

>なにがあったんだ?

>誰かが黙れって言ったような気がしたけど……

>これがケンジくんの本気……?


コメントが少しざわついている。

シオリの正体は秘密にしないといけないから、良くない流れだな。


その時、シオリがじろりと閻魔を睨んだ。

言葉はなかったけど、幼馴染の俺には分かった。

死ぬか消えるか、今すぐ決めなさい。そう言ってる目だ。


それは閻魔にも伝わったらしい。

こくこくこくと震えるように小刻みにうなずくと、その場で消えるようにしていなくなった。

地獄に帰ったのだろうか。


「……えーっと、どうやら逃げてくれたようですね。倒さずに済むのはタイム短縮につながるので助かります」


俺は何もしてないので、倒し方もわからないままだったのだが……。


>嘘だろ……閻魔様が逃げた……

>地獄の統治者が背中を見せるなんて……

>やっぱり人間じゃなかったか……

>地獄の沙汰もケンジしだい


なんだか俺に怯えて逃げたと思われてるみたいだけど、シオリの正体について言うわけにもいかないしな。


「とにかくボスは倒したので、机の後ろにあった扉に向かいましょう。多分ここを抜ければ図書館に戻るはずです」


うまくショートカットできるといいんだが、どうなるんだろうな。

初めてのステージなので何が起こるかわからない。

ちょっとワクワクしながら俺は扉を開いた。

おっと、その前にシオリから宣伝しろと言われてたんだった。


俺の配信をまとめた「初級ダンジョンRTA」の書籍版がついに発売されたそうです。

みんなの応援が2巻を出す原動力になるので、是非お買い求めいただければと思います!


>おk

>おk

>買ったよ

>100冊買った


みんなも書籍版を読んで、RTA走者になろう!!


>それは無理www

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>おk
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