第85話 図書館では静かに
扉を開けて閲覧室に入る。
相変わらず大量の本があるが、本を読むための書見台も等間隔で並んでいた。
そういえばここで誰かが本を読んでるところを見たことないけど、一応図書館なんだし、利用してる人はいるのだろうか。
>神がいる上級ダンジョンなんだから、やっぱ神が読むのでは
>神様って本読むの……?
>神が書いた本を天使が読むんじゃないのか
>それはありそう
>てことはここにあるのは神が書いた本ってこと?
>それにしてもすごい本の量だよな
確かにすごい数の本がある。
この先もずっとこんな感じだからな。
違うのは最後の部屋くらいだろうか。
>まてよ、深海にある上級ダンジョンといえば、太平洋の底にあるというあれか……?
>あっ、そういえば
>まさか神々の書庫か!?
>なにそれ
>有名なの?
>ダンジョンマニアも認める最高難度のダンジョンだ
>噂だと世界のすべてがそこに記されているらしい
>え?
>世界のすべて?
>アカシックレコードって、こと……?
アカシックレコード?
なんだそれ。
「この宇宙の始まりから終わりまでが書かれていると言われるものよ」
俺のつぶやきにシオリが答えてくれた。
「へえ、なんかすごそうだな」
「過去に起こったことも、これから未来に起こることも、全て記述されてるらしいわ」
「そんなものがあるのか」
「ただの伝説よ」
つまらなそうな口調で答える。
どうやらシオリも信じていないみたいだ。
>ケンジくんはここにある本全部読んだんでしょ?
>アカシックレコードはあった!?
「いえ、そういうのは記憶にないですね」
>そっかあ……
>さすがにないか……
というか、本当にそんなものがあるんだとしたら、ものすごいページ数になるんじゃないだろうか。
めちゃくちゃ重そうだ。できれば持ちたくない。
いやまてよ。
もしもこれから起こる未来が書かれているのなら、いつか俺がダンジョンRTAの記録更新する日のことも書かれてるってことか? そのタイムなんかも分かってしまうんだろうか。
あるいは、このまま記録更新ができないのかどうかも……。
「……それはつまらないですね」
未来が分かってしまったら、走る楽しみもなくなってしまう気がする。
記録を更新するために全力で挑戦するし、何が起こるか分からないからワクワクするんだ。
なのに答えが最初から分かっていたら、その楽しみを奪ってしまうことになる。
きっとそれはつまらない挑戦になるだろう。
「そういえば、未来について書かれた本はありませんでしたけど、時間魔法について書かれてた本もありましたね」
>え?
>どういうこと!?
「ステータスウィンドウやそこに登録するスキルショートカットなんかも書かれていました」
>ちょっと待ってちょっと待って!!
>しれっとすごいこと言ってない!?
「でもすでに知ってたことなので、特に興味はなかったので流し読みしかしなかったんですよね。
みんなも興味ないですよね」
>あるあるありますあります!!
>興味しかないです!!
>なんで興味ないと思ったの!?
>ないわけないだろ!!
>ちなみにその本はどこにあるんですか!
そういえばちょうど閲覧室にあったような……。
あまりはっきりとした記憶はないけど。
みんなの反応からすると、結構興味があるってことなんですかね。
ならちょっと読んでみましょうか。
>うおおおおお!!
>キタキタキタ!!!
>これでついに俺達も時間魔法が使えるように!
>さすが神配信者!!!!
ではまた今度ここに来た時に紹介しますね。
>はあああああ!?
>今読まないで!
>いつ読むんだよ!!
>今でしょ!!!!
>コメントの一体感好き
>気持ちは分かる
今はRTA中ですからね。
タイムが増えることはしません。
>どうしてブレないんだよぉ……
>こだわりが強すぎる
>そうでもないと【RTA走者】にはなれないか……
>普通じゃないから、普通じゃないことが出来るんだしな……
>さすが悪魔配信者……
でもこのRTA解説が終わったら、色々な解説動画を撮ろうと思ってるので、その時にでも紹介できたらと思います。
>まあまずは100階に到達してからか
>それはそれで興味あるしな
>楽しみが増えたと思えば、まあ……
>誰も100階に到達できるの疑ってなくて草
>それはそうだろ
>ケンジくんにクリアできないなら人類の誰にもクリアできないよ
>100階ボスを何パンで倒すのかくらいしか興味ない
>さすがに2パンはかかるよな……?
>常識的に考えたらそうだろ
>俺たちの常識が一度でも通じたことがあったか?
>なかったわ……
>常識的に考えて100階ボスを2パンで倒すのが常識的に有り得ない件について
そうやってコメントを読みながら閲覧室を進んでいくと、どこからともなく10体の天使が現れた。
書庫には3体くらいしかいなかったけど、閲覧室になると急に数が増えるんだよな。
>走っててうるさかったのでは
>小学生の頃とかはよく怒られたよな
>図書館では静かに
……うっ、それはそうかも。
でもRTAだから走るのは仕方がない。
そこは許してもらおう。
せめて音を立てないように軽く走り、そして元の場所に戻ってくる。
「……よっ、と」
同時に、10体いた天使たちが次々に倒れていった。
>は?
>え?
>天使たちが、勝手に倒れて……
>コメント書いてる間に終わってるんだけど……
>まさか、今の一瞬で10体の天使を……?
「10体の天使を倒すには10回攻撃しなければならないので、少し時間がかかるのが厄介ですね。
なので大量に出てきたときは、固まっているうちにまとめて倒すことをオススメします」
>許してもらおう(殴りながら)
>肉体言語かな
>ひどすぎる
>これが……初級ダンジョンRTA……!
>上級だけどな(ぼそっ)
>さすがにもう驚くことないだろって思ってたけど、まだまだあったわ
倒れた天使たちの横を通り抜けて先に進む。
やがてひときわ大きな扉が見えてきた。
では次のステージですね。
この辺りは特に見どころもないので、どんどん先に進みましょう。
>見どころしかなかったが……?
>時間魔法の使い方をスルーしたことを、俺は忘れないからな……
>これで見どころがなかったら、この先いったいどんな見どころが待っているのか……
>次のステージも楽しみ!




