第81話 大海獣リヴァイアサン
階段を降りて79階にやって来たけど、相変わらず海のど真ん中で変わり映えしない。
まあ海ステージはそんなんだからな。
同じことを繰り返しても飽きられるだけってシオリにも言われたことがあるし、さっさと先に進むことにしよう。
といってもやることは簡単だ。
俺は上の階から持ってきたクラーケンの足を海に放り投げた。
>持ってきたのに捨てるのか?
>じゃあいったいなんで持ってきたんだ?
その答えはすぐに分かります。
やがて海の底から巨大な気配がせりあがってくる。
それはクラーケンの足に食らいつくと、そのまま海を割って姿を現した。
>うおおおおおお!?
>なんだこいつ!?
>くっっっっそでけえ!!
それは超巨大なクジラだった。
太陽を遮り、あたり一面が真っ暗になるほど巨大な姿が空を飛ぶ。
「リヴァイアサンですね。こいつはクラーケンの足が大好物なので、近くにこうして撒いてやればすぐに喰らい付きに来ます」
>リヴァイアサンって、あの大海獣リヴァイアサンか!?
>モンスターの中で最も巨大といわれてるやつじゃないか
>動画に映ったのは世界初じゃないか……
>そんなにやばいの?
>やばいというかでかい
>とにかく巨大で全長は3000メートル以上とも言われてる
>でかすぎて意味が分からない……
>確かに配信画面も真っ黒で何も見えないけど
>この壁みたいなのがクジラってこと?
>ちょっとした大陸じゃんこんなの……
ちなみにそんな化け物に人間が切りつけたところでダメージにもならない。
仮に10メートルの剣で切ったとしても、たかが300分の1。
人間に例えるなら、5ミリの切り傷をつけられるようなものだ。
>ちくっとする程度か
>マジでかすり傷じゃん
>しかも人間と違って分厚い脂肪で覆われてるからな
>それこそ100メートルくらいの剣で刺さないと内側に届かないんじゃないか?
>そんなの人間じゃないよ……
>でかいってことはそれだけで強いってことだからな
>で、どうやって倒すの?
>無理じゃないか?
「倒す必要はありません」
>え、そうなの?
>じゃあなんで?
こいつがショートカットを開いてくれるからです。
まあ、説明しても分からないですよね。
さっそく実践してみましょう。
俺は拳を固く握り、目の前の黒い壁めがけてまっすぐに突き上げた。
──ッッッドオオオオオオオオオオンッッッ!!!!!
一撃を受けた鯨の巨体が浮き上がる。
>嘘だろ……
>大陸が浮き上がった……
>パンチの音じゃないんよ……
>大砲かな?
>そんなレベルじゃないだろ
>レールガンとかそういうレベル
>人の拳が出していい音じゃない……
空に吹き飛ばされたリヴァイアサンが、その巨大な口を開いて咆哮を上げた。
──ぼええええええええええええええ!!!!!!!!!!
>うるせえええええええええ!!!
>スピーカー壊れるううう!!
>電車の中で一斉に鯨の声が響いたんだがw
>みんなケンジくんの配信見てるんだなw
鯨の絶叫が響き渡り、あまりの大音量に空が砕け散った。
>えっ!?
>そんなことある?
>吠えるだけで空を壊すとかバケモンかよ……
砕け散った欠片がキラキラと降り注いでくる。
その先には、光も届かない深海が広がっていた。
「よし、開きましたね」
>は?
>どういうこと!?
俺もよくわかりませんが、この鯨が大声を出すと、空間が壊れて別の深海につながるんです。
多分リヴァイアサンが逃げるために空間に穴をあけてるんだと思いますが、詳しいことは分かりません。
とりあえず、リヴァイアサンを殴ると近道ができる、とだけ覚えておけば十分です。
あの感じだと、地下82階の深海でしょうか。
>絶対に一生使わない知識だと断言できるwww
そうそう。
あの音をまともに浴びると人間の身体は簡単に破裂するので、気を付けましょう。
>そんな怖いことさらっと言わないでw
>時空を切り裂くほどの音量だからな、人間の身体なんてそりゃ簡単に破裂するか
>気を付けろってどうすりゃいいんだよ
魔力の膜を周囲に張りましょう。
それで防げます。
>だから!
>魔力が!
>見えないんだよ!
>この一体感好き
>まあその前にリヴァイアサンを泣かせる程度の力がないんですけど
>絶対に無理だわ
>倒す方がまだ簡単そう
>ん?割れ目の先に何か見えないか?
>ほんとだ。何かあるな
気付きましたか。
あれは海底神殿です。
>海底神殿……?
>なんだそれ
>聞いたことないけど……
かなり運がよければ、海ステージのどこかの階に現れます。
普通に行こうとしたら出現確率が低く、場所もかなり深い深海にあるので、発見は難しいです。
>そんなのがあるなんて聞いたことないけど……
>そもそも海底を調べようなんてやつがいないからな
>海の上にある小さな島を探すだけでもめちゃくちゃ大変なのに、海底まで調べろって?
>無茶言うなよ……
>しかもどの階にあるかもわからないんだろ
>すべての海のすべての深海を隅々まで調べるんだよ
>隠しステージすぎだろ……
>あまりにもアホステージ
そうですね。普通に見つけようとしたら少し時間がかかります。
サーチするだけでも1階につき10秒くらい使ってしまいますから。
ですが、リヴァイアサンが穴をあけた時に、運がよければ目の前に現れます。
普通ならまずありえませんが、乱数を調節すればそれが可能になるんですね。
>たまたま鯨が逃げた先に、たまたま現れた隠しステージが、たまたま目の前にあったってこと?
>どんな確率だよそれ……
>これが……乱数調整……
>てかその乱数調節の方法を教えてくれよ
方法ですか……。
うーん。そうですね。
こればっかりは経験則なんですよね。
何か明確な法則があるわけではなく、あの時こうしたら、こうなったっけ? みたいな経験の積み重ねというか……。
なのでその経験を積み重ねるしかないと思います。
>つまり?
>海ステージをクリアしたければ、何度も海ステージをクリアしろってこと
>だからその海ステージをクリアする方法を聞いてるのに……
>海ステージをクリアしたかったら、海ステージをクリアするんだよ!
>めちゃくちゃ言ってるw
>新しい構文かな?
そうこうしているうちに、リヴァイアサンが穴をくぐって深海へと逃げていった。
それと同時に、穴がゆっくりと閉じていく。
このままだと通れなくなってしまうので、その前にさっそく先に進みましょう。
リヴァイアサンが開けた時空の裂け目を通って深海へと入る。
空に穴が開いてるのに海の水が流れてこないのは、たぶん時空の裂け目がそういう風にできてるからなんだろう。
そういうのは、冥界に入ることができるシオリのほうが詳しいのかな?
振り返って見てみたけど、ジトっとした目を向けられた。
どうやら知らないらしい。
とりあえず穴に入る。
境界を超えた瞬間に、周囲が海水に包まれた。
周囲に魔力の膜を張っているため濡れることはないけど、水の中を進む分だけ速度は遅くなる。
タイムロスになってしまうため、さっさと正面の海底神殿へと近付いた。
それは神殿と呼ぶにふさわしい、大きくて厳かな雰囲気の扉だった。
まるで触れるだけで罰が下るような、神聖な雰囲気さえ感じられる。
神秘的な扉に手を当てると、ゆっくりと静かに押し開いた。
メギメギメギ……バギンッ!!
>www
>www
>聞こえちゃいけない音が聞こえたけどw
>明らかに鍵がかかってたよなw
>鍵を開ける時間がもったいないからしょうがないw
そうですね。ここには門番がいないので鍵を手に入れる必要もありません。
わざわざ鍵を開けるのはタイムロスなので、壊して入りましょう。ちょっと強めに押せば簡単に開きます。
>鍵もどこかにあるの?
ちなみに鍵は、海底のどこかを漂っている深海沈没船の船長が持っています。
気になる人は探してみてもいいかもしれないですね。
>どこの階かもわからないクソ広い海底を動き回る船を探し出せって?
>考えた奴はバカなのか?
>ファミコン時代のゲームでももうちょっと簡単だぞ
鍵の話が出たことで気付いた人もいるでしょう。
10階にあったあの扉と同じで、この神殿を抜ける事でショートカットになります。
この乱数調整がうまくいく確率は低くて、過去にも何回か失敗してるんですが、今回は上手くいってよかったです。
それでは行きましょうか。
この先は海ステージの隠しダンジョン「深海図書館」です。




