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初級ダンジョンRTA走者 世界最速を達成したので解説動画を公開したら参考にならなすぎで大バズりしてしまう【書籍化決定】  作者: ねこ鍋


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第73話 魔人王覚醒

それはどこかの亜空間。

この世界のどこでもない、全く別の世界。

「それ」はただ静かに報告を待っていた。

憎き自らの宿敵を滅ぼしたという、待ち望んだ吉報を……


「魔人王様!」


部下の声に私は目を開けた。

期待していた報告でないことは、その焦るような声からすでにわかっている。


「差し向けた10体のシェイプシフターですが、全滅したようです……!」

「バカな!」


結論を分かっていても、そう声が出るのを抑えられなかった。


「自分とまったく同じコピーを作るのだぞ! 10対1で勝てるはずが……。

 私とて、二人以上の自分と戦えば勝てないのだぞ!」


怒気だけで目の前の空間が歪曲する。

報告に来た部下は、恐れるように身を縮こまらせていた。


2本の角を生やした魔人族の中で、私だけが唯一3本の角を持っている。

角は魔人にとって魔力の発生源だ。

力の差は角一本分にとどまらない。

その気になれば目の前の部下1人、いつでも消し去ることが可能だ。


溢れ出す怒りをどうにか呑みこむと、深く息を吸い、感情を静める。


こいつに当たったところでどうにもならない。

私としたことが、この程度の感情を抑えられぬとは。


……いや。ちがう。本当はわかっている。

私は決して怒りを感じているのではない……


認めたくないだけだ。

我ら魔人族が、たかが一人の人間すら始末できないということを……


「……報告を続けろ」

「は、はい……」


部下が震えながら口を開く。


「ひとつだけ可能性が。実力をコピーし切れなかったのではないかと」

「シェイプシフターは完全に模倣する。そこに例外はない!

 生物である限り、そんなこと有り得ないはずだ!

 それとも奴は生物を超越した存在だとでもいうのか!?」

「しかし、それ以外に理由なんてあるはずがありません……」

「っ……!」


確かにそうだろう。

まったく同じ自分と戦うのだ。

良くて相打ち。

あるいは1対1なら勝てることもあるかもしれない。


それを不可能とまで思うつもりはない。

しかし、10体ともなれば、どう考えても……


奴の名前は何と言ったか……

報告にあったはずだ。

そう、確か……


「おのれ【RTA走者】め……! 我らを凌駕する化け物だというのか……!」

「魔人王様……」

「………………。

 ……シェイプシフターは後何体用意できる」

「なんとか10体までなら……」

「ダメだ。100体用意しろ」

「そっ……!」


部下が絶句する。


「そんなに集めては、最悪の場合、奴のコピーが反乱を起こすことも考えられます……!

 そうなっては、我々に勝ち目は……っ」

「シェイプシフターなど後でどうにでもなる!

 だがRTA走者はダメだ……。奴だけはまともに戦ってはならない……。

 今ここで殺さなければ、恐らくはまだまだ強くなる。その力、私にすら届くやも……いや、むしろ……」

「まさか、人間如きがそんな……」

「今ここで確実に潰さねば、我らは敗北するぞ。招集をかけろ。確実に殺しに行く」

「では一族の一割ほどを……」

「中途半端な出し惜しみなどするな!」


一喝すると、歪曲した空間にひびが入り、部下の右腕が消し飛んだ。

それはすぐさま再生したが、部下は怯え切った表情でうつむいている。


「まだわからないのか!?

 RTA走者は出し惜しみして勝てる相手ではない! 一族全員を招集しろ! 一匹残らず戦いに駆り出せ!

 やるからには徹底的にだ。確実に勝てる戦力を集めろ。最悪の状況の、さらに倍は最悪を想定しろ。それでも足りるかは分からない」

「そこまで……」

「見ろ。私の体が震えるのを。私は恐れているのだ。RTA走者と戦うのを……」

「そんな……あなたほどのお方が、人間如きに……」


認めねばならない。

RTA走者は強い。恐らくは、私よりも。

人間如きに後れを取るなど耐えがたい屈辱だが、その傲慢が死を招くこともまたわかっている。


だからこそ一切の油断はしない。

確実に殺す。


「ここでの敗北は我ら一族の敗北と知れ。

 全勢力で行くぞ。これが最終決戦のつもりで挑め。

 これから始まるのは、我らの存亡を賭けた聖戦だ!!」

「は、ははぁ!!」


勢いよく首を垂れる。

その姿を見下ろしながら、さらに言い放つ。


「それから、例のアレの用意はできているな」

「……っ!!」


今度こそ確実に息を呑むのがわかった。


「……もちろん、完了しております……」

「用意しろ。私も行く」

「魔人王様自らが!?」

「当然だ。貴様らに任せられるわけないだろう」

「しかし……」


部下が躊躇するのがわかる。

だがそれでも私が行かなければならない。


やつによって30体の2本角が一瞬のうちに全滅させられたという。

所詮2本角だ。3本角の私とは格が違う。比較したところで意味はないだろう。

それでも決して油断していい相手ではない。

私以外勝てる者はいないだろう。


そのために、魔人剣レーヴァテインを用意させた。

100体の幼子を素材にして作られた恐るべき忌み剣にして、我らの歴史の中でもただの一度しか使われたことがないという、秘剣中の秘剣。

所有者の力を何倍にも増幅するかわりに、代償として寿命の半分を失う呪われた剣だ。

だが、躊躇している場合ではないだろう。


出せるものはすべて出す。

そうしなければRTA走者には勝てない。


「しかし……」

「どうしましたか?」

「……いや、なんでもない」


聞けば始祖もやつの元に現れ、討伐されたという。

あの人間が繰り返し挑んだダンジョンは、どこよりも育っているだろう。

始祖が訪れるのも無理はないほどに魔力も溜まっているはずだ。

理由としてはごく自然に思える。


だが、それ以上の何かを感じる。

まるで何者かに送り込まれているかのような……

思えば傷ついた我らの同胞があそこを慰留地と定めたのも、その良質で豊富な魔力があったからこそだ。


今の私が操られているとは思えない。

すべて私の意志だ。

おそらくは始祖のやつもそうだったはず。

軽々に操られるような存在ではない。


にも関わらず、そうと悟らせないうちに始祖も私も操られているのだとすれば、それだけの力を持った存在など、もはや……


………………。



……いいや!

そのようなことはあるはずがない!

例えそうだとしても、ここでRTA走者を殺せばいいだけのこと。


私こそがこの世界を支配し、新たなる神になるのだから!!

読んでいただきありがとうございます!


この作品はなろうコンに応募してます!

面白い、続きが読みたいと思っていただけたら、ブクマや評価、コメントなどで応援していただけるととっても嬉しいです!

どちらも大変モチベーションアップになりますので、ぜひよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔人王さん「聖戦だ!」 魔族の王様が『聖』戦って言っちゃってる……!
[良い点] 展開早いですね [気になる点] どうせ軽く捻られるんでしょ? [一言] 哀愁が漂ってますね
2024/08/12 16:14 退会済み
管理
[良い点] 魔人王氏、自分より弱いやろ~とか「スカウ○ーの故障だ!?」みたいな言い訳(?)もせず、ケンジくんは絶対ヤバい→だから全力全開で抹殺しようとするその姿勢『だけ』は素晴らしいんですけどね。 で…
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