第69話 貴様はいったい何者なんだ……!
階段を降りて53階にやってきた。
基本的には今までと変わらない地下空間だ。
根の壁がないため、見渡す限りの大空洞が確認できる。
特に変わったところは見当たらない。
だけど。
降りた瞬間から何かの気配を感じていた。
それはシオリも同じみたいだったようで、俺の背中から声をかける。
「ケンジ。気をつけて。何かやばい感じがする……」
ああ。
どこか懐かしい感じもするこの気配には、俺も脅威を感じる。
この先に何か強力な存在がいるのは間違いないだろう。
53階となる地下墓地の下は、更なる地下空間が広がっていた。
相変わらず障害となる物はないため、階段のある場所を目指してまっすぐに進んでいく。
果たして、その存在はすぐに見つかった。
貴族然とした姿の化け物。ヴァンパイアだ。
しかしそこから発せられるオーラはさっきまでのヴァンパイアとは比べ物にならないほど強い。
そいつは俺を見ると、口を笑みの形に歪めた。
──ほう。私の前に立っても正気でいられるとは。
>しゃべるヴァンパイア!?
>いや、しゃべったというより、頭に直接聞こえたような……
>テレパシーってことか?
>でも配信を見てる俺たちにも聞こえてるんだが……
>同接500万を超えてるんだぞ……
>その全員に……?
>どんだけ強い魔力を持ってるんだ……
>まさかこいつ……ヴァンパイアのユニークか!?
>それって……
>伝説の……
シオリもその存在は知っていたのか、震える声で呟いた。
「まさか本当に、吸血鬼の始祖が来るなんて……」
そういえば、以前シオリからダンジョンについて教えてもらった時に、その名前も聞いたような気がする。
_____
「世界中のダンジョンで確認されてるモンスターの中でも、特に危険とされているモンスターが何体かいるわ。
その中でも特に有名なモンスターが始祖よ。
ユニークモンスターは世界中のダンジョンに現れるけど、そいつだけは世界でも一体しかいないと言われてる。
あらゆるダンジョンに現れ、おそらくはダンジョンが世界に現れるはるか以前から──もしくは、ダンジョンが別の世界にあった時からこいつは生き続けてきたとも言われているわ。
それはユニークでもイレギュラーでもない。おそらくは世界で唯一の《《オリジナルモンスター》》」
100の魔法と、1000のスキルと、10000の命を持つと言う原初の存在。
不死を超えた不死。
生命の始祖。
エルダーヴァンパイア。
高貴なる血族、ノーブルレッド。
_____
確かそんなことを言っていたっけ。
その始祖が、どうやら目の前にいるヴァンパイアらしい。
確かに恐ろしいほどの魔力を感じる。
しかし、なんというか、この感じどこかで……
──ん? 貴様、どこかで……
それは始祖も同じだったのか、俺を見て首をひねっている。
やがて何かを思い出したみたいで、驚きに目を見開いた。
──まさか、あの時の……!?
始祖の驚くような思念が頭の中に響いてくる。
その時に俺も思い出した。
そうか。どこかで見たことがあると思ったら、冥界ダンジョン100階のボスだったモンスターじゃないか。
散々倒したから、なんとなく覚えてたんだな。
──何度も何度も弄んでくれおって……! あの屈辱の日々は忘れぬ……!
>めっちゃブチギレてるじゃんw
>ケンジくん何したの?w
>俺何かやっちゃいました?
>どうせ覚えてないんだろうなあ
──あの時より、貴様を倒すためだけに私は力を磨き続けた。
──今こそ、その時だ! 私の新たなる力、ここで見せてやろう!
始祖が何かの魔法を唱えると、その足元から数百体ものさまざまなアンデッドが現れた。
ゾンビにグールにスケルトンに……数えきれないほどのモンスターだ。
しかもさらに数十匹のヴァンパイアが生まれ、2匹の見たこともない禍々しいドラゴンまで召喚された。
>なんだあれ……
>見たことないぞ……
>ドラゴン、か……?
俺もはじめて見るドラゴンだ。
その気配はどちらかというと、不死者に近いような……
>不死者となったドラゴン……?
>邪骨竜なんかより、はるかにやばいじゃん……
>そんなのがいたのか……
竜の牙を素材に作られたアンデッドドラゴンとも違う。
より上位の存在である、不死者の眷属となったドラゴンだ。
それは最強の竜の一角とされる邪骨竜カースドドラゴンより、さらに何倍も強いだろう。
──ククク……。流石に驚いているようだな。
──この世界のどこにも存在していない。我が新しく創造したモンスターだ。
>新しく創造した……?
>新しい命を作ったってこと?
>そんなことができるのか……
>そんなの、神と一緒じゃん……
>これが始祖か……
──初めて見るモンスターだ。弱点もわかるまい。いくら貴様といえども、そう簡単には倒せないだろう。
ああ、まったくその通りだ。
今もサーチで解析しているが、どこにも弱点が見当たらない。
恐ろしいモンスターの軍団だ。
しかも始祖自体は、それらモンスターの軍団全員を集めたよりもはるかに強い。
呪詛、邪眼、闇魔法。
始祖が操る能力はどれも強力で、下位の冥界魔法に近い。
シオリがちょっと怒った時くらいの力を持っている。
当然俺なんかが太刀打ちできるものではない。
普通に戦えば1分はかかっただろう。
なんて恐ろしいモンスターなんだ。
俺は手に魔力剣を生み出した。
「10倍加速・初級剣スキルLv2〈ストライク〉・次元属性付与・400連」
──ズガガガガガガガガガガンッッ!!!!
数百体の骨が砕け散り、ヴァンパイアたちは灰となり、不死竜は塵となって消えていく。
その全てが復活することなく、光となってダンジョンの中に消えていった。
>えぇ……
>なんだ今の……
>一瞬でモンスターの群れが消し飛んだぞ……
>今の初級剣スキルだったよな……
>切ったというより、ほとんど空爆だったけど……
>なんで爆撃みたいに吹っ飛んでいったの……
溶けていく光の粒の中で、たった1匹だけが、いまだ2本の足で立っていた。
──バカな……この私が、なぜまた……
掠れた声を響かせながら、半身を失った状態で立っていた。
どうやらテレパシーで俺の思考を読まれたみたいだな。
それで一瞬防がれたのだろう。
致命傷をギリギリのところで避けている。
表と裏、両方の世界から魂を破壊したはずなんだが、それでも倒せないとは……
始祖と言われるだけあって、やはり強いみたいだ。
冥界ダンジョンにいた頃は直接倒すだけだったけど、こっち側から攻撃するのは初めてだから、少し感覚が狂ったみたいだ。
それに、向こうでもアンデッドは死ぬはずなのに、始祖だけは死ななかった理由も、ようやくわかった。
魔力の剣を生み出した手とは反対の手に、呪詛にまみれた魂があった。
「世界の裏側のさらに裏側に、自分の魂を隠していたんだな」
──何者なんだ、貴様は……ッ!!
>ただのRTA走者ですよ
>マジで何者なんでしょうね
>俺たちにもわからないんです
>魂を素手でつかむ……?
>軽率に人間辞めるのやめてもらっていいですか?
──なぜ、人間の分際で、冥界をそこまで熟知している……。いや、まさか、そのお方は……!
その視線は俺を見てるようにで、さらにその後ろのシオリを見ているような気がした。
──ま、まさか、あ、貴方様とは……! 申し訳ありません……! 冥界の──
「ケンジ。そいつ黙らせて」
「え? ああ。わかった」
呪詛にまみれた魂を握り潰す。
その瞬間、始祖も真っ白な灰となって崩れ去った。
>今、貴方様って言った……?
>始祖にまで怯えられる男
>本当にケンジくん何者なの……?
>ケンジくん、始祖を分からせる
>始祖より上位の存在……
>そんなの、もう神しかないじゃん……
まあ、シオリは冥界の神だから間違ってないけど……
もしかして俺が冥界の神だと勘違いされてないか……?
とはいえ、シオリのことを話せない以上訂正もできないしな。
このまま先に進むしかないか。
ちなみに残された始祖の灰の一部は、シオリが回収していた。
帰ったら触媒にでもするのかな。
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