第68話 殺せないけど壊すことならできます
焼き尽くした邪骨竜の横を通り過ぎ、穴を通って下に降りて、52階にやってきた。
52階も同じような大空洞だったが、根は上の階で焼き尽くしため、こちらの根はすでに焼け落ちていた。
空間を区切る根の壁もないため、まっすぐ次の目的地に向かうだけだ。
階段を目指して進んでいくと、やがて闇の中に巨大な影が見えてきた。
それは巨大な城だ。
だけど中から人の気配は感じられない。
不気味で禍々しい死の気配だけが漂ってくる。
>これは……
>ついに来たか……
>冥府の森の最奥にある城……
>森もうないけどな
>ケンジくんがいつも無茶するから!
>タイムのためなら森なんて焼き払うんだよ
>鬼畜過ぎ
>そこだけ聞いたらガチの災厄やんw
城の門を開けて中に入る。
内部は美しい内装に彩られた、豪華な城そのものだった。
ただ一点、一切の気配を感じず、冷たい冷気だけが満ちている。
正面入口からすでに周囲には複数の階段と扉が配置されていて、どこから進もうか迷うくらいだ。
けど、基本的に目指すのは城の中央にある地下部屋だけ。
次の階層へと通じる階段は、そこに必ずあるからな。
それ以外に入る必要はない。
>武器庫……
>宝物庫……
>玉座の間……
>あきらめろ……ケンジくんの配信だぞ……
>ケンジくん以外にこれる冒険者は何人いるんだよ……
城の扉にはどこも鍵がかかっていて、その鍵は別の部屋にある。
なので城を探索して適合する鍵を探し、扉を開いて次の鍵を探す。
そうやって進んでいくのがこの城の基本ルートだ。
けどもちろんそんな時間はもったいない。
扉を次々に蹴破って最短距離を進む。
>まあそうなるよねw
>扉には防護魔法がかかってて壊せないはずだけどw
>でもドラゴンの骨よりは柔らかいでしょ?
>基準がもう建物じゃないんよw
廊下や部屋には無数の竜牙兵や、広い廊下を丸々ふさぐほど巨大な強化屍兵などがいたが、今の俺には次元属性がある。
竜牙兵を殴って粉々に破砕し、屍兵を吹き飛ばして壁にたたきつける。
今までは拳をかなり強く握りしめる必要があったが、今は魔力を込めるだけで一撃で倒せるから楽なものだ。
城内の道もサクサク進んでいく。
>倒し方がゴブリンの頃から何も変わってないw
>拳を強く握る<拳をかなり強く握る
>拳をギュギュっとね!
>何の役にも立たないアドバイスw
>ケンジくんからしたら、この階層ですらゴブリンと同じレベルか
まあアンデッドは倒しにくいってだけで、基本的には強いタイプのモンスターじゃないからな。
パンチに込める力が変わるだけで、それ以外は確かにゴブリンと同じだ。
HP10のモンスターを10の力で倒すように、HP10000のモンスターを10000の力で倒す。
違いはそれだけだからな。
そんなことを話してると、やがて地下に降りる階段へと辿り着いた。
そこを降りると、墓が並んだ広い地下空洞へ出る。
地下墓地だ。
信じられないほど広い地下墓地には、数えきれないほどの墓が並んでいる。
その数だけ見たら町ひとつ分はあるのでは? という感じだ。
けどここはダンジョンが生成した階層。
だとしたらこの墓は一体誰の墓なんだろうな。
そんなことを思いながら走り抜けると、やがて直立して置かれた棺桶が見えてきた。
俺が近づくと、ひとりでに棺桶のふたが開く。
現れたのは、貴族のような姿をした美形の化け物。
吸血鬼ヴァンパイアだ。
負のオーラにあてられるだけでも気が触れてしまったり、その肌に触れただけで魂を侵されて眷属にされてしまう。
不滅の存在、不死者の王とも呼ばれるそれは、それまでのアンデッドモンスターとは存在からして根本的に違うモンスターでもある。
灰にしても、粉々にしても、聖なる炎で焼き払っても、必ず元に戻る。
すでに死んでいるためそれ以上死にようがないアンデッドとは違う。
不死者たちは、死という概念を持っていない。
生命ですらないんだ。
どんなに強く霧を切ったところで、吹き散らすことはできても、霧を殺すことはできない。
霧は生命ではなく、自然現象だからだ。
それと同じように、ヴァンパイアという存在は冥府の森における霧のような自然現象であり、生物という枠の外にいる存在だ。
水辺に自然と霧が発生するように、冥府には自然と不死者が発生する。
故に、殺すことはできない。
そう思われてきた。
俺は手に次元属性の魔力を生み出し、それを剣の形に伸ばした。
これは単なる思い付きだ。
だけど確信があった。
世界の裏側からなら霧さえも殺せる。
魔力の剣でヴァンパイアを頭から切り裂く。
ただの一太刀で、不死者の王はその場に倒れた。
霧になるのでも、灰になるのでもなく、ただその場に倒れ、光の粒となってダンジョンの中に消えていった。
>不死者の王すら……
>覚醒したケンジくん強すぎ……
>やはり世界の裏側からの攻撃は、誰にも防げないのか……
>最強属性……
>霧を殺すって……マジでどういう意味なんだよ……
「昔はヴァンパイアを倒すのに時間がかかっていたのですが、次元属性の魔力を使えば簡単に倒せますね。
皆さんも試してください」
>だから無理だって言ってるだろ!w
>聖属性でも無理なのに
>次元属性なんて不可能だよ
>まず意味がわからないからな
まあ、たしかに自分もさっきから使い始めたばかりだ。
練習もしてないんだから、無理な人がいるのも当然だよな。
「その場合は、ちょっと時間がかかりますが、普通に倒す方法もあります」
>えっ
>普通に倒す???
>不死者だよ?
>殺せないって自分で言わなかった?
「不死者は冥界の魔力が集まって生まれた自然現象ですが、魔力が意志を持った存在という意味では、精霊に近いです。
そういう意味では闇の精霊ヴァンパイアと呼ぶこともできるでしょう。
つまり、命はないけど核はある、ということです」
先に進むともう一つの棺桶があった。
内側から開くのを待たずにふたをはぎ取ると、その中にいたヴァンパイアに向けて拳を連続で叩き込む。
>www
>自ら開けたwww
>せっかく寝てたのにw
>「あいつやば……怖いから出ないで隠れとこ……」
>ヴァンパイア君かわいそうw
拳の連打を受けて入っていた棺桶ごとヴァンパイアが消し飛んだ。
ヴァンパイアは塵となってしまったが、復活する気配はない。
「ヴァンパイアは命を持たないといわれていますが、正確には666個の魔力の核を持っています。
それが一つでも残っていると核を再生してしまうので、まるで死なないかのように思えるんです。
それさえわかれば対処法は簡単ですね。生命じゃないので殺せないけど、壊すことならできます。
聖属性の魔力を込めた拳で、666回連続で攻撃しましょう。
再生には10秒ほど猶予があるので、1発0.01秒で攻撃すれば6秒で倒せます。時間のかかることだけが欠点ですね」
>1 発 0 . 0 1 秒www
>www
>うーん簡単だなあ
>ケンジくんが簡単といって簡単だったためしがない
>(666回までは)不滅の存在
>不死者といえども所詮この程度か
>不死者だけどアンデッドではないからな
>違いがわからないw
>おお不死者の王よ、666回殴られるだけで死んでしまうとは情けない
>ボッコボコで草
>死んで当たり前だよなあ
>触れたら魂を侵食されるので気を付けましょう(素手で殴りながら
その後も現れるヴァンパイアを次元魔力で切り倒しながら進んでいく。
倒れた後には、ひとつまみの灰が残されていた。
>えっ
>あれって……
>まさか不死者のドロップアイテム!?
>そんなのはじめてじゃないか!?
>不死者はドロップしないって言われてたのに……
>本当の意味で不死者を倒した者はいなかったからな……
>一体どんな効果が……
「あ。使い道がないのであれはいりません」
>嘘でしょwww
>世界初のドロップアイテムだぞwww
>てか知ってたんかいwww
>灰なら軽いでしょ!!??
軽いですが、ちりつもでタイムにも影響出ますし、持ってても使い道もないんですよね。
武器に混ぜたら不死者を切れるようになるみたいですけど。
>不死斬りじゃんwww
>めっちゃ有用www
灰を投げつければ大抵のモンスターは即死します。
他には、自分に使用することで自らを不死者にしたり、あるいは触媒とすることで不死者を眷属として呼び寄せたりできるみたいですね。
>不死者になるとどうなるの?
なったことがないので、サーチによる検証結果になりますが、自分も不死になるようです。
速くなるわけではないので……RTAには不要ですね。
単純な強化アイテムなら、一時的な加速に利用できたと思うのですが。
>人間を辞められるのか
>まあ、いくら不死とはいえそれはな……
>すでに人間辞めてる人には効果ないだろうし
>【RTA走者】からしたら不死者なんて下位の存在だろうしな
>死なないだけとか無能すぎ
>じゃあいらないな
>いるに決まってるだろおおお!!!!
>w
>w
>クソ笑ったw
お、階段にたどり着きましたね。
では次の階に進みましょう。
>不死者の王すら倒したらもうこのエリアに敵はいないんだよな
>でも次の冒険も楽しみ!
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