第67話 ルール上破壊可能です
>世界の裏側から攻撃って、意味わからないんだけど……
うーん、コメントのみんなにはあまり伝わっていないみたいだ。
とはいえ詳細を教えるわけにもいかないし……
「説明は難しいのですが……名前はないので、いったんこの魔力は「次元属性」と呼ぶことにします。
この次元属性の魔力を拳に付与することで、こちらとは別の次元から攻撃することができるんです。
その効果は見てもらった通りです。皆さんもぜひ使ってみてください」
>笑えるくらい何言ってるのか一つも理解できないわw
>また新しい属性出来ちゃった
>付与すると別次元から攻撃できる属性???
>属性とはいったい……うごご……
>属性の概念が壊れる……
>とっくに壊れてるぞ
聖属性の魔力は苦手なので、今までは他よりも発動に時間がかかってたんだけど……
この方法なら倒すのに一回で0.03秒くらいはタイムを縮められそうだ。
>なお人間が認識できる時間の最小は0.2秒という説があります
>どんな頭をしてたらそんなこと思いつけるの……
>次元を壊して攻撃できるかもしれない、って思えるところが意味不明
>これがRTA脳……
>タイムに脳を焼かれると常識すらわからなくなるんだ……
ちなみにシオリもジトっとした目で俺を見ていた。
あれは「なんでパンチで冥界の扉を開けるのよ。ほんと意味わかんないんだけど」と思ってる目だ。
幼馴染だからわかるんだ。
なんでといわれてもな。
元はシオリの冥界魔法を参考にしたものだし。
多分シオリでもできるはずだけど。
「……」
これは表情を見なくてもわかる。
絶対に「できるわけないでしょ馬鹿じゃないの」って思ってる。
>まーた目と目で会話してるよ
>ほんと隙あらばイチャついてるなこのカップル
>いいぞもっとやれ
>できればシオリちゃんも映してくれてもいいんだよ?
うう……。
またコメントで怒られてしまった。
とはいえこの話題を実際に聞かれるわけにはいかないしな……
さっさと先に進むことにしよう。
砕け散った竜牙兵たちは、光の粒となってダンジョンの中に消えていく。
やがていくつかの竜の牙が地面に残されていた。
>ひええ……超レア素材の宝庫……
>竜の牙で作った武器、いったいどれだけ強いんだろう……
>ちなみにケンジくんそのドロップアイテムはもちろん……?
「はい。いらないので置いていきます」
>ですよねー……
>知ってた……
>装備いらない人からしたら装備の素材なんていらないよね……
>俺も次元の壁を超えてあれを拾いたい……
>次元の壁を超えられる奴は装備なんていらないんだろうな
「ではさっそく次の階に進みましょう」
世界樹の穴を下っていく。
ちなみに後ろをついてくるシオリが、牙を何本か拾っていたみたいだった。
そういえば命を付与した人形を作るには素材がいるとか言ってたし、それに使うのかもしれないな。
長い穴を下っていくと、やがて広い地下空間に出た。
天井だけでも恐らくは10メートル以上もある、広大な地下空間だ。
天井からは木の根が大量に垂れ下がり、壁のように道を遮ることで迷宮を作っている。
これらは全部世界樹の根だ。
根からも葉が生えており、まるで地下に広がる森のようだった。
>世界樹は生気も魔力も、とにかく近くにあるものすべてを吸い尽くして成長してるんだよな
>なんでも食うから成長速度もやばいのか
>だから近くにはアンデッドしか存在できない
>名前だけだと雄大だけど、実際は厄介極まりないモンスターだよな世界樹って
>常に全種類のデバフをばらまいてるようなものだし
>魔法で保護しても、その魔力を吸われるから効果がないんだよな
「どうやら皆さんも知っているみたいですね。
無造作に生えているため、正確には迷宮ではありません。
ですが、迷宮のように入り組んでいることは確かです。しかも根にも触れれば命を吸われます。なので慎重に進まなければならないですし、運が悪ければルートがすべてふさがれていることもあるでしょう」
>つまり新しいお祈りポイントってわけか
>運が良ければ直線で進めるし、運が悪ければ道がないと
>でもケンジくんはサーチできるんでしょ
>今回はどうだったの?
「サーチは必要ありません」
俺は手の平に持った炎を掲げ、目の前にある樹の根を照らしだした。
「壁のように連なって生えていますが、壁ではありません。木の根です。
つまりルール上破壊可能です」
>あ
>あ
>あ
>終わった
>はいクリア
>世界樹君逃げてー
>あの大きさで逃げることは……
俺は聖なる炎を持つ手に、少しだけ新しい魔力を送った。
「初級火炎魔法〈ファイア〉」
放たれた炎が地下空間を埋め尽くし、障害物を次々に焼き払っていく。
木の根が瞬く間に焼き尽くされ、途中にいたモンスターたちもろとも灰に変えていった。
ついでに暗い洞窟も明るくなるので一石二鳥だ。
>世界樹の根を初級魔法で焼いてるwww
>下手な金属よりよっぽど固いはずなのにwww
>モンスターじゃないだけで存在強度でいったら神話級なんですがwww
>もう笑うしかないなw
障害物がなくなったので、あとはまっすぐ階段に向かうだけだ。
「簡単に進めるので好タイムが期待できます。
前回回り道をしてしまった分、ここで取り返しましょう」
走っていくと、やがて階下に降りる道が見えてくる。
その穴の前に、巨大な翼をもつ影が立ちはだかっていた。
>嘘だろ……
>あれって……
>もしかして伝説の……
その姿は俺にも見えていた。
シオリも気が付いたのか、後ろで息を呑む気配がする。
竜の牙1本でドラゴン1匹分の強さになるのなら、竜の全身の骨を素材にすれば、いったいどれほどの化け物が生まれるのか?
その答えが目の前にいる、邪骨竜カースドドラゴンだ。
最強種である竜の力と、アンデッドの不死性を持った、最悪のモンスター。
人によっては最強の竜と呼ぶこともあるくらいだ。
そんな、冥界の森に君臨する最強の邪竜が、今俺の目の前で……
「あ、が、ぁ…………」
燃え尽き、そして倒れた。
>wwwww
>wwwww
>せっかく階段の前で待ってたのにwww
>戦ってすらあげないとかw
>これが、壁破壊を解禁したRTA走者の末路……
壁とボスの両方一掃できるので、このエリアは助かりますね。
では先に進みましょう。
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