第66話 世界の裏側から攻撃すればいい
階下へ降りる道を目指して広大な森を駆けていく。
森の奥へと進むほどに冥樹も増える。
光が呑まれているため周囲は真っ暗になっていった。
このあたりまでくると、洞窟のほうが明るいくらいだ。
光がなくてもサーチで地形を把握してるから問題なく走れるのだが、いまはシオリもいるし、配信画面も見えないだろうから聖炎の光を生み出して灯りを確保していた。
>配慮助かる
>アンデッドキングすら焼き尽くす聖炎が灯り扱いw
>贅沢すぎる
>なんで当たり前のように聖炎を出してるんですかねえ
>教皇とかそういうクラスの人でないと生み出せないはずなんですけど
>だってケンジくんだよ
>それで何でも許されるのズルいw
>もはや聖炎を出せる事には誰も疑問を抱かないw
なんでといわれても……聖属性の魔力で炎を作るだけだ。
難しい事は何もないと思うけど。
>時速100キロで足を動かせば時速100キロで走れると同じ理論
>拳をギュって握れば何でも壊せる人だから……
>ケンジくんだししょうがない
>これが……ダンジョンRTA……!
目的地は木々の隙間から遠くに見える巨大な木。
やがて辿り着いたそこにあるのは、見上げるほど巨大な樹だった。
下手な山よりもはるかに大きい。
もしかしたら、火山エリアのあの火山よりも大きいかもしれない。
>でっか
>これが樹……?
>山よりでかい樹とかあるのかよ
その正体は成長した冥樹だ。
あまりにも大きくなりすぎたため、別名「世界樹」と呼ばれている。
目指す場所はその世界樹の根元。
根の隙間に生まれた巨大な穴だ。
その穴自体は、世界樹の根の一本が枯れてできた空洞だといわれているが、それでも人が数人は並んで通れるほど巨大な穴になっている。
その穴を通じて階下へと進むのだが、その入口は無数の骸骨たちが守っていた。
サーチで数えるとちょうど100体だ。
もちろんただの骸骨兵じゃない。
そこから発せられる禍々しい気配は、先ほどまでとはまったく違う。
高位の死霊術師が、竜の牙を素材にして創り出したという魔法生物。
竜牙兵だ。
>でたよチート骸骨
>ドラゴンの牙から作ったんだからドラゴンと同じ強さだろという雑な設定
>牙1本でドラゴン1体分なら、牙30本で30体分になっちゃうよ
>ダンジョンはエネルギー保存の法則を知らないのか?
>ダンジョンってそういうところあるよな
まあそういう名前が付いてるってだけで、実際のところ本当にドラゴンの牙から創られてるのかどうかは知らないけど。
高位の死霊術師って誰だよって話だしな。
普通は先ほどまでと同じように聖属性の魔力で倒すしかない。
しかしドラゴンは魔法全体に耐性がある。
聖属性しか効かないのに聖属性に耐性があるという、最悪の相性を持っているんだ。
「あの異常に硬い骨を殴って粉々にするか、耐性を貫くほど強力な聖属性の魔法で焼き尽くすしかありません。
どちらにしても簡単ではなく、タイムをロスしてしまいます。
しかもそれが100体。数秒のロスは確実でしょう」
>数秒……?
>数時間の間違いでは?
>何を言ってるのかな……?
>時間の計算もできない小学生かな?
しかし今の俺には、秘策があった。
実は冥界ダンジョンを攻略していた時に、ある事に気が付いたんだ。
ちょうどそれを実行するときだろう。
俺は拳に冥界の魔力を再現してまとわせる。
何かに気付いたのか、竜牙兵の一体が俺に襲い掛かってきた。
意外に素早いその攻撃をかわし、竜牙兵の頭を叩き割る。
「ぎ、ぎ……」
骨が軋むような声を上げると、頭を砕かれた竜牙兵は、そのまま崩れ落ちていった。
>えっ?
>スケルトンが死んだ?
>アンデッドが、死ぬ……?
>そんなことある……?
>ケンジくん人間じゃなくて死神だった……?
コメントのみんなも驚いているみたいだった。
実は冥界ダンジョンを攻略していた時に、俺はある事に気が付いた。
それは、冥界のアンデッドたちは死ぬということだ。
こっちのようにどれだけ破壊しても再生して立ち上がる、といったことはなかった。
頭を破壊すると、それだけで死んでしまうんだ。
最初はよくわからないけどそういうものかと思ってたんだが、ふと気が付いた。
アンデッドは本体が冥界にある存在の事なんじゃないかと。
アンデッドは死なないんじゃない。
「死」を冥界に置いてるから、こっちでは「死な無い」。
そういうことなんじゃないだろうか。
ならば冥界にいる本体を叩けばいいだけだ。
といっても俺はシオリのように扉を開くことはできない。
なので、拳に冥界の魔力を再現した魔力を纏わせると、次元の壁を叩き壊して向こう側へと攻撃した。
現実世界で攻撃を当てると同時に、魔力を向こう側へと流し込んだんだ。
正面から攻撃しても倒せないなら、世界の裏側から攻撃すればいいじゃん。って感じかな。
思い付きだったけど、うまくいってよかった。
>今のどうやったの?
>聖属性の魔力じゃなかったよね?
「それはですね……」
冥界ダンジョンで攻略中に思いついたんだ、と言おうとして、それはコメントのみんなは知らないことを思い出した。
シオリもそのことは秘密にしてるし、俺が言うわけにはいかない。
シオリがじっとこちらを見てるのも、それが理由だろう。
下手に秘密を洩らしたら「お仕置き」されちゃう……。
「……」
シオリが「そんなことするわけないでしょ……」みたいな視線でこっちを見ていた。
ちょっと傷ついてる気もする。
ああ、そうだよな。
幼馴染だもんな。
そんなことするわけないよな。
疑ってごめん。
「べつにいいけど……」
視線を逸らしてくれた。
許してくれたみたいだ。良かった。
>視線だけでいちゃつくのやめてもらっていいですか?
>配信中なんですけど?
>見つめ合うと素直におしゃべりできないのか?
>会話も聞かせろお願いします
>いちゃつくところを見せるのがカップル配信ですよ
>無言配信する気か?
ええっと、俺たちはそういう関係ではないので……
「……」
ほら、変なこと言われたからシオリも顔を真っ赤にして怒ってるじゃないか。
顔どころか耳まで真っ赤にしてるし。
これは相当やばい。
シオリを怒らせたらマジでやばいんだからな。
コメントのみんなは見てないから知らないと思うけど……
「えーっと、方法はさっきなんとなく思いついたんです。
アンデッドの魂が冥界……世界の裏側にあるのだとすれば、次元を壊して世界の裏側から攻撃すればいいじゃんって」
>は?
>世界の裏側から攻撃すればいいじゃん???
>いやいや……
>そんな適当な……
>そんな雑なノリで次元を壊さないで欲しい
>軽率に世界壊してて草も生えない
>もはやジャンルがSF
>解説動画とはいったい
>解説はしてるよ。理解できないだけ。
>もっとまじめに解説してもらっていいですか???
>さすがに冗談でしょ?
「ではまとめて倒しましょう」
冥界の魔力を拳にまとわせ、それを大地に打ち付ける。
魔力の波動がショックウェーブのように広がって竜牙兵たちを薙ぎ払った。
「…………」
ガラガラガラガラ…………
一言も発することなく、骸骨たちが次々に崩れていった。
>一撃で全滅……
>竜牙兵だぞ……
>100匹のドラゴンと同じなのに……
>マジでアンデッドが死んでる……
>現実と世界の裏側の両方から攻撃する……?
>ちょっと何を言ってるのか……
>それがマジだとしたら……どうやって防ぐんだ……?
>わからない……世界の裏側が何かわからない限り、誰にも防げない……
>そんなの……最強すぎ……
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