第58話 やっと見つけた運命の人
アイギスの小さな体が墜落する。
地面に激突する寸前に受け止めた。
その体は想像以上に細くて軽い。
竜を纏っていたあの姿と同じとは思えないほどだ。
俺の腕の中で、アイギスがゆっくりと目を開く。
視線は俺から逸らされたままだった。
「……なんで、アタシなんかを助けるんだ?」
「冒険者は助け合うのが基本だろ」
「はあ? 頭お花畑か? お前を殺そうとしたんだぞ? 助け合う要素なんかどこにもなかっただろ」
「え? 殺そうとしてたのか?」
「……は?」
「戦うのが趣味の冒険者って聞いてたから、力試しみたいなものかと思ってたよ」
アイギスはポカンとした後、急に大声で笑い始めた。
「くっ……くくくッ……あははははは!
そうかそうか、お前にとってはあの程度じゃ殺し合いにもならないのか!
アタシの全力でぶちかましてやったのに、じゃれついた程度にしか感じなかったって?
そんなのってあるかよ! あはははははははははっ!!」
>アイギスが、笑ってる……?
>人の心なんてあったのか……
>ここだけ見れば普通の女の子なんだけどな
ひとしきり笑うと、笑いすぎたのか涙を拭っていた。
「はぁーあ。なんなんだよまったく。雑魚ばっかでずっと退屈で悩んでたってのに……まだまだ楽しめそうじゃねえか。
……よっと」
アイギスが俺の腕から飛び降りる。
「決めた。今はダンジョンの攻略中なのか? それとも修行でもしてたのか?
まあどっちでもいいか。アタシはあんたについてくぜ」
「そう言ってくれるのはうれしいが、悪いが今はRTA中でな」
「RTA? ってのがなんだか知らないけど、じゃあそれにアタシもついていく。それならいいだろ?」
RTA中に他の冒険者と会うことはある。もちろん協力することだって問題はない。
だが、一緒にRTAを走るとなると、さすがにそれは話が別だ。
シオリが一緒にいるのは、あくまで配信を手伝ってもらっているだけだしな。
ただの見学というなら、断る理由はないが……
「ちょっとあんた。今は配信中だし、勝手に入ってこないで。ケンジが困ってるじゃないの」
「雑魚は黙ってろ」
一転して低い声でシオリをにらみつける。
「アタシより弱いくせにアタシに指図するんじゃねえ」
「強さは関係ないでしょ」
「アタシたちにとって、強さ以外になにが必要だってんだ?」
2人が至近距離で睨み合う。
俺は慌てて二人の間に割って入った。
「お、おいアイギス。あんまりシオリを怒らせないでくれ」
「なんでだ? この女はお前の恋人なのか?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
「………………」
「じゃあアタシがもらってもいいよな!!」
そういって抱き着いてくると、14歳の少女らしい無邪気な笑みを浮かべた。
「ずっと探してたんだ。お前がアタシの運命の人なんだな!」
>あーあ……
>やっぱり幼馴染って……
>今は積極的な女の子の方が人気出る時代だから……
>幼馴染とかいうデバフ
>シオリちゃん強く生きて
>正直ケンジくんと一緒になっても苦労するだけだし……
>元気出して
その瞬間。
カメラが爆発した。
>え
>ちょ
>画面が
「………………」
──ガゴン。
響いたのは、扉が開く音のような、だけどまったく違う別の何かの音。
あえて近いものを選ぶならば、石棺の開く音だろう。
気が付けば周囲の風景が一変していた。
破壊され尽くしたダンジョンは跡形もなくなり、かわりに灰色の砂と灰色の空が無限に続いている。
「これ、は……」
「なんだここ?」
戦慄する俺の横で、アイギスが抱きついたまま不思議そうに周囲を見ている。
アイギスは知らないのだろう。
それも当然かもしれない。
なにしろここは、この世界のどこにも存在しない場所なのだから。
そこは生命の気配を一切感じない、荒涼とした冷たい砂漠。
霊魂が漂い、魂を凍らせる風が吹く、この世ならざる世界の裏側。
生有る者の禁足地。
冥界だ。
「ふふふ。あんた、勝手に来て勝手に暴れてケンジに負けたくせに、ずいぶん馴れ馴れしいわね?
このままハッピーエンドが許されると思ってるわけ?」
シオリ、さん……?
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